第51話 元勇者の生活

 勇者セアならザウスのことをよく知っているはず。

 勇者はザウスに殺されたから……。


 遺体はどこだろうか? 

 アンデットの秘術で復活させてやる。

 ククク。流石は私だ! ザウスの情報はアンデットになった勇者に聞けばいい!

 規律正しく、勇者を復活させてやるわ!!


 グハハハ!

 裏切り者の雑魚魔族がぁ!


 ご丁寧に魔公爵、などという高貴な身分が与えられているがなぁ。貴様の一族は魔族の中では落ちこぼれよぉ。弱すぎて辺境の地に追いやられた雑魚魔族なのだぁ!!

 エリートはこの私! 魔王軍親衛隊の隊長であるこの私なのだぁぁあッ!!


 ゴブリンを少々強くしたからっていい気になるなよ。貴様の隠している秘密を暴いてやるわ! 規律正しく考えるのならば、隠蔽魔法によってステータスを隠しているにはわけがあるんだ。ククク。そうだよな。魔王さまより強いんなら、わざわざ隠す必要なんて何一つないのだからなぁあああッ!!


 ビビってんだろう? ザウスゥウウ?

 ククク。だから隠してるんだよなぁ? もしかして、あのゴブ太郎より下のレベルとか? ククク。


 じゅうううううぶんに考えられる!

 隠す理由は自信の無さからだ!

 奴のレベルはゴブリンより下!!


 ククク。

 ゴブリンの尖兵はブラフだろう。騙されるところだったよ。規律正しく考えるのならば、ゴブリン1匹で来るなんておかしいのだ。まんまと騙されるところだった!


 ククク。臆病者のクソ雑魚ザウスよ。

 貴様の秘密を暴いてやるぞ!

 どうせ、大したレベルではないだろう。

 貴様の情報は即刻報告させてもらう。

 そうして、魔王さまに貴様をぶっ倒してもらうのだぁ! ついでにあのクソゴブリンもなぁあッ!!


 首を洗って待っていろよぉ!

 グワァーーハッハッハッ!!


 完ッ全にィイイイ!!

 100パーセントォ!!

 私の勝ちだぁぁぁぁぁああッ!!



 私は隠者のフードを被ってロントメルダ領に入ることにした。


 ふふふ。

 このフードは魔族の魔力を包み隠す効力があるのだ。

 これを着ていれば、魔法結界のある人間の領土にも簡単に入れてしまう。

 まぁ、薬売りの渡り業者だとでも名乗れば正体はバレないだろう。ククク。


 勇者セアはハジメ村の出身だという。


 私は村を訪ねた。


 うーーむ。

 墓を見て回ったが、歴代の勇者の墓しか見つけられなかった。

 セアの墓は別の場所にあるのか?


 村長に聞いてみるか。


「ほぉ。薬を売って旅をしておられるのですか?」


 70代くらいのじじぃだ。

 人の良さそうな笑顔を見せる。

 適当に笑顔を振りまいといてやるか。


「ええ。この村には勇者さまがおられたとか。一度、お会いできたらと思いましてね」


 勇者セアがザウスに倒されたのは知っている。

 ならば、死体が埋葬されている墓があるはずだ。

 その死体をアンデッドの秘術で復活させれば……。ククク。


「勇者……ですか。話せば長くなりそうですしなぁ。どうです? 上がってお茶でも」


「え? ええ……。まぁ、では……。お邪魔します」


 別に長話をしに来たのではないのだがなぁ。


「あなたの売っているという薬の話を詳しく聞きたい。この村には薬が不足しておるのですじゃ」


「は、はぁ……」


 クソジジィ。

 早くセアのことを教えろよ。


「ゆっくりしていてくださいな。わしは少し厨房を見てきますので」


 テーブルの前に座っていると、1人の男がお茶を持ってきた。


「ど、どうぞ……」


 この男……。右手の甲に奴隷紋があるな。

 村長は奴隷を所有しているのか。


 薬の話か……。

 まぁ、怪しまれないように薬は用意しておいたがな。

 ふふふ。こういうところも規律正しく。私に抜かりはないのだよ。


 村長が戻ってくるまでの間にテーブルに乗せておくか。


 粉薬。塗り薬。そして──。


「子供にも食べやすい、お菓子の薬。飴にしてるので舐めるだけでいい」


「飴ぇえええええええええええええ!?」


 え?

