第42話 勇者の生き地獄


〜〜セア視点〜〜


 こ、ここはどこだろう?


『はい』  『いいえ』


 ん?

 なんだ?


 霞む視界に何かが見える。


 僕は……。

 たしか、魔公爵ザウスに殴られてどこかに落ちたんだっけ。


 よくわからないが、僕は助かっているようだな。


『はい』  『いいえ』


 くどいな。

 生死の確認か?


「『はい』だよ。僕は生きている」


 すると、頭の中に声が響いた。


『魔神ゲロソードを装備しました』


 え?


 な、なんていった?


「おい、今、なんていったんだぁあああああああ!?」


 鼻腔に生ゴミのような臭いが広がる。


「ぐぉおおおおおッ! く、臭いぃいいい!! なんだこれはぁあああああ!!」


 こ、このいびつな剣は……?


「魔神ゲロソードだ!」


 これは僕が捨てた剣だ。

 まさか、こんな剣がある場所に墜落していたとは!

 ということは、さっきの選択はこの武器の装備を聞いていたのか!?


「装備解除だ!!」


『できません。この剣は呪われています』


「クソがぁああああああああああああああああああ!!」


 僕はその剣を抱えたまま教会に向かった。


 の、呪いを解いてもらわなければ……。


「なんだあいつ。臭いな……」

「ええーー。最悪ぅ。ゲロゲロォ」

「臭せぇええ」

「ママァ。あの人くちゃいよ。体洗ってるのかなぁ?」

「これ、指差しちゃダメよ!」


 ぬぐぅううう!!

 なんという屈辱。

 こんな剣、早く捨てたい!!


 僕は教会で解呪を頼んだ。


 司祭は鼻をつまみながら、


「100コズン。いただひまふ」


 そうか。

 金がいるんだった。


「あ、あはは……。今、持ち合わせがなくてさ。ツケでお願いできないかな?」


「できまへんね。金を取るのはルールれふ」


「こ、困ってるんだぞ!!」


「困ってるのはこっひれふ。臭いので帰ってくらさい」


 うう。

 金が必要だぁあああ。


 亜空間収納箱アイテムボックスの中にあるといえば『きわどい法衣』だけだ。


 くぅ……。

 仕方ない。これを売れば500コズンにはなるだろう。


 僕は防具屋に行った。

 そこは女の店主だった。


「あ、あんたはセア……。く、臭い。なんのようだい? もしかして、また、店内の壺とタンスを漁りに来たんじゃないだろうね?」


「い、いや。今日は防具を売りに来たんだ」


「臭いんだから、とっとと出しとくれ!」


 俺はきわどい法衣をカウンターに置いた。


「じゃあ100コズンだね」


「はい!? ふざけんな! これは1000コズンもしたんだぞ! 売れば半値の500コズンで売れるはずだ!!」


「そんなこと知らないよ。文句があるなら他に行きな。さぁ、出てった出てった」


 クソがぁあああああ!

 足元みやがってぇえええ。


 僕は仕方なく売った。

 

 うう、背に腹は変えられん。


 僕は100コズンを払って魔神ゲロソードを外した。


「ああ……。無一文だ」


 腹は減り、体中が痛い。

 飯を食って治療をしたいが金がないんだ。


 僕はフラフラになりながらハジメ村に帰った。

 自分の村なら村人に命令できるしな。

 普段から教育はしてあるから、こういう時は便利なんだ。


 僕は村に到着するなりぶっ倒れた。


 ダメだ。力が出ない────。





「はっ……。ここは?」


 気がつけばベッドの上。


わしの家じゃよ」


「ああ、村長か」


 80代のジジイだ。

 僕が暴力によって教育しているので、使える存在だよ。


「おい。腹が減った。なにか食べさせてくれ」


「ふむ。じゃあ、これを食え」


 そういって、干からびた芋を出してきた。


「ふざけんなよジジイが! 僕に教育されたいのか? 僕は勇者なんだぞ!」


「それがおまえに相応しい食事じゃよ」


 なに!?

 この野郎ぉ。なんという悪態。

 殴る前に教育が必要か。


 僕は右手の甲を見せながら、


「これを見ろ! 勇者の証だぞ! おまえは、僕に美味しい食事を与える責任があるんだ! 勇者を敬うのは村人として当然だろうが! もっと、ちゃんとした食事を用意し……」


 と、いいかけて違和感に気がつく。


 あれ……?

 お、おかしいぞ?

 右手の甲は青白く光っているはずなのに……。ちゃ、茶色の紋章だと!?


「フォッフォッフォッ。この村に手紙が届いてのぉ」


「て、手紙ぃ?」


 なんのことだ!?

