第54話 魔王は最強の力を手にいれる?

〜〜魔王視点〜〜


 ブラァアアア……。

 

 われには 魔王壁デヴォルウォールがある。

 これは魔王種だけに与えられた強力な魔法結界。これがある限り、魔族はわれにダメージを与えることができん。

 しかし、ザウスのレベルは24万か……。


 対するわれはレベル999。

 うううむ。これではレベル差がありすぎる。

 決して負けはしないが、勝つこともできぬだろう。

 いくら頑張ってもダメージが通らない気がする……。


 こ、こうなったら最後の奥の手を使うしかない。

 最初の奥の手は、この『残酷な天死の鎌』だった。これは寿命が半分になってゲットした武器だ。

 装備することでレベルを333も上昇させることができる。

 しかし、レベル999になっても無意味だった。なにせ、ザウスのレベルは24万なのだからな。


 こうなったら、最後の奥の手を使う。

 

 われは魔王城の最深部に行った。

 そこは厳重な結界が張られており、中に入るには寿命を半分も減らさなければならない。

 

 うう。

 この鎌を手に入れるのに寿命が半分の50年になったのだがな。

 さらに半分か……。に、25年。


 ええい。

 そんなことより、クソッたれの裏切り者、魔公爵ザウスを倒すためにはここに入らざるを得ないのだ。


 われはその場所に入った。


「ぐぉおおおッ!! 魂が吸われるぅうううううう!!」


 うう……。

 い、今、確実に寿命が減った……。

 ぐぬぬぬぅ……。こ、これで残りの命は25年か。

 仕方ない。ザウスが倒せるのならばこんな苦難。われは魔王なのだ。乗り越えてやる。ブラァアアア!!


 部屋の中には大きな渦が巻いていて、それは暗黒の禍々しいオーラを放っていた。


「ククク。この渦は異界の魔王と交信ができるのだ」


 さぁ、われは求め訴える。

 他次元の魔王種よ。同胞を助けたまえ!


「魔王カモーーーーン、ブラァアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 すると、渦の中から1人の男が現れた。

 

 一見すると普通の人間のように見える。

 だが、その姿は美しくわずかながら肌が輝いているように見えた。


 あ、あのお姿は……。タレ目のイケメン。


「ぬおおおおおおおお!! イケメンダールさまぁあああああ!!」


「やぁ」


 気さくに挨拶をされる。

 この方こそ、魔王種の中では最強格。

 魔王会議の時には、遠隔の映像で見た限りだったが……。実際に会うと小さいな。

 人間の男と同じくらいか。

 

「ヘブラァ王とは初めて会うね」


「はいぃいいい!」


 彼はわれを見上げて、屈託のない笑顔をお見せになった。


 それにしても美しい。

 薔薇の花びらが似合う魔王種はこの方だけだろう。


「この次元の魔王は大きいね。魔王会議では遠隔映像だったから大きさはわからなかったけどさ」


「きょ、恐縮であります。ブラァアア!!」


「ははは。で? 僕を呼んだ理由はなんだい?」


 われはザウスのことを伝えた。


「へぇ……。レベル24万。この世界のレベルは999が限界でしょ? 強すぎるよね」


「ブラァアアア!! そうなのです!! 反則です!! 一体、どうやって、あんな力を手に入れたのやら!?」


「うーーん。考えられるのは『レベルの限界突破』だね。一時的に他の次元と空間を繋げて、身体能力を多次元の上限値にすり替えるんだ」


「ほぉおおお!! そ、そんなことができるのですか!?


「魔研究に詳しいならね。おそらく、僕のいる次元と繋げたんじゃないかな」


「な、ならば……。上限値は……」


 お、おそろしくて震えが止まらん。

 とんでもないレベル数値だ。


「うん。多分。レベル99万が上限値じゃないかな」


「きゅ……。99万……。あわわわわわわ」


「ははは。まぁ、そう怖がらないでよ。同じ魔王種なんだからさ」


「きょ、恐縮であります」


 うう……。

 眼前にいるだけで恐ろしい方だ。

 同じ種族で良かった。


 魔王種は闇のパワーバランスを保つ役目を担っている。

 魔王種が存在しなければ世界は崩壊する。

 勇者族のように、光の力だけでは世界は成立しない。なにごともバランスなのだ。

 それは天秤のように、平行に……。

 世界の秩序を保つためにも、魔王種は協力し合う特性を持っているのだ。


「じゃあ……。もしかして、僕にその魔公爵を倒して欲しいとか?」


「は、ははは……。いや、なんとも情けない」


魔王壁デヴォルウォールは作動してるんだよね?」


「え、ええ……」


「ははは。なら負けはないか。でも、相手のレベルが24万。ダメージが通らなくて倒すことができないよね」


「面目ない」


「24万かぁ……。まぁ、僕なら余裕だけどさ」


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!! ブラァアアアッ!!」


「でも、他次元の魔王が、この世界に干渉しすぎるのもどうかと思うんだよねぇ。力の崩壊は怖いでしょ?」


「うう……。た、たしかにぃ」


「君が倒せばいい話だよね。ふふふ」


「し、しかし、われはすでにレベルの最高値。これ以上は強くなれませぬ」


「だったらさ。ふふふ。僕が強くしてあげるよ」


「え?」


「限界突破……。すればいいじゃない」


「で、で、できるのですかぁああああああああ!?」


「僕を誰だと思っているの?」


「ふぉおおおおおおおおお!! 流石はイケメンダールさまですぅうううううううううう!!」


「問題は経験値なんだよね。上限値を上げたとしてもさ。マックスにするには、この世界の経験値じゃ何百年とかかるかもしれない」


「ぬぐおおおお……」


 われの寿命は残り25年……。

 マックスになれずに死んでしまうではないか。

 うう……。しかし、そうなると、ザウスはどうやって……?


