第36話 勇者の奇策
〜〜勇者セア視点〜〜
なんだこいつ!?
しかも、よそ見をしながら、か、片手で受けきっているぅうううう!?
ザウスのレベルはいくつなんだぁ??
大賢者カフロディーテに聞いたところ、この世界のカンストレベルは999だという。つまり、仮にやつのレベルが999としても、どう見積っても
それがこの余裕だとぉ!?
あ、明らかに格上……。
ステータスの差異があったとしても、実力差がありすぎる。
まったく謎はわからんが、
だったらぁああああああああ!!
計画を変えてやる! 勇者を舐めるなよぉおお!!
僕は
「……なんのつもりだ?」
「ククク。これは降参の仕草じゃないぞ」
まずは試し撃ちといこうか。
「おりゃ! バーストパンチ!!」
すると、西側の拳が外れて凄まじい勢いで飛んで行った。
それは1つの山を破壊して戻ってきた。
「ほぉ……。凄まじい破壊力だな」
「ククク。さぁて、残った東側だがな。この先に何があるかわかるか?」
「なんのことだ?」
「
「……それがなんだというんだ?」
「ハハハハ! 空中に映してやるよ。
それは空中に映った遠くの映像だった。
そこには街の姿があった。
「あれは……。ザウスタウン」
「ああ、そうだ。貴様が奴隷たちを監禁し、こき使っている悪の巣窟さ」
「そんなつもりはないがな。しかし、それなら拳を向けている意味がわからん。勇者なら救済する場所だろう」
「ハハハ! あいつらは洗脳されてるからな。悪の巣窟は他の国にとっては邪魔な存在なんだ」
「どういう意味だ?」
「人質にするしか使い道がないということさ。降参しろザウス。おまえの負けだよ。僕がバーストパンチを放てばザウスタウンは消滅するぞ」
これには横にいるミシリィが黙っていなかった。
「セア! こんなことはやめて!! 囚われた領民を救い出すのは勇者の使命だわ!」
「うるさい!! 僕に命令するなぁあああ!!」
あの奴隷どもが許せるもんか。
せっかく救出しようとしてやったのによ。僕に物を投げて来たんだからなぁ。そんなやつらが犠牲になったからってどうだっていうだ。
「ククク。勇者に逆らうやつは『悪』なのさ。僕の恨みは100倍にして返してやる」
「セア! あの人たちには事情があるのよ! 助け出すには会話が必要よ!!」
「そんなもんいるか! 僕は勇者なんだ。勇者はすなわち『正義』なんだよぉ!! 勇者の言葉は絶対なんだ! 反抗するやつは殺しても文句をいえないのさぁあああ!!」
「セア! お願い!! そんなことはやめて!!」
「うるさい!! 黙れバカ女! 僕の足を引っ張るんじゃない!!」
「セア!!」
「あ!! な、なにをする!!」
ミシリィは僕の手を持った。
「クソがぁあああ!!」
パシィイイイン!!
「きゃ!!」
僕は彼女をビンタした。
初めて殴ってしまったが仕方ない。
いくらなんでも無能すぎる。
「うう……」
「目を覚ませよミシリィ。僕は勇者なんだぞ。僕に反抗するなんてあり得ないだろうが」
「目を覚ますのはそっちよ。うう……」
ったく。反抗的な目をしやがって。
こいつが可愛くなかったらボコボコにしているところだ。
「おい。なんだか取り込み中みたいだがな。その手を下ろせよ。ザウスタウンの領民に罪はないさ。彼らの支配者は俺なんだからな」
「はははーーーー!! だからだよぉおお!! ぶっ殺されたくなかったら降参するんだ!!」
「そんなことができるもんか。降参するのはそっちだ」
「交渉決裂だなぁああああ!!」
カハハ!
そういうだろうと思ったよ。
答えなんてどっちでもいいんだ。
ザウスを倒そうが倒すまいが、あの街は破壊するつもりだったんだからなぁ。
「この結果はおまえが降参しなかったからだからな。全部おまえのせいだよザウス。奴隷を見殺しにしたのはおまえの責任だぁああああああ!!」
「やめてセア!!」
「うるさい!! バーストパンチ!!」
ドシュゥウウウウウウウウウウウンッ!!
はい終了。
クソッたれどもは全滅だ。
しかも、それは、全てザウスの責任だからな。
ギャハハハ! ザウスの判断ミスだ!!
魔公爵も奴隷どもも、僕を舐めるからこうなるんだ!!
奴隷は地獄に堕ちるがいいさ。ザウスは自責の念に駆られろぉおお! 自分が取った選択を一生涯後悔しろぉおお! 毎晩うなされるほどのトラウマになるんだぁああああ!! ギャハハハーー!!
「さぁ、みんなでバーストパンチの行方を見ようじゃないか。飛んで行く映像は、さっき空中に出した望遠モニターに鮮明に映っているよ」
ククク。あと数秒で終わりだな。
カカカ! いい気味だよぉおおおお!!
「さぁ、ミシリィも一緒に観よ──」
彼女は
そこは操作室の窓になっていて見晴らしがいい。
「お、おい。離れろよ! そんなところ、危ないぞ!」
この
彼女は大量の涙を流していた。
「心底、見損なったわ。セア」
「な、なんだと!?」
「あなたの横暴は、幼馴染だから大目に見てあげていたけど。もう限界よ」
「は? な、なに言ってんだよ??」
「ザウスタウンには数十万人の領民がいるのよ」
「ははは。愚かなやつらだよな。僕に反抗したんだからさ」
「だからって。あなたに彼らの命を奪う権利はない!」
「あるよ。僕は勇者なんだからさ」
「勇者がそんなに偉いの?」
「ははは! 偉いに決まってるだろ! バカな君とは違うんだ!!」
「……もう限界」
「ははは……。ほら、危ないからこっちこいよ。落ちたら死んじゃうぞ」
「私はあなたの仲間だった。だから、あなたがやった行動には、私にも責任がある」
「は? なにいってんだよ! いいからこっち来いって!」
「ううう……。私は……。今から責任をとります」
し、死ぬっていうのかぁああ!?
飛び降り自殺をするつもりかぁあああああ!