第50話 マジメットとカクガリィダン

〜〜水組隊長 マジメット視点〜〜


 わたくしは魔王領にあるヨルノ村にて、スパイ骸骨の報告を待っていた。


 どうせ、カクガリィダンのことです。抜け駆けして、自分だけ手柄を立てようと、早めに進軍したに違いありません。


 今は、この村の酒場で昼飯を食べているところです。


 この豚肉の揚げ物にトロリとしたあんがかけられた料理。名前をスーブッタという。


「真面目な話。酸っぱくて甘味があってまぁまぁの味ですね」


 ヨルノ村のスーブッタ。真面目な話、悪くありません。また、食べたい味かもしれませんね──。


「ん? この食感……。な、なんでしょうか……? グニュっと甘い物が……」


 スプーンには黄色い果肉が乗っていた。店主はそれを見て笑う。


「うちのスーブッタには隠し味でパイナプールを入れてるんでさぁ。豚肉が柔らかくなって美味しくなるんでさぁ」


 な、なんですってぇえ!?


「店主ぅうう!!」


「へ、へぇ? どうしたんで?」


「パイナプールはデザートでしょうがぁ!!」


「は、ははは……。そ、そりゃあ、まぁ、そうなんですが……。パイナプールはあくまでも隠し味でして」


「真面目な話、全く隠してないでしょうがぁ!!」


「そ、そんなこと言われても」


 こんなこと、真面目な話、許せないです!


「マジマジ、マジメット!!」


 わたくしが手をかざすと、店主の顔の周りに水の塊がまとわりついた。


「ぎゃああッ!! ゴボゴボッ!!」


「真面目な話。スーブッタはパンに合うおかず! パイナプールはデザートです!! 一緒にするなんて言語道断! 不謹慎極まりない!! 今後、客に提供する時は、別々で分けるように! いいですね!?」


「おぼ、おぼ、溺れる! ゴボゴボ!」


「返事は!?」


「へ、へい……。そうしやすから助けて……ゴボゴボ」


 やれやれ。


 わたくしがパチンと指を鳴らすと、店主の顔にまとわりついていた水の塊は消滅した。


「た、助かった……」


「次に、ゲテモノを食べさせたら、真面目な話、ぶっ殺しますからね。以後気をつけるように」


 ああ、まだパイナプールの感触が口の中に残ってるわ。おぇええ。


 と、そこへ、


「マ、マジメットさまぁ〜〜コツゥ」


 偵察に出していたスパイ骸骨が帰ってきた。でも、妙に力がなくて、ヨレヨレで弱っている。


「どうしたのですか? 戦闘でもしたのですか?」


「わ、わた……。私は見てしまったでコツ」


「なにをです?」


 スパイ骸骨はブルブルと痙攣し始めた。

 そして、その震えによって各箇所の関節を外し。


バラバラバラバラバラーーーー!!


「ああ! スパイ骸骨が崩れたぁああああ!!  上級ハイ 回復ヒール!!」


 スパイ骸骨は元の体に戻った。


「一体なにを見たというのです?」


「こ、こんなことがあるコツか? ハワハワハワ……。コツコツ」


 ああ、また痙攣し始めてる。

 真面目な話。これじゃあ、また骨の山になってしまいます。


「ええい。ちょっと頭を貸しなさい!」


 わたくしはスパイ骸骨の頭をもぎ取った。

 彼の脳にはわたくしの魔力が投影されるように魔法をかけておいたのです。


「記憶再生! マジマジ、マジメット!」


 スパイ骸骨の目は光り、空中に映像を映し出した。


 どうやら、土組の隊長、カクガリィダンとザウスの部下モンスター、ゴブリンの対決のようです。


 このゴブリン。なんだか、妙に強いけど。

 一体レベルはなんレベルなんでしょうか?


 スパイ骸骨はゴブリンのステータスも見ていた。

 

「え!? レベル280!?」


 ま、真面目な話、あり得ないです。

 わたくしのレベルでも212。とても勝てる気がしません。


 しかも、映像はとんでもないものまで映していた。


 ゴブリンが金色のオーラを発してパワーアップ。筋肉が肥大。

 そのレベルは2倍になったのです。



「ええええええええええええええええ!? レベル560ぅうう!?」



 いやいやいや……。

 魔王さまでもレベル400なのに、その上ぇえええ?

 これは現実ぅ? 真面目に夢?