 それよりこの紋章……。


「武器商人のチンという男の人からじゃったよ」


「にゃにぃいいいいいい!? チンだとぉおおお!? クソ野郎じゃないか!!」


「いやいや。界隈でも良心的な方だともっぱらの噂じゃよ。そんな人からの手紙じゃからのぉ。わしは信じたのじゃよ」


「な、なにが書いてあったんだ?」


「セアが勇者を引退し、奴隷になりたい、と書いてあったのじゃ」


「ふざけんなぁあああああああああ!! そんなこと思うかぁああああ!!」


「ははは。まぁまぁ、そう謙遜するな」


「け、謙遜じゃない!!」


「チンさんの手紙には、おまえさんが罪の意識を感じて、村人に罪滅ぼしをしたい、と書いてあったのじゃ」


「う、嘘だぁああああ!!」


「その証拠に、セアは勇者の証を手放し、いつでも契約ができる状態になっている、と書かれていた」


「ど、どういうことだ!? け、契約だと!?」


 こ、この茶色の紋章……。

 勇者の証じゃないぞ!?

 な、なんなんだこの紋章はぁああああ!?


「それは奴隷紋じゃよ」


「にゃにぃいいいいいいいいいいいい!?」


わしとおまえさんとで主従契約を結んだのじゃ。チンさんの指示通りにすれば、気絶しているおまえさんにはすぐにその契約ができたんじゃよ」


「ふざけんなぁああああああああああああああああ!!」


 僕は村長の家を飛び出した。


 うう、この紋章……。

 擦っても消えないぞ。


 ぼ、僕は奴隷になってしまったのか?


 そんなぁああああああああ!!


 ダメだ。

 涙が止まらない。


 こ、こうなったら師匠に甘えるしかないぞ!

 この村で一番、優しく接してくれるのはゲバルゴンザ師匠なんだ!

 彼女は見た目は完全にゴリラだが、お姉さん的な感じでめちゃくちゃ優しい人なんだ。


 ミシリィがいなくなったからな。

 こうなったらゲバルゴンザ師匠で童貞を捨ててもいい。

 ククク。もうこの際、ゴリラ女でもいいや。

 師匠は、以前から僕と寝たがっていたからな。ククク。こうなったらゲバルゴンザを性奴隷にしてやるか。

 

「師匠ぉおおおおおおお!! ただいま、帰りましたーー!」


「ああ……。セア。帰って来てたのかい」


「あれ? どこかへ出かけるんですか?」


「セア……。あんたの噂は聞いているよ」


 う!

 もう奴隷になったことが広まっているのか。

 まぁいい。悲しい演技で同情を誘って、そのままベッドへ……。


「そうなんです。僕……。もうどうすればいいかわからなくて」


 ここへは、お前を抱きにきたんだよ。ゲヘヘヘ。

 その筋肉で硬そうなおっぱいを揉んで揉んで揉みしだいてやるぅうううううう!!


「あんた……。少女を監禁してたんだってね」


「へ?」


「スターサという女さ。頬を叩いたり、食事を与えなかったり、ずいぶんと酷いことをしたんだろう?」


 そっちの話ぃいい?


「あ、いや。あ、あれには訳があってですね!!」


「心底失望したよ」


「はいいいいいい!?」


「あんたがそんな変態野郎だったとはね」


「ちがっ! こ、これにはわけがあるんです!! 彼女は魔公爵のスパイでぇえ!! 人質にしていたんだですよぉおおお!!」


「人質……そんな卑怯な手を使っていたのかい。とても勇者とは思えないね。自分の弟子だと思うと心底情けなくなってくるよ」


「こ、これは計画です!!」


「あんたは破門だ」


「ええええええええええええええええええええええ!?」


「もう、2度と会うことはないよ」


「師匠ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


「チンさんって武器商人がな。あたいの大剣作りに興味を持ってくれてさ。刀鍛冶師として雇ってくれることになったんだ。だから、もう働き口は見つかってんだ」


 ふざけんなぁあああああああああああああッ!!


「あんたはあんたの人生を進みな。じゃあな」


 ぬがああああああああああああああああああああああああああッ!!


「フォッフォッフォッ! それではセアよ。さっそく畑を耕してくるんじゃ。奴隷のおまえには休みなんてないんじゃぞ」


「ふざけんなジジィイイ! ぶっ殺すぞぉおおおおおお!!」


「ふむ。教育的指導」


 瞬間。

 全身に稲妻が走った。


「あぎゃああああああああああああああああああああああああッ!!」


「奴隷紋があることを忘れるでないぞ。これからは暴力なんてできんからの。フォッフォフォッ」


 そんなぁああああああああああああああああああああああ!!

 僕はこんなジジイに一生こき使われるのかぁあ!?

 生き地獄だぁああああああああああああああああああああ!!







