第37話 魔公爵と勇者

 俺は 究極アルティメット 岩巨人ゴーレムが発射した拳、バーストパンチを追っていた。


  加速アクセルの魔法を使っているのだが……。


 実はもう追いついていたりする。


 あと1秒遅かったらザウスタウンに命中していた。


 さて、このまま破壊する手もあるんだがな。

 せっかく、凄まじい速度で飛んでいるのだから、この慣性を利用しない手はないだろう。


「んじゃあ、向きを変えますか。 飛行フリーゲン


 俺は飛行の魔法で空を飛んで、バーストパンチを掴んだ。


 んで、このまま止めずにグィイイインっとさ。

 丁度、弧を描く感じかな。


 一直線上に飛来する角度を旋回させて真逆の方向を向かせる。


「さぁ、発射した体に帰ろう」


 俺はバーストパンチにしがみついたまま飛行する。


「目指すは 究極アルティメット 岩巨人ゴーレムの本体だ」


 しかし、遅いな。

 300キロくらいのスピードだろうか?


 だったら、このバーストパンチに、


加速アクセル


 速度倍化だ。


ギュゥウウウウウウウウウウウウウウウウウン!!


 うほ。

 これは早い。

 マッハは到達してるかもな。


 バーストパンチはたちまちのうちに 究極アルティメット 岩巨人ゴーレムの本体がいる広場へと到着した。


 勇者の奇声が響く。


「あわわわわわわわわわわわ! なんだこの速さはぁあああああああ!?」


 勇者は、 岩巨人ゴーレムを操ってパンチが正常に戻るように腕を差し出した。


「戻れぇえええええええええええええ!!」


 さて、俺は危ないから離れておこう。

 

 こんな速い物体がさ。正常の位置に戻れると思うか?


 案の定、バーストパンチは 岩巨人ゴーレムの腕を貫いてボディに接触した。


メコォオオオオオオオオオオオオオッ!!


 ふむ。これぞ慣性の法則。


「あぎゃぁあああああああああああッ!!」


  岩巨人ゴーレムは30メートルを超える巨体である。

 そんな体が100メートル以上もぶっ飛んでいった。


 おお。まぁまぁの威力だったな。


「わは! すごいじゃないザウス! あいつのパンチを利用したのね! 望遠モニターで全部見ていたわ!」

「これぞ自業自得。流石でございます。ザウスさま!」


  岩巨人ゴーレムは立ち上がった。

 その姿はボロボロである。


「はぁ……はぁ……。ザウスゥウウウウ。僕に勝ったと思うなよぉおおおお!!」


「いや。まだ、そんな風には微塵も思っていない。俺が勝利を確信する時は念には念を押して、徹底的に勝利してからだ」


 なので、これから勝利の確定行動に移ろうと思うのだが……。


「僕の 岩巨人ゴーレムはレベル999なんだぁああああ!  最上級エキストラ 回復ヒール!!」


 ほぉ。 

 最上級の回復魔法か。


「ハハハハハハーー! どうだぁあああああ!? ダメージ全快ぃいいいいい!! 完全復活だぁあああああ!!  岩巨人ゴーレム復活ぅううう!!」


 やれやれ。

 失ったバーストパンチの拳まで再生されているな。


「グォオオオオ!! おまえなんかおまえなんかぁあああ!! 死ね死ね死ねぇええええええええ!!」


  岩巨人ゴーレムの連撃。

 俺はその攻撃を全て片手で受けた。


 この展開はさっきもやったんだがな。

 俺に攻撃が通じないことを学習しないのか?


「どうしてぇえええ!? なぜだぁああああああ!? この 岩巨人ゴーレムはレベル最高値の999なんだぞぉおおお!? どうして最強の攻撃がまったく通じないんだよぉおおお!?」


「まぁ、単純にそっちが弱いからだろうな」


「クソがぁああああああああああああああああああああ!!」


  岩巨人ゴーレムは距離を取った。

 そして、力を貯める。


「ククク。こうなったら使うしかないなぁ」


「なにをだ? 土下座か?」


「アホかぁああ!! 僕は絶対にそんなことはしなぁああい!!」


 ああ、土下寝という可能性もあったか。


「クホォオオオオオ……。見せてやるよ。禁断の技をなぁああああ!! フホォオオオオオオオ……!!」


 ほぉ。

 力が上がってるな。


筋肉覚醒マッスルウェイク!!」


ドォオオオオオオン!