 

 急に奴隷の男が声を出した。


「あ、あ、飴……。飴ぇ……ガチガチ」


 なんだか飴に酷く怯えている。

 なにかあったのだろうか?


 男は手が震えて食器を床に落としていた。


「ああああああああ!! やってしまったぁああああああ!!」


 ははは。

 まぁ、奴隷だからな。主人に怒られるか。


 などと思っていると、その男は私に向かって土下座を始めた。


 え? なぜ私に??


「もうしわけありません! もうしわけありません!! 命にかけて反省します!!」


 そういって、何度も額を地面につける。


「いや……。わ、私はなにも……。まぁ、少しだけ驚いただけで」


「ひぃいいい! お、驚かれたのですか!? もうしわけありません! もうしわけありません!! お許しください。お許しくださいぃいいい!!」


「いやいや。もう大丈夫なので気にしないでください」


「許していただけますか?」


「ええ。許すもなにも……。ははは。気にしていませんよ」


「ああ! あなたはお優しい方だぁああああ!!」


「…………」


 なんなんだこの奴隷……。妙に情緒不安定だな。


 すると、男は天に向かって祈り始めた。


「ああ。お客さまに感謝。今日という日に感謝。感謝、感謝、感謝──」


 おいおい。大丈夫か?


「──村長さまありがとうございます。村長さまのおかげで今日も命がつなげております。村長さまのおかげで私が存在しております。私は下等な生き物です。生まれてきてごめんなさい」


 村長の教育か?

 度がすぎるだろ。

 

 と、そこに村長が戻ってきた。


「フォッフォッフォッ。うちの奴隷がなにかご迷惑をおかけしましたかな?」


 笑顔、怖ッ!

 こ、こういうやつが一番ヤバいんだ。

 こんなところ、すぐに出たいな。


「おまえはお客さまに迷惑をかけたのかい?」


「い、いえ! お許しをいただきました!」


「ほぉ……」


「世界に向けて感謝の言葉も述べました! 村長さまにも謝罪しました!!」


「何回?」


「さ、3回以上です!」


「よし」


 怖ぁああああああああああああああッ!!


 なんだここ!? この村長、怖すぎだろ!! 


「フォッフォッフォッ。奴隷の教育はしっかりしませんとなぁ」


 ひぃいいい……。

 満面の笑みでこっちを見るなぁああああ。


「さて。私は旅の方とお話をするからね。おまえは出て行きなさいセア」


「はい。失礼します」


 ん?

 今、セアっていわなかったか?

 ゆ、勇者と同じ名前だが……?


「ああ、気づかれましたか。あの者が元勇者だった男ですじゃ」


 えええええええええええええええ!?

 アイツかぁあああああああああいッ!!


「ゆ、勇者セアは死んだのでは?」


「……ふむ。まぁ、そうですな。死にましたな。フォッフォッフォッ」


 いや、だから笑顔が怖いんだってば。

 

「彼は生まれ変わったのですよ。真人間にねぇ」


 真人間……。


 すると、厨房の奥の方で彼の声が聞こえてきた。


「村の者に感謝! みんなに感謝! 仲間に感謝! そして、一番は村長さまに感謝です! 生まれて来てごめんなさい!!」


 真人間というか……なにか違う存在になっているように感じる。


 いや、そんなことはどうでもいい。

 勇者セアが生きているのなら話は早い。

 

「あの……。勇者さまと2人きりでお話しがしたいのですが?」


「ほぉ。あんなとですか?」


 いや、言い方よ。


「えーーと。ここに並べた薬を差し上げます! どうですか?」


「なんと! こんな貴重な薬を! いいでしょう。では──」


 と、目を細めて、




「5分だけ。会話を許可しましょう」




 短かッ!


「セアにはね。休憩はないのですよ。彼は働き続けなければならない。そうやって罪の償いをする必要があるのですじゃ。フォッフォッフォッ」


 うう。

 やっぱり、この村長は普通ではないな。

 とにかく、許しが出たんだ。セアから魔公爵の秘密を聞き出してやる。


 私とセアは村長の家の裏庭に行った。

 どうやら、ここが2人きりになれる場所らしい。


 彼は、入念に、何度も視線を動かした。そして、周囲に誰もいないことを確認してから、私の体にすがりついた。




「助けてくれぇええええええええええええええ!! ここは地獄だぁああああああああああ!!」


 


 ああ……。なんか可哀想。

 それにしても、どうしてこんなことになっているんだ?



 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る