第56話 作戦会議で出発侵攻

 俺たちは会議を開いていた。


 魔公爵領が世界を支配することの会議だ。


「ミシリィ。ロントメルダに対する国交の調子はどうだ?」


「はい。まずは手紙でやり取りをさせていただいております」


「うむ」


 彼女は勇者の幼馴染だった僧侶の女の子だ。

 15歳だが、優しくて頭がいい。


「文面には気を遣っています。できる限り平和的に、あちら側にメリットがあるように書いています」


 いきなりモンスターを連れ込んでの交渉は高圧的になりやすいからな。

 手紙でクッションを挟みながら相手の反応を見る。

 当然といえば当然のやり方なんだが、彼女は自主的に考えて動いているようだ。

 任命当初に比べて表情が生き生きとしている。やはり、彼女に外務大臣を任せたのは正解だったもしれないな。


「ロントメルダからの返信は、随時、報告書に添付させていただいております」


「うむ」


「ロントメルダ領に存在する村々に向けても手紙を送っております。その中でも、私の故郷、ハジメ村とは順調です。近いうちに魔公爵領になるかもしれません」


「そうなれば、いつでも魔公爵城から自分の実家に帰れるな」


「はい。へへへ。提示するのはほとんどメリットしかありません。なので、ザウスさんの支配下になっても村人から恨みを買うことはないでしょうね。なので、気軽に故郷に帰れるようになりそうです。私を外務大臣に任命してくれて、本当にありがとうございます」


 彼女の報告書はカフロディーテとメエエルが中心になってフォローしている。

 人間界の侵略は、彼女たちに任せていればいいだろう。

 できる限り、負傷者がない状態で侵略するのがベストだな。


 さて、


「続いて、魔王軍の侵攻についてだ。ゴブ太郎。魔公爵領の外周はどんな状況だ」


「はい。監視クリスタルの状況は良好ゴブ。カフロディーテさまの協力でクリスタルの増設も実施したゴブ。今や300箇所近い場所を遠隔で監視することができるゴブよ。監視室は3部屋に増設。メエエルさんにシフトを組んでもらって、モンスター同士、代わりばんこで監視しているゴブ」


 ふむ。


「監視は万全ということだな。あれから敵の先兵はどうだ?」


「カクガリィダンの侵攻から音沙汰ないゴブね。定期的に周囲を巡回しているゴブが、これといって異常は見つかっていないゴブ」


「うむ。引き続き警戒を続けてくれ。ザウス重騎士団はどうだろうか?」


 俺の言葉に、豚の顔をしたモンスターが答える。

 食いしん坊のブゥ助だ。普段は食い物のことばっかりいってる呑気なやつなんだがな。会議の時は凛々しい顔を見せる。


「順調ですブゥ。オーク種だけで構成されたザウス重騎士団は魔公爵領内でも最強の防御力ブゥ。いつでも侵攻は可能ブゥよ」


「ふむ。いつでも戦える準備はしておいてくれ」


「お任せくださいブゥ」


「でも、侵攻はしないけどな」


「え? なんでですかブゥ?? おいどんたちは無敵の重騎士団ブゥ。無限ダンジョンで手に入れた強固な鎧を身に纏って、並みの攻撃は通らないブゥ。武器は大槌。たった一振りで大木もへし折る破壊力なんだブゥ。いつでも攻撃可能ブゥよ」


「うん。おまえたちの力は信頼している」


「へへへ。だったらお役に立ちたいブゥ」


「しかし、重騎士はあくまでも防御役だ。魔王軍が侵攻してきた時のな。ザウスタウンの領民はもちろんのこと。魔公爵領の田畑にダメージがあるのも困る。できる限り被害は最小限にしたい。敵の攻撃を防ぎ、魔公爵領を守ってくれ」