〜〜魔公爵ザウス視点〜〜


 俺たちはパーティーを開いていた。


 勇者の襲来から魔公爵領を死守できたことのお祝いだ。


「ザウスさま……。この格好……。どうでしょうか?」


「ブゥフッ!」


 思わず酒を吐きそうになった。

 メエエルは露出度の高い水着のような法衣を来ていたのだ。


「そ、その格好は……」


「きわどい法衣、というらしいです」


 いや、知ってる。

 なんの効果もない、見た目だけの防具だよ。サービスイベントの1つだが、布の面積が少なすぎて……。エ、エロすぎる。


 メエエルは頬を赤く染めながら微笑んでいた。


「もしかして、俺を喜ばそうとして着てくれたのか?」


 彼女はコクンと頷く。


 なんという、できた世話係だ。


 そして、彼女の後ろにはアルジェナがいて、彼女もきわどい法衣を身につけていた。


「ア、アルジェナまで!?」


「か、勘違いしないでよね! メ、メエエルが着るっていうから着てみただけよ。た、単なる興味本位ってやつ」


 全身真っ赤じゃないか。

 恥ずかしがっている姿が、なんともいえず込み上げてくるものがあるな。


 なんと、その横にはミシリィもいて、彼女も同じように着ていた。


「お、おまえもか!?」


「ザ、ザウスさんには迷惑をかけてしまったので……。喜ぶかな、と思って」


 そ、そりゃあ嬉しいけど。


わしだけ、布の面積が広いのじゃ!」


 カフロディーテもか。彼女のは完全にスクール水着だな。

 

「仕方ないでしょ。あんたの場合、上のブラがズルっていっちゃうんだからさ」


「なんじゃそれは! わしの胸が小さいとでもいいたいのか! 膨らみはあるんじゃぞ!! ほれぇえええ!!」


 やれやれ。


「喧嘩するなよ。カフロディーテ。なかなか似合ってるぞ」


「なにぃいい! ザーーウス!」


 と彼女は俺に抱きついた。


「今、似合っているといったのか? のぉ? のぉ?」


「そう聞こえたのならそうなのだろう」


「うは! お主に見せたかったんじゃあ!」


「そうか。ありがとう」


「フフフ。もう一度、言ってくれぬか?」


「なにをだ?」


「『似合ってる。可愛いよ』じゃああああああ!」


「なんか、いってない言葉まで付随してるが?」


「いうのじゃ!」


「いや。一度しかいわん」


「なぬぅうううッ!! んもう! ザウスったらツンなのじゃあ!! デレを多目にしてくれい!」


「俺は魔族だからな。ツンしかない」


「んもぉ! ザウスったらぁ!!」


 これにはみんなが笑った。

 カフロディーテはムードメーカーなのかもしれないな。


 このあとはモンスターも含めて、みんなでゲームをやったり、お菓子を食べたりして、楽しく過ごしたのだった。



 そんな翌日。


 メエエルが険しい顔を見せた。


「ザウスさま。魔王さまからの伝言でございます」


 ふむ。

 勇者を倒したわけだからな。

 上司なら部下に褒美を与えるものだろう。


「ザウスさまの領土を、全て魔王領に渡せ。とのことです」


 なにぃい?


「ザウスタウンの収穫物はすべて魔王領で管理するとのこと」


 やれやれ。

 無茶をいう。


 ザウスタウンは苦労の結晶なのにな。

 あの街が発展したのはモンスターと人間が協力をしたからだ。

 それを魔王が管理するだと?


 そんなことが許されてなるものか。


 この世界に転生して、前世と同じように上司に搾取されて生きるなんてまっぴらごめんだ。


 いいだろう。

 やってやるさ。


「メエエル。魔王の伝令に伝えろ」


「はい」


「このザウスの魔公爵領は俺のものだと」


「え?」


「麦の1粒も渡しはしない。魔公爵領は俺が支配する」


「し、しかし、それは……」


「ああ、宣戦布告だ」


 ククク。

 勇者の次は魔王が敵か。

 面白い。ククク。




「この世界は俺が支配する。魔王が統治する魔王領も、全て俺のものにしてやるよ。魔公爵が暗黒の世界に変えてやるんだ」




 全ての民は俺にひれ伏す。

 俺のために働き、俺のために生きる。

 魔王さえもなぁ!

 ククク。




「俺が悪の支配者だぁああああああああああああああああああああああああ!!」




 ゴブ太郎はボソボソと話した。


「ねぇ、アルジェナさん。ザウスさまはあんなことをいってるゴブが、ザウスさまが世界を支配したら、みんなが幸せで平和な世界になると思うゴブよ」

「うん。あたしもそう思うわ」


「そこぉおおお! 私語は慎むように!!」


 みていろ魔王。

 俺は絶対に負けないからな。


 俺の右手の甲には『勇者の証』が青白い光りを放って、不気味に輝いていた。



第一章。完。




────


ここまで、お読みくださりありがとうございます!

なんとか一区切りつきました。

おかげさまで大人気!


次回からは魔王編が始まります。


ここまで読んで、面白いと思ってくれた方は↓にある☆の評価をしていただけると幸いです。

作者の執筆意欲が上がって、みなさまに作品を提供しやすくなります。


コメントが多くて、全てのコメントに返信ができなくなってきました。

でも、全部、読んでますので気軽に感想を書き込んでくださいね。

とても、励みになっています!

1章はカクヨムコンの対象作品です。なので、2月1日以降の誤字修正はコンテスト終了後に実施させていただきます。

2章以降はコンテストの除外部分ですので、誤字修正はいつでも可能となっております。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る