第39話 魔公爵のレベル

「貴様ぁああああああ!? そのレベルはどういうことだぁああああああ!?」


 やれやれ。

 失態を晒すことになるとはな。


「おまえを迎え撃つために鍛えたのさ」


「ハァ……ハァ……。そ、そんなバカな……。あ、明らかに、この世界の常識を超えているだろうが……」


「そうかもしれんな」


 でも、それはこの勇者も同じこと。

 俺が知らない師匠の弟子になり、俺の知らない 筋肉の拳マッスルファウストを身につけた。その上、こんな序盤で魔王を倒してから入手することができる最強の乗り物、レベル999の 究極アルティメット 岩巨人ゴーレムを入手している。

 本来ならば、魔公爵と勇者が戦うのはレベル100以下の状況なんだ。魔公爵はレベル66。勇者ならば40程度だろう。それが、このゲームのチュートリアル。『実はこの物語はカンストレベル999ですよ、魔公爵は中ボスですよ。まだまだ上がありますよ』という面白いトリックなんだ。

 この時点で、プレイヤーのプレイ時間は20時間を超えているからな。『え、マジか!? この上があるのか!? すげぇええ!』となる仕組みなんだ。


 それが随分と変わってしまった。

 まぁ、俺が勇者討伐のために動き始めたから、運命が改変してしまったんだがな。

 勇者のレベルは82まで上昇、レベル999の 究極アルティメット 岩巨人ゴーレムをはじめ、魔封じの首輪、半減の法典を使うようになった。


 勇者が通常よりもパワーアップしているのはいうまでもない。

 しかし、それは俺も同じこと。

 俺が前世の記憶を取り戻してからの5年間は必死だった。毎日、毎時間、毎秒。勇者のことばかり考えていた。

 

 勇者を倒すために。いや、勇者に倒せれないために。


 俺は必死に工夫した。

 

 勇者の武器とアイテムを奪い。仲間さえも断絶させた。

 そして、俺は自らを鍛え上げたんだ。自軍である部下モンスターの強化をはじめ、俺自身のレベルもずいぶんと上昇させた。


 それは一重に勇者の実力を恐れたからだ。

 勇者には主人公補正がある。レベル値の2倍の威力が出せるブレイブクリティカル。そして、彼に協力する仲間たちの存在だ。

 主人公補正は本当に恐ろしいよ。


 だから、俺はレベルをカンストさせて迎え討とうと計画した。

 

 この世界でのレベルカンスト値は999だ。

 

 俺は必死に修行をしてレベル999に到達した。


 セアが勇者に認定され、俺の領土に入った頃には俺のレベルは999だったんだ。


 レベルを最高値にして、万全の体制!

 レベル999にして勇者を迎え撃つ! 

 完璧だ! 絶対に勝てる!!


 そう思った矢先。妙な胸騒ぎがした。

 

『本当にこれでいいのだろうか?』


 よくよく考えれば、物語の運命は俺が勇者に倒されることに決定している。

 俺の方にミスがあれば、強力な主人公補正によって、俺の存在は駆逐されてしまうだろう。


 もっと、盤石に。もっと確実にいかなければ安心できない。


 可能性は全部潰す。

 

 だから、大賢者に会いに行った。


 勇者が大賢者に会うのは魔公爵を倒してからだ。

 本来ならば、あり得ない話。

 しかし、なにが起こるかわからないのが今の現状だ。なにせ、俺は、すでに運命を変えているのだからな。


 大賢者カフロディーテを仲間にして、彼女の魔研究を提供してもらえるようになった。


 その一つが『レベルの限界突破』だった。


 これは続編で採用された新システム。

 本来の物語であるならば絶対に存在しない現象だ。

 それはレベルのカンスト値を特殊な魔法によって爆上げするというもの。流石は大賢者と言わざるを得ない。彼女の協力によって、俺のカンスト値はレベル9999に変更された。


 それからは修行の毎日だったよ。

 目標はレベル9999。

 勇者を倒すため、いや、倒されないためにレベルをカンストさせる。


 ……そのはずだったんだがな。


 限界突破をしてから、わずか数週間しか時間がなかった。

 いや、これはいいわけか。


 本当に、自分の体たらくには嫌になるな。


 レベル上げは好きな方なんだが、まだまだ未熟だよ。


 情けない。

 カンストレベルにはとても追いつかなかったんだ……。


「し、し、信じられん……。な、な、な、なんなんだこのレベルはぁあああああああ!?」


「うむ。恥ずかしいがカンストさせることはできなかった」


「レ、レ、レベル……。ゴクリ」


 勇者は生唾を飲み込んでから、俺のレベルを読み上げた。




「3000だとぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」


 


 そうなんだ。

 たったそれだけだ。


「ど、どういうことだ!? レベル3000だとぉおお!? は、は、半減の法典によって、レベルは半分になっているんだぞぉおおお!?」


「だな」


「つ、つ、つまりぃいいいいいいいい! 実質レベル6000だとぉおおおおおおおおおおおおお!?」


「うむ。レベル9999までには遠くおよばなかった。自分の不甲斐なさに反省しているよ」


「ふざけんなぁああああああああああああああああああああああああッ!!」


 ああ、そうだ。


「俺には設置スキルがあってさ。『ステータス2倍強化』なんだがな」


「あわわわ……」


「これは魔力消費がないから常時発動するんだよな」


「あわわわわわ……!!」


「本来、このステータス2倍強化は僧侶の魔法『 無効インヴァリッド』によって無効化されるんだがな」


 ミシリィはまだ気絶した状態のようだな。


「良かったよ。彼女がこっち側に来てさ。というか、彼女のレベルを上げてなかったんじゃないのか? まだ未習得だろ?」


「はががががががががががが……!!」


「つまり、実質レベル3000の2倍。レベル6000の効果だな」


 まぁ、そんなことはどうでもいいか。

 人質の回収は無事にできたんだからな。


「じゃあ、そろそろ。こっちから攻撃をさせてもらうけど、いいか?」


「ひぃいいいいいいいいいいいいい!! バ、バ、バーストパンチぃいい!!」


 と、 岩巨人ゴーレムの拳を飛ばしてきた。


 やれやれ。


 俺はハエを払うようにその飛んで来た拳に裏拳を当てた。

 

ボォオオオオオオオオンッ!!


 バーストパンチは瞬時に破壊された。


「こんな攻撃が通じるわけないだろ」


「ひぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」


 よっと。

 

 飛び上がってぇ。




「おりゃ」




 正拳突き。


 俺は 岩巨人ゴーレムのボディに拳を当てた。


「あぎゃあぁああああああああああああああッ!!」


 すると、 岩巨人ゴーレムの体は粉々に砕け散った。


「うむ」


 勇者は地面にボトンと落ちた。


「さて。これで本当の意味で1対1だな。勇者セア」


 勇者と魔公爵の対峙。

 物語のクライマックスじゃないか。


「ひぃあああああああああああああああああああああああ……!!」


 安心しろよ。

 俺は油断はしないからな。


 

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