「お任せくださいブゥ! ……しかし、そうなると魔王領への侵攻は誰が先陣を切るんだブゥ?」


 フフフ。

 実は、すでに考えてあるんだよな。


「入ってくれ」


 俺の呼びかけで会議室の扉が開く。1人の女の子が入ってきた。


「彼女はスターサ。勇者セアのスパイ役として活躍してくれていた子だ」


「よろしくお願いします」


「彼女を魔王領に対する外務大臣に任命する」


 アルジェナは眉を上げた。


「なるほどねぇ。人間の領土はミシリィに。魔王領はスターサに国交をさせるわけか」


「ああ。そういうことだな」


「じゃあ、徹底的に、人間たちとは戦わないつもりなのね?」


「うん。俺の支配下になるのなら被害は最小限。鉄則さ」


「ふふふ。流石はザウスね。徹底してるぅ」


「魔王領には人間の住む場所が多いからな。スターサに間に入ってもらって不戦状態で支配する」


「人間にしてみれば災難だもんね。魔族同士の戦争に巻き込まれる形なんだからさ」


「そのとおりだ。人間に罪はない」


「でも、簡単にこっちに寝返ってくれるかしら?」


「俺の支配下になる場合はメリットを重視する。年貢の緩和を筆頭に、魔公爵領で生産される資源の提供を提示するんだ」


「なるほど! ザウスタウンの生産品や部下モンスターが作ってる農作物は上質な物ばかりだわ! そんなのが手に入るならメリットしかない!!」


「くわえて部下モンスターによる絶対の安心を提供する」


「重騎士団の出番ってわけね」


「防御は徹底する。魔王軍からの攻撃は確実に防ぐ。人間たちに被害は出さないつもりだ」


 大賢者のカフロディーテは、眉を寄せた。

 まるで、夏休みの宿題を大量にやり残した小学生のような表情を見せる。


「領土が増えるのはいいことじゃがのぉ。それだけ、監視と警備の領土が増えるということになるのじゃぞ」


「ああ。だから、部下モンスターは何匹いても腐らない。いくらでも欲しい」


 世話係のメエエルは資料をめくった。


「ザウスさまが以前から提唱されていた10匹っ子政策ですが、見直しが必要でしょうか?」


 10匹っ子政策。

 これは俺が打ち出した計画だ。

 モンスター夫婦はつがいになって子供を産むわけだが、調査したところ、産むのはだいたい5匹前後くらいだった。理由はそれ以上産むと生活が苦しくなるからだ。

 だったら、子供を多く産んだモンスター夫婦にはメリットを与えてやればいい。

 10匹以上産んだ夫婦には毎月の扶養所得以外にも賞与を与える政策だ。決して強制ではないんだがな。子沢山のモンスターには魔公爵城からのたくさんの援助が出る。子供を多く産んでくれた家族には多大なるメリットがあるんだ。そうすると、モンスターはドンドン増えてくれるんだよな。


「よし。20匹に底上げしよう」


「20匹っ子政策に変更ですね。承知しました」


「のぉザウス。子供モンスターが増えれば教育が困るのではないのかのぉ?」


 ああ、流石は大賢者だ。

 それは以前からの悩みだった。

 魔王軍との戦いは長期戦になるかもしれない。

 それなら将来に対する投資は必要か。


「子供モンスターが伸び伸びと暮らすのはいいが、統率が難しそうじゃ」


「これを機に学校を作ってもいいかもしれんな」


「え? モンスターの学校か?」


「そうだ。そもそも、魔公爵領は戦闘タイプのモンスターと農業タイプのモンスターとで2種類のタイプが存在する。自分の将来をモンスターに選択させるのなら、学校を作って、子供の時に教育している方がいいだろう」


「モンスター学園か……。戦闘科と農業科。ふふふ。面白いかもしれぬな。しかし、よくそんなアイデアが湧いてくるもんじゃなぁ。ザウスは天才かもしれん。1100年生きてきたわしでも絶対に思いつかん考えじゃよ」

 

 ははは……。

 まぁ、一応は義務教育を卒業して三流大学を卒業しましたので。その名残かと。


「じゃあ、学校はカフロディーテに担当してもらおうかな」


「え!? わ、わしぃい?」


「嫌か?」


「ザウスはわしにやって欲しいのかえ?」


「ああ。おまえが一番適任だと思ったんだが」


「うう。お主に頼まれたら断るはずないじゃろう。だって、ザウスはわしの将来の……グフフ」


「他に頼むか……」


わしがやるのじゃ!」


 やれやれ。


 しかし、楽しいな。

 領土の発展を考え出したらわくわくが止まらん。

 

 よし。

 話を戻そう。


 俺は会議室の壁に貼り付けられた地図を指差した。


「じゃあ、早速、領土を広げたいと思う」


 つまり、魔王領の侵略だ。

 俺の領土からほど近い場所からやっていこう。


「ここにヨルノ村という村がある。手始めはここからだ。スターサできそうか?」


「はい! 頑張ります!!」


 うむ。

 彼女には部下モンスターの護衛を充実してやろう。

 もう、人質になるのは懲り懲りだろうしな。あんな苦い経験は2度とさせたくないよ。

 それに頑張った対価は必要だろう。


「この村はスーブッタという料理が名産でな。パイナプールが入っていてとても美味いんだ。支配下になれば食べ放題になるぞ」


 みんなはジュルリと唾を飲み込んだ。


 ふふふ。

 スーブッタとは、まぁ、いわゆる酢豚のことだな。

 ヨルノ村が支配できればザウスタウンでもスーブッタが流行ることだろう。


 さぁ、出発侵攻だ。

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