第38話 勇者の愚策と魔公爵の本質

 さて、こいつの実力ははっきりしたことだしな。とどめを刺そうか。


「クソがぁあ! 僕を舐めるなよぉ!! こうなったらぁあ!!」


 む!?

 なにかあるのか?


 ここは慎重にいこう。

 勇者の実力は明らかに未知数だ。


 この 究極アルティメット 岩巨人ゴーレムを入手していることをはじめ、ブレイブクリティカルを自在に操る秘技。

 これらは俺の知らない展開だ。


 勇者セアはこの物語の主人公だ。

 主人公には特別な補正がある。


 油断してはいけない。

 どんな攻撃であろうと、細心の注意を払う。


 よそ見をしたり、片手で防御しているのは相手の攻撃を引き出すためだ。

 プロボクサーは相手が得意な間合いには簡単に入らない。

 余裕を見せるのは、攻撃が当たらない間合いの時だけだ。不用意に近づけば相手のカウンター攻撃を喰らう可能性がある。だから、絶対に気軽に近づいたりはしないんだ。


 挑発にもとれる片手受けは、相手の隠している手段を引き出す挑発にすぎない。

 

 俺がうっかり近づいて、強烈なカウンター攻撃を喰らっては、全てが終わってしまうからな。


 慎重に……。

 相手の出方を観察する。


 勇者は亜空間に手を突っ込んでいた。


 あれは亜空間収納箱アイテムボックスのスキルか。

 なにか、武器を使うのだろうか?


 やつの入手武器は全て手を打っておいたのだがな。

 ここ最近は、、勇者に対する対応が遅れていた……。


 この 究極アルティメット 岩巨人ゴーレムといい。

 なにか、強力なアイテムを入手している可能性はある。


 すると、勇者が異空間から1人の女の子を取り出した。

 それは知っている顔。


「カフロディーテ!?」


「ギャハハハハーー!! おおっと、動くなよぉ、クソッたれ魔公爵がぁあああ!」


 そういって、彼女の首に手をかける。


 やれやれ。

 人質ってわけか。

 こいつは相当にゲスい勇者だな。


 しかし、慎重に戦っていて正解だった。

 もしも、うっかり勇者を倒していれば、カフロディーテは永遠に亜空間の中だったかもしれん。

 だから、侮ってはいけなかったんだ。


「すまぬのじゃザウスゥウウウウ!!」


 と、大粒の涙をこぼす。


「ククク。大賢者が貴様の仲間になったことは知っているんだ。だから、利用できると思ってね。ククク。この女を連れてきたのさ。女の命が惜しくば、いうとおりにするんだなぁ」


「ううう……。ザウスゥウ! わしのことは構うなぁ! こんなやつはやっつけてくれぇえええ!!」


「だまれクソガキィイ!! ぶっ殺されたいのかぁあ!? 貴様の首なんか一瞬でへし折ることができんだぞぉおおお!」


「うぐっ!!」

 

 おいおい。


「わかった! 彼女には手を出すな。いうとおりにするから」


「プハァッ!! ものわかりがいいねぇえ!! 優しい魔公爵さん!」


 他人の命なんかどうでもいいがな。

 大賢者は俺の領土を発展させるには必要な存在なのさ。


「だが、いうことを聞いたら彼女を介抱しろよ」


「ククク。いいだろう。だが、おまえも僕のいうことを聞くんだぞ?」


「では、お互いに大事なものを懸けよう」


「大事なものぉお??」


「おまえは勇者の誇りを。俺は魔公爵の誇りを懸ける」


「ククク。騙し討ちがないようにするわけだな?」


「そういうことだ」


 こいつは勇者に対するこだわりが相当に強い。

 勇者の誇りに懸ければ、どんな約束も確実になるだろう。


「いいだろう。勇者の誇りに懸けて誓う。魔公爵が僕のいうとおりにすれば、大賢者の身柄は解放しよう」


 よし。


「俺も魔公爵の誇りに懸けて誓う。必ず、勇者のいわれたことを実行する」


「プフゥウウウ! 誓ったぞ!? ザウス! これがどういうことかわかるか? プフゥ! 自ら勝ち確を逃すとは愚かな。こんな女を庇うとかバカじゃないのか? プププププゥウウ!!」


「笑うでない!! ザウスは勇敢な男なのじゃあああ!!」


「うるさい!! クソガキがぁあ!! ぶっ殺されたいのかぁああ!」


「うぐぅううう!! わ、わしを殺しては契約が成立せんぞ」


「ちぃっ! まぁいい。ザウス! おまえには2つのことを要求する」


 やれやれ。

 俺は彼女の解放だけなのにさ。自分は2つも要求するのか。


 勇者は亜空間から2つのアイテムを取り出した。

 それは首輪と法典。

 やつは、 岩巨人ゴーレムの操作室から、首輪を放り投げた。

 

「ククク。まず1つ。この首輪をはめるんだ」


 ゲーム本編では登場しない未知のアイテムだな。

 だが、設定資料集だと見た記憶があるぞ。たしか、続編に登場する予定だったが没になったアイテムだ。

 名前は……。


「ククク。それは魔力封じの首輪だ」


 そうだ。装備した者の魔力をゼロにする首輪。

 強すぎるということで本編はおろか、続編でも使われることがなかったアイテムだ。


 さては、カフロディーテの研究所から奪ってきたな。


「ううう。すまぬのじゃザウスゥウウウ」


 俺は首輪をはめた。


 瞬間。


 身体中の魔力が消滅した。


 ちょっとだけ、体が重くなった感じがするな。


「ギャハハハハハハ!! その首輪は魔力を完全にゼロにするんだよぉおおおお!! 魔法もスキルも使えないぞぉおおおお!!」


 いや、知ってるってば。


「ククク。2つめ。最後の要求だ」


 そういって法典を広げる。


 あれはなんだ?


「ククク。これは『半減の法典』」


 ああ、レベルを半分にするアイテムだな。

 これも設定資料集で見たことがあるや。強すぎて没になったやつだ。


「暗雲と大海を分つ、邪悪なる閃光。暗黒神の 睥睨へいげいを、ここに顕現する」

 

 法典は黒い光を発生させた。

 それは天から照らせるスポットライトのように、黒い一筋の光だった。


「ククク。さぁ、ザウス。その中に入るんだ」


 俺はいわれるがままに、その黒い光の中に入った。


 すると、体中の力が天に吸い取られる感じがした。


 ぬぅ!

 決して気持ちのいいもんじゃないな。


「クハハハハ! なにが起こったかわかるまい!? 貴様のレベルは半分になったんだよぉおおおお!!」


 うん。知ってる。


「終わったなぁあああああああ!! 完全に詰みだなぁあああ!! ザウスゥウウウウウウ!!」


「さぁ、おまえの要求は満たした。次は俺の番だ。彼女を解放しろ」


「フンッ! こんな生意気なガキ、どうでもいいわ! 約束どおり返してやるよ。ほらよ」


 そういって、カフロディーテの背中を蹴る。

 彼女は 岩巨人ゴーレムの操作室の窓から落っこちた。


「のわぁああああああ!! なんてことをするのじゃあぁああああ!!」


「僕は約束は守る。勇者の誇りに懸けてね。君を解放してやったんだよ。感謝して欲しいね。さようなら大賢者さん。プププ」


 やれやれ。


 俺は瞬時に駆け出して、彼女を抱きかかえた。


「よっと」


「ザウスぅうううううう!!」


「怪我はないか?」


「うううう! ごめんなのじゃああああ!!」


「泣くなって。こうして助かったんだからさ」


「ザウスゥ。ザウスゥウウウウウ!!」


 ずっと亜空間に閉じ込めれて、あげく人質にされたんだからな。

 さぞや怖かったろうよ。


「よしよし。もう大丈夫だから泣くなって」


わしぃ。わしぃいい。ザウスの足手まといになってしまったのじゃあ〜〜」


「そうでもないさ。おまえに出会ったことで俺は強くなれたんだからな」


「ううう。じゃあ、怒っとらんのか?」


「ああ。感謝こそすれ、怒るなんてないよ」


「うううううう!! なんて優しい男なんじゃぁあああ!! 結婚してくれぇええええ!!」


 おいおい。


「メエエル。彼女はまだ混乱しているみたいだ。介抱してやってくれ」


 さてと。

 今度は勇者の対応だな。


「ククク。最期の挨拶はできたかな? 僕は優しい勇者だからね。おまえに時間を与えてやったんだぞ」


「そりゃどうも」


「プププ。じゃあ……。ククク。地獄に送ってやるよ」


  究極アルティメット 岩巨人ゴーレムは拳を振り上げた。


「フハハハ! 安心しろよ! 僕は優しいからねぇ。手加減してやるよぉおお! ゆっくり、ジワジワとなぶり殺してやるからねぇええ!! それぇええええ!!」


 


ガンッ!!




 俺はその拳を片手で受けた。


「な、なに!?」


「手加減してる場合じゃなさそうだな」


「ク、クソがぁあ!! だったら最大火力の 筋肉の拳マッスルファウストだぁあああ!! 死ねえええええ!!」



ガンッ!!



 再び片手で受ける。


「なにぃいいいいいいいいい!? ど、どうしてぇえええええええ!?」


「さぁ、どうしてだろうなぁ?」


「死ね死ね死ねぇええええええええええええええええええええ!!」


 拳の連打攻撃。


 俺は、その全ての攻撃を片手で受け止めた。

 その受け方は余裕で、俺の体は一歩たりとも動くことがない。


「そんなバカなぁああああああああああああ!? 魔力はゼロにしてぇええええ! レベルは半分になっているんだぞぉおおおおおおおおお!? この世界の最大値はレベル999だろうがぁ!? 法典の力は絶対だからぁ……。貴様のレベルがいくら高かろうが、最大値のレベル999と考えても半分になればレベル499のはずなんだぞぉおおお!? 僕の圧勝のはずなのにぃいいいいい!?」


「さぁ、どうしてだろうなぁ?」


「は! そうだ! 今は魔法が使えないんだった。隠蔽の魔法効果は消滅しているはずだ! 貴様のレベルを見てやるぅううう!!」


 あーー。

 ついに見られてしまうか。


「なにぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!? バ、バ、バカなぁあああああああ!! あり得ない!! こんな数値はあり得ないぃいいいいいいいいいいい!!」

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