「やつはどうやって、レベル24万にまで到達したんでしょうか?」


「独自の修行があるのかもね。経験値を大量に取得するさ」


「ううう……。やはり、われでは無理のようです。ここはイケメンダールさまのお力を借りるしか……」


「いや。そうでもないかもね」


「なにか方法があるのですか?」


「『吸魔の法』を使えばいいのさ」


「そ、それは……禁術」


「ふふふ。まぁ、そうだね。部下モンスターの命を吸い取るんだからさ」


 吸魔の法。

 それは部下モンスターを吸収して、そのレベルを自分のものにするというもの。


「部下モンスターの命なんてどうでもいいでしょ?」


「それは……。まぁ、そうですね」


「ふふふ。この世は魔王種が一番なんだよ。部下モンスターの命なんて、部屋の隅っこに溜まる埃よりも価値が低いんだ」


「ええ。ははは。おっしゃるとおり。魔王種が一番でございます」


「部下モンスターなんて殺して殺して……。ふふふ。自分の力に変えちゃえばいいのさ」


「ははは! ですね!!」


 いいぞ。

 希望が見えてきた!!

 魔公爵ザウスよ。首を洗って待っていろ!!




〜〜魔公爵ザウス視点〜〜


ガシィーーーーン!

バシィーーーーン!

ドドドドーーーーン!!


 これは魔公爵城の訓練場から響く音だ。


「ザウスさま。お茶が入りました」


 と、世話係のメエエルがお茶をテーブルに置く。

 そのお茶の水面がユラユラと波立つほどの激しい接触音。


 今、俺の感覚は研ぎ澄まされて、そんな状況すらも把握できる。

 メエエルのわずかな心音さえも聞こえる。トクントクンと。


 俺は戦っていた。


 創世の魔法で土から作った自分の分身。

 肌は土だが、その容姿は俺にそっくりだ。

 もちろん、戦闘力も。


ガシィーーーーン!

バシィーーーーン!

ドドドドーーーーン!!


  飛行フリーゲンの魔法によって宙に浮き、自分の分身、土人形と戦う。

 これがもっとも効率のいいレベル上げの方法だ。なにせ、部下モンスターたちは、軒並み1000以下のレベルだからな。

 俺との戦いについてこれる者が存在しないんだ。わずかな力を入れるだけで部下を消滅させてしまう。よって、自分の分身と戦うのが、もっとも効率のいい方法となっている。


 現在のレベルは8000。


 レベル9999のカンストまではあと少しだ。


「ザウスさまーー。もう5時間も休憩されておりません。あまり根を詰めすぎますと、お体に毒ですよーー!」


 わかっている。

 わかってはいるが胸騒ぎがする。


 この感じ……。

 勇者セアと戦った時と同じだ。


 カクガリィダンの尖兵、ランドソルジャーは取り込むことができた。

 俺が鍛え上げた部下モンスター、ゴブ太郎は、カクガリィダンにも余裕で勝てた。

 この世界のカンストレベルは999だ。

 ブレクエのストーリーでは魔王のレベルは666だった。


 レベル8000の俺ならば余裕だ。

 その上、ステータス強化2倍の設置スキルが発動した状態で、デーモンソードを装備し、ダークスラッシュを使えば、実質レベルは32万だ。

 圧倒的に余裕だが……嫌な予感がする。


 勇者セアと戦った時もそうだった。

 やつは人質を取って俺に向かってきた。

 大賢者カフロディーテと孤児の少女スターサ。

 俺が油断して、うっかりセアを倒していたら、2人は殺されていただろう。

 俺自身が倒されることはなかったかもしれないが、少なくとも、2人の仲間を失って、一生消えないトラウマを植え付けられていたのは確実だった。死よりも恐ろしい結末。

 そんな状況を回避できたのは、俺が手を抜かなかったからだ。

 

 どんなにレベル差があろうと、絶対に油断してはならない。

 それはイコール死に繋がる。

 油断はしない。石橋を叩くように、慎重に進む。


 そして、俺は強くなる。

 全ての部下を守れるくらいな。

 絶対に、俺の部下を殺させたりなんかしない。

 何人たりとも、俺の貴重な労働力を奪うことは許されないのだ。


 俺は最強の支配者になる。

 中ボスである俺が、魔王に勝って、この世界を支配するんだ。


 もっと強く。

 もっともっと強くならなくてはならない。

 確実に、絶対の勝利を確信するまでは。

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