第45話 魔公爵とミシリィ

 今は魔王討伐に向けての作戦会議中。

 ミシリィは浮かない顔をしていた。


 彼女は勇者セアの幼馴染であり、職業は僧侶だ。

 年齢は15歳。年齢に反して体はずいぶんと成熟しており、特に胸は大きい。

 でも、清潔感があって、清楚で可憐な美少女だ。


 彼女はセアに失望して自殺を図った。

 俺は、そんな彼女を助けて、この魔公爵城に住まわせている。

 なにせ、彼女の同郷であるハジメ村にはセアがいるからな。彼女としては帰りにくいようだ。

 俺は魔族なので、こんな少女がどうなろうと別に構わないんだがな。会議の時って元気のない人がいると、それだけで全体の空気が落ち込んだりするからな。今は魔王討伐に向けて活気ある意見が欲しい状況なんだ。会議を盛り上げるためにも彼女に声をかけてやろうか。これは心配ではなくて、魔王討伐に向けての、もっとも効率のいい選択なのだ。


「どうしたミシリィ。浮かない顔だな?」


「あ……。ザウスさん」


「どうした? 遠慮なく意見していいんだぞ」


「私のレベルは、たったの10です。みなさんより弱いし、それに魔公爵領のこともさっぱりわかりません」


 そうか。

 新参者の彼女ではこの場所は荷が重い。


「じゃあ、部屋で休んでいればいいよ。無理するな」


「そんな……。私……。ザウスさんに助けてもらってばかりです。なにかお役に立ちたいんです」


 うーーん。

 たしかに、無条件で城内にいるのは彼女にとっても気が引けるか。


「私……。小さい頃から村の周辺しか知らなくて。街といったら王都ロントメルダくらいしか知りません。こんな世間知らずの小娘じゃ、ザウスさんのお役に立てませんよね。はぁ……」


 そうか。

 彼女が冒険をするのは勇者セアとだった。

 冒険の旅を通じて彼女は大人になっていくんだ。

 彼女の可能性を潰してしまったのは俺の責任でもあるな。

 ロントメルダしか知らない……か。

 待てよ。


「そういえば、ロントメルダの国王がザウスタウンの解放を要求していたな」


「はい。ザウスさまが町長に相談されて、領民が猛反対をしたんです」


「しかし、ザウスタウンの領民の中には、ロントメルダ領に家族がいる者もいるよな?」


「ええ。しかし、領民のみなさんは魔公爵領を出たがりませんよ。ザウスタウンは、年貢や税金、その他、町の設備を含めて、ロントメルダより格段に住みやすい環境ですからね」


「でも、領民たちが他国にいる家族や友人に会えないのは不便だ。なにより、俺がつまらない。ザウスタウンだけってのは面白くないよ」


「と、いいますと?」


「征服だよ」


「ああ! ロントメルダ領をザウスさまのものにするのですね!」


「そういうことだ。しかし、急に制圧すれば国内で大きな混乱を招くだろう?」


「魔族の国に占領されるわけですからね」


「そこで国交だ」


「え? 国家間の交際のことですか? 魔族らしく、力で制圧するのでは?」


「力の制圧は効率が悪いよ。戦いが起これば死人が出る。いくら敵陣の死人だったとしても、制圧が完了すれば、それは自陣の死人となるんだ」


「つまり労働力の低下だと?」


「そういうことだな。それに、戦うことでこちら側も傷を負うかもしれない。できれば戦いを避けた方が、お互いにメリットがあるだろう?」


「なるほど……。メリットを重視すれば平和的に占領するのがベスト……。しかし、国交となると大変ですね。今は魔王軍との戦いがありますし」


「そこで彼女の出番なのさ」


 ミシリィは目を見開く。


「わ、私ですか!?」


「ああ。おまえを魔公爵領外務大臣に任命する」


「えええええええええええええ!? それってロントメルダを平和的に支配するってことですよね? わ、私……。まだ、15歳ですよ……? そ、そんな大役が務まるでしょうか?」


「はじめての役職だからな。誰がやったって同じさ。でも、そんなことより、国交は人柄がもっとも大事だと思うんだ」


「ひ、人柄……ですか……。なんだか自信がありません」


「そんなことないさ」


「それに……。私……。頭もそんなによくないです」


 ああ、勇者セアにはずいぶんと罵倒されていたからな。


「勇者の言葉は信じるな。あいつは人格的に終わっている」


 アルジェナはミシリィの背中を叩いた。


「自信持ちなよ。あんたは優しい女の子よ! あたしが保証する」


「アルジェナさん……」


あたしがセアの幼馴染だったら速攻で縁を切ってるもんね。あんな奴とは1秒たりとも一緒にいたくないわよ」


「ははは……」


「あんたは優しいからね。あんな終わってる勇者でも許容できたのよ。間違いなく長所ね。自信持って! あたしは大好きよ!」


「は、はい……」


 よし。


「まぁ、そう不安そうな顔をするな。全部1人でやれとはいってないからさ」


「そうじゃぞミシリィ。わからんことがあればわしがいつでも相談にのってやろう」

「ミシリィさん。私もいますので安心してくださいね」


「あは! みなさん、ありがとうございます!」


「うむ。素直な子が一番じゃ」


 うんうん。

 彼女はみんなに好かれている。

 やはり、外務大臣にはミシリィが適任だろう。

 心根の優しい彼女こそが、魔族と人間の橋渡しになるんだ。


「ザウスさま。ミシリィさんが魔族の外務大臣になりますと、人間から命を狙われる可能性がありますね」


「うむ。部下モンスターで強いやつを何匹か一緒に行動させろ。彼女の護衛は完璧にするんだ」


「ええ。ふふふ。徹底させますね」


「なんだ? 俺が彼女を心配しているとでもいいたそうな顔だな」


「いえ」


「勘違いするなよ。大臣はいわゆる魔公爵領の顔だ。そんな顔に傷でもついてみろ。それはつまり、俺に攻撃したことと同じ意味になるのだぞ。そんなことは断じて許すことはできん。ただそれだけの話だ」


「ええ。もちろんでございます」


「うん。だったらよし」


 ミシリィは満面の笑みを見せた。

 さっきまでの曇り顔が嘘のようだ。


「ザウスさん! 私、頑張ってみます!」


「ああ。頼むな」


「はい!」


 よし。

 それなら……。


「専用の馬車と事務所、大臣の衣装も必要だな。早速用意させよう」


「え? そ、そんなことまでしていただけるんですか!?」


「当然のことさ。メエエル頼む」


「は。承知しました」


「うううう……。ザ、ザウスさん……。本当に……なにからなにまでありがとうございます。私、絶対にがんばります! このご恩は一生忘れません!!」


「ははは。まぁ、ほどほどにな。別に期限とかノルマはないからさ。楽しくやろうよ」


「た、楽しく……ですか? 仕事なのに?」


「ふふふ。やってる仕事がゲームみたいにやり甲斐があったらさ。もっともっと働きたいと思うだろ?」


「そ、それはそうですが……。仕事って辛いものでは?」


「楽しいは正義さ。少なくとも、俺の領土ではな」


 そっちのが自主的に動いてくれる。

 ザウスタウンの発展が爆速的に加速したのは楽しいからだ。

 やはり、楽しいは正義だな。


 それに、今回の魔王領制圧だって、実は楽しんでやっている。

 自分の領土が確実に広がるわけだからな。

 淡路島くらいの広さである俺の魔公爵領がさ、地球全体を支配しようとしてるんだぞ。ククク。考えただけでワクワクするよ。


 まぁ、まずは相手を攻める前に、自軍の防御を徹底しておかないとな。

 既に俺の反逆は魔王軍に知れ渡っているだろう。そうなると、いつ敵が襲ってくるかわからんからな。


「それじゃあ、部下モンスターに監視クリスタルを設置させようか。地図上の……。ここと、こことここ──」


 うん。

 順調、順調。

 

 その日の内に監視クリスタルを領地の国境に設置する。

 その数、なんと100個。


 モニター室を作って、その映像を並べることにした。

 大方、監視センターといったところ。

 部下モンスターが交代でモニターを監視する。


 そうして、次の日。


 ゴブリンが血相を変えてやって来た。


「ザウスさま! 魔王軍が入って来たゴブ!! 監視クリスタルに映像がしっかりと映し出されているゴブ!!」


 やれやれ。

 さっそく、お出ましか。

 

 俺は監視室のモニターを見た。


 ああ、先頭を進む兵士には見覚えがあるぞ。あの角刈りは……。


 魔王軍親衛隊 土組つちぐみの隊長、カクガリィダンだ。

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