2章 中ボス VS ラスボス

第43話 魔王はザウスを許さない


ーー魔王城にてーー


 玉座に座る真っ黒く大きな存在は、魔族ならば誰もが敬う最強の存在だった。


 魔王。


 魔族らは様を付けて敬意を称する。


 その姿は大きく。ゆうに10メートルを超えているだろうか。

 その声は低音で、ゲームでの声優は若元 のり彦というベテランを起用していた。

 当然、この世界でも同じ声質である。


「ブラァアアアアアアアアア!! 我は魔王ぉ。最強の存在なりぃいい!!」


 抑揚のある喋り方は独特でファンの中では根強い人気であった。

 『ブラァ』というのは魔王の口癖らしい。

 

 そんな魔王の前に美しい女が立つ。

 彼女は魔王軍参謀、フグタール。

 凄まじく大きな胸。男を魅了する真っ赤な唇。ナイスバディの美人さんだ。


「魔王さま。魔公爵ザウスが勇者の討伐に成功いたしましたわ」


「ククク。なるほど。ではザウスの仕事はおわりだな」

 

「彼が支配するザウスタウンは相当な発展をしている模様です。納められる年貢は相当な量だと聞いておりますわ」


「ほぉ。ザウスめやりおるわい。父親の跡を継いで、張り切って奴隷を集めたのだな。まぁいい、勇者がいなくなったのならば、役目は解任だ」


「では、魔公爵領は魔王領が吸収するかたちでよろしいでしょうか?」


「うむ。そんなことは当然のことなのだ。ククク……ブラァア。我は魔王。部下のものは我のもの。我のものも我のものだ」


「さすがは魔王さまでございますわ。外道極まりませんわ」


「ククク。我は悪の中の悪。悪の頂点に立つ者なのだ。部下の功績は全て我のもの。努力も実績も、なにもかもなぁああ!!」


「あん。邪悪すぎます。さすがは魔王さまですわ。興奮しますわぁ」


「グフフ。その上で、面倒なことは全て部下の責任だ。我は一切、関知しない!」


「完璧な悪ですわね。ところで魔王さま。魔族の間ではザウスの偉業を讃える者がいるようなのですが……。彼には褒美を与えるのでしょうか?」


「ブラァアアアアアアアア!! そんなものはなぁあああああああああああい!! 我は部下を褒めたりはせぬ。ただ奪うのみ。それが王の責務なのだぁああ! ザウスを絶賛する者どもをここへ連れて来い!」