 スパイ骸骨が震えるのもわかった気がします。


「なんですか、このゴブリン……。真面目な話。強すぎでしょう」


 距離があるので、魔望遠鏡から見えた景色のみの映像。音声がないのが悔やまれます。

 いや、それにしても、このゴブリンのステータスだけで十分に尖兵をさせた甲斐がありました。


「よくやってくれましたスパイ骸骨」


「は! 頑張りましたコツ」


「では、褒美としてこれをあげましょう」


「おおおお! これはぁああああ!?」


 それはクッキーが入った箱。

 パッケージには『食べっこゴブリンマーチ』の表記。

 魔王領で大流行りのお菓子。もちろん、上級魔族しか食べることはできない。

 クッキーにゴブリンの絵が描いていて、その中にはトロッとしたチョコレートが入っている。

 しかも、ゴブリンの絵にはパターンがあって、中にはレアな絵も混ざるというものです。


「でへへ……。な、何個もらってもいいのでしょうかコツ?」


「そうですね。真面目な話。活躍したので3個。許可しましょう」


「ええええええええええ!? 3個もぉおおお!! う、生まれて始めてですコツぅううう!!」


「さぁ、早く取りなさい」


 スパイ骸骨は肩を躍らせた。

 やれやれ。そんなにワクワクしていると、また関節が外れて骨の山になりますよ。


「ああーー! 眉毛ゴブリンだぁああああ!! 見てくださいマジメットさま。ほらほらぁ! 眉毛ゴブリンコツぅうう!!」


「はいはい。レアなやつですね。それは良かったです」


 さて、魔王城に戻りましょうか。


 わたくしは魔法陣を作成した。


「マジマジ、マジメット! 飛来鳥。召喚!」


 その魔法陣から出現したのは大きな鳥のモンスター。


「スパイ骸骨は監視を続けてください」


「マジメットさまはどうされるコツ?」


わたくしは魔王さまにこのことを伝えに行きます」


 嫌な予感がします……。

 部下モンスターのゴブリンでこのレベル?

 じゃあ、主人であるザウスはどれほどのレベルなの??


「……できればザウスのステータスを映して欲しいです」


「それは以前、他のスパイ骸骨が担当して、隠蔽の魔法で見えなかったと報告があったコツ」


「ザウスのステータスがわかれば4個あげますよ」


「え!? よ、4個も!? 食べっこゴブリンマーチを4個もですかコツ!?」


「ええ。情報をゲットできたらです」


「が、頑張るコツ!」


 よし。急ぎましょう。


「飛来鳥! 真面目な話。フルスピードで魔王城に向かってください!」


 親愛なる魔王さま。

 真面目な話。大変なことになっておりますよ!




〜〜土組 隊長 カクガリィダン視点〜〜


 私は宿屋のベッドでうずくまっていた。


「うう……。ガチガチガチガチ……」


 お、思い出しただけでも震えが止まらん。

 レベル560のゴブリン。

 1発1発が骨を砕く、重い拳の連打。


『ゴブゴブゴブゴブゴブッ!!』


 ひぃいいいいいいいいいいいいい!!


 お、思い出しただけで、震えが止まらん。


 し、しかし、こんな場所で隠れているわけにもいかん。


 き、規律を正して考えるのだ……。


 このままではマジメットに先を越されそうだが……。

 やつのレベルは私と同等程度。そのまま挑めばレベル560のゴブリンの餌食になるか。

 ククク。そう考えれば邪魔者が排除されていいかもしれん。

 しかし、あのゴブリン……。ゴブ太郎とかいったか。

 あいつであのレベル。だとすると、主人であるザウスは更に上なのか?

 雑魚魔族のはずが……。魔王さまより強いとか?


「ガチガチガチガチガチ……!」


 い、いかん!

 想像しただけで震えが止まらん。


 お、落ち着けぇ。

 規律を正すんだぁああ。


 まずは、このことを魔王さまにお伝えして……。

 いや、このまま伝えるのはまずいか。

 私の尖兵100体のランドソルジャーが全滅してしまったんだからな。

 ただ、私1人が逃げ帰ってきたことがバレてしまう。


 なにか、手柄が必要か……。

 できれば、裏切り者ザウスのレベルを知りたい。

 そうだ……。倒すことはできなくても、ザウスのレベルがわかれば、それが魔王さまへの有益な情報になる。


 たしか、以前にスパイ骸骨が調べて隠蔽の魔法がかかっているといっていたな。

 ザウスに近づいても、やつのレベルを知ることはできないのか。

 ならば、ザウスを知っている者から情報を買うという手がある……。


 ザウスをよく知っている者……。


 そうだ。


「勇者だ」



────

お待たせしました!

次回。元勇者セアが登場します!

彼の境遇をみんなで確認してみましょう。

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