 ほぉ。胸を張っただけなのに凄まじい衝撃波だ。


「ハハハハーーーー! こうなったらおしまいだよザーーーウス!!」


「そうなのか?」


 黄金の闘気を身に纏っているが、ステータスは変わってないな。

 以前としてレベルは999だ。


「ククク。ステータス表記を見て疑問を抱いているだろう。しかし、この特殊な状態は最強なのさ」


「ほぉ。最強か」


「僕はこの操作クリスタルを通じて 岩巨人ゴーレムと繋がっている。僕の筋肉は 岩巨人ゴーレムに力を与えるのだぁああ」


「ふむ」


「ククク。 筋肉覚醒マッスルウェイクは血の滲むような修行で獲得した最終奥義なのだぁあああ!」


「あ、その話し長いか? できれば端的に頼むな」


「うるせぇえええええええええええええええええええ!! 貴様の父、魔公爵ゴォザックが幼少期の僕にやられたのはどうしてか知っているか?」


 それは主人公補正だな。

 ブレイブクリティカル。

 低確率で発生する強力な一撃だ。

 ゴォザックはこの攻撃によって消滅したんだ。


「ククク。教えてやろう。ブレイブクリティカルというんだ。おまえの父、ゴォザックは僕のブレイブクリティカルで死んだんよ。ククク」


「あの攻撃は偶然に発生するものだろ?」


「ククク。最終奥義、 筋肉覚醒マッスルウェイクはそのブレイブクリティカルを自由に発生させることができる技なのだ!」


「ほぉ」


 かなりチートだな。

 俺がゲームをプレイしていた時はそんな技はなかった。


「ヌハハハ! ブレイブクリィカルの攻撃ダメージは既存レベルの2倍だ! つまりレベル999の2倍の攻撃!! 999の2倍だから、えーーと……」


「1998だな」


「そうだぁあああああ!!  筋肉覚醒マッスルウェイクによって、常にレベル1998の攻撃が繰り出せるということだぁああああああああ!!」


「それは便利だ」


「ギャハハハハハーーーー! 終わりだなぁああああ!! ザウスアウトォオオ!! ザウスオワターーーーー!! ザウス終了のお知らせぇえええええええええええええ!!」


 随分と勝利を確信しているようで。


「お前の父親もブレイブクリティカルで死に。おまえも同じ技で死ぬんだぁあああああああ!! ギャハハハハ!! 親子そろって地獄に堕ちるがいいさぁあああああ!!」


「よくしゃべるやつだな」


「……フン。余裕ぶっても無駄無駄無駄ぁ。内心は焦りまくってんだろぉおお? 「ああ、どうしようママァ。勝てないよぉ」かぁあ?? ギャハハハ! チビリそうなんだろうがぁあああ。見え見えなんだよぉおおおおおおおおおおお!!」


「いや。もういいだろう」


「ハハハハハ! この世界のレベルは999が最高値なんだぞぉ? その攻撃をブレイブクリティカルによって2倍にするんだぞぉおおおおおおおおおおお!!」


「それ聞いた」


「大切なことなので2回いいましたぁあああああ!! ギャハハハハハーーーー!!」


 勇者は一通り高笑いをかましてから、ようやく、俺にパンチを繰り出した。


「死ねぇえええええええええええええええ!!  筋肉の拳マッスルファウストぉおおおおおお!! この攻撃はブレイブクリティカルによって2倍レベルの威力に増幅されているぅううううううううううううううう!! 骨も残さんぞぉおおおおお!! 喰らえぇえええええええええレベル1998の拳ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!」


 俺は、その攻撃を片手で受け止めた。



ガシッ!!



 えーーと。

 もっと追加攻撃があるかもしれないな。






「で?」






 辺りは静まり返る。

  岩巨人ゴーレムはその巨体に似合わず、全身をプルプルと震わせていた。


「な、な、な、な、な、な、な、な……………!?」


「まさか、これがブレイブクリティカルじゃないよな?」


「あがあがあががががががががががががががが………!!」


「……遠慮しなくていいから。……来い」


「ふぐぉおぬうぉおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 ゴーレムはパンチを連打した。


「死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇええええええええええええええええええ!!」


 俺は、その全ての攻撃を片手で受け止めた。

 なんなら、よそ見までしてしまう。


 ふむ。

 メエエルは順調に部下モンスターの回復をしてくれているな。いい感じだ。

 負傷者はゼロでこのイベントを乗り切りたい。部下は貴重な労働力だからな。


「なんで!? どうしてぇええええええ!? どうなっているぅうううううううううう!?」


「そういわれてもな。おまえの攻撃が弱いとしか……」


「クソがぁあああああ!! ステータスを黒いモヤで隠しやがってぇえええええ!! 一体、何レベルなんだぁああああああああ!?」


「それ、敵にいう必要あるか?」


「クソがぁあああああああああああああああああああああああ!!」


 勇者は涙目になって……。いや、もう完全に泣いてるな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る