「あん! さすがは魔王さまでございますわ! では、ザウスを誉めていたモンスターどもを連れてまいりますわ!」


 と、いうことで、ザウスを称えていたモンスターたちが王の間に集められた。

 それは1000匹以上はいるだろうか。スライムやガイコツ剣士。翼竜に大蛇といった具合に多種多様なモンスターが集まる。


「ブラァア……。我は魔王。我のレベルを知っているか?」


 1匹のガイコツ剣士が答える。


「レベル400と聞いているコツ。魔族の頂点コツ」


「うむ。……で、ザウスがなんだと?」


「彼はすごいコツ! 勇者を倒してしまったコツ! 魔族の英雄コツ! 魔王さまもすごいコツが、ザウスもすごいコツ!」


「なるほど……。そうか……。おまえたちはザウスを英雄視するか……」


 モンスターたちは盛り上がった。


「勇者を倒すなんてすごいスラ」

「魔族の英雄シャーー」

「ザウスはどんな褒美がもらるんだろうカメ?」

「きっと、すごい褒美が与えられるリュウよ」

「魔公爵万歳コツ!」


 魔王はピクリと眉を動かした。


「ふぅむ。そうか……。で、ザウスが倒した勇者のレベルはいくつだったのだ?」


「82でございますわ」


「ほぉ……。ずいぶんと高いな。予想より倍以上あるじゃないか」


「しかし、魔王さまの敵ではありません」


「当然だ。それで、ザウスのレベルは?」


「それは未知数のようです」


「ほぉ……。わからないだと?」


「隠蔽の魔法を使っているようで、偵察隊ではレベルを読み解くことができませんでしたわ」


「ふん……。ゴォザックの息子だしな。ゴォザックはレベル66だった。その子供だ。どうせしょぼいレベルだろう。カエルの子はカエルだな」


「ええ。所詮は雑魚かと」


「ブラァアア……」


 モンスターたちはザウスの話で盛り上がっていた。

 勇者を倒したことが、彼らにはよほどの大ニュースなのである。


「では、魔王さま。この者どもはどういたしましょうか?」


「うむ」


 と、おもむろに片手を払った。

 それはハエを払うように、軽く。


 瞬間。

 モンスターたちの体は破裂。

 集まった、全てのモンスターが爆死した。

 緑と紫色の血がそこいら中に飛散する。


 フグタールの綺麗な頬にも、その血がベットリと付着。

 彼女はその血をペロリと舐めてから、恍惚な表情を浮かべた。


「興奮しますわぁあ……」


「片付けろ」


「承知しましたわ」


「ああ、それと……。ザウスに伝令を出せ。ザウスタウンからの年貢はすべて没収する。今日から魔王領だと」


 フグタールが魔公爵領に伝令を出してから数時間後。

 彼女は釣り上がった目を瞬かせた。


「ま、魔王さま」


「なんだ。騒々しい」


「ザ、ザウスが……」


「身分でも欲したか? 適当に、魔王軍の部隊長にでも降格してやれ。魔公爵の身分は剥奪。その領土は魔王領が没収するんだ」

 

「いえ……あの……」


「……なんだというのだ?」


「反旗を翻しました」


「なにぃいいいいい!?」


「魔王領には麦の1粒たりとも渡さないと」


「ほぉ……。ずいぶんと大きく出たものだな親衛隊長を呼べ」


 そうして呼ばれたのが角刈りの男。

 背筋を伸ばして敬礼する。

 

「魔王軍親衛隊 土組つちぐみの隊長、カクガリィダン。姿勢を正して参上いたしました」


「魔公爵ザウスが裏切った」


「ざ、雑魚の分際で規律を乱しすぎでしょう。なんと、愚かな! 勇者を倒して自惚れたか」


「処分しろ」


「は! 私の部下は軒並みレベル100を超えております。雑魚など恐るるに足りません」


「うむ。我に逆らったことを後悔するがいい。できる限り、惨たらしく、苦痛を与えて殺すのだ。いいな?」


「は! 生きていることを後悔するくらいの苦痛を与えて処分いたします」


 すると、王の間に女の兵士が入ってきた。

 耳が尖っているのでどうやらエルフ族らしい。

 しかし、エルフにしては似つかわしくない黒縁の眼鏡をかけていて、黒髪の真面目そうな女だった。

 なんとも不思議なエルフである。彼女は従順に、膝をついて頭を下げた。


「魔王軍親衛隊 水組の隊長、マジメット。真面目な話。時間どおりに馳せ参じました」


「うむ。今日も真面目だな」


 マジメットはメガネをクイッと持ち直した。


「真面目な話……。カクガリィダンは到着が早すぎます。正しいのは時間ピッタリに到着したわたくしでございます」


「貴様ぁ。私は年上だぞ。敬語を使え! せめて「さん」付けだろうが!」


「隊長である身分は同じ。真面目に話せば呼び捨てでも構いません」


「規律を正せ! 年上には敬語。これは常識だ」


「いえ。わたくしは真面目に話しているだけです」


「ぐぬぅうう! 真面目ならば常識を理解しろ」


「あなたの常識と社会通念上の常識は違います」


「ふ、ふざけるな! インテリが!! ちょっと可愛いからっていい気になるんじゃない!」


「それは真面目な話、褒め言葉です。知識は魔族を裏切らない。インテリは賞賛に値しますよ。罵声になっていません。それに、わたくしは自分のことを可愛いと思ったことがありません。真面目な話。完全に的外れです」


「ぐぬぬぬ! き、規律こそが正義だ!」


「いいえ。真面目であることですね」


「くぅうう! お、同じことではないのかぁあ?」


「真面目な話。規律正しくするのと真面目であることは、全く違いますね。規律はルールを守ること、真面目は誠実であることです」


 魔王は眉を寄せた。


「ブラァアア! 我の前で争うでない!!」


「は! 申し訳ありません! 流れでいえばマジメットに非があるかと」

「とんでもございません! 真面目に話せばカクガリィダンがいちゃもんをつけてきたのでございます」


「えええい! どちらでも構わん! 裏切り者のザウスを倒すのだ!」


「魔王さま。恐縮ながら進言させていただきます。わたくしは真面目に予習をしてきたので、もう既に話の流れは理解しているのでございますが、どうしてカクガリィダンと同じ命令を出されたのですか? 真面目な話。ザウスレベルの雑魚はわたくしの隊に任せていただければ、それだけで済む話でございます」


「ククク。徹底的にやるためだ。圧倒的、戦闘力の差を見せつけてやれ。おまえたち2人の力で、裏切り者のザウスに絶望を与えてやるのだ」


「なるほど。裏切り者には絶望を……。ふふふ。悪のカリスマは健在ですね。流石は魔王さまでございます。真面目に感動いたしました」


「ククク……。魔公爵ザウス。我に逆らったことを激しく後悔するがいい。痛めて痛めて痛めまくって、恐怖と絶望を味合わせてやるわぁああああああああ!! ブラァアアアアアアアアアアアアアアハーーーーハッハッハッ!!」


 魔王の高笑いが魔王城に響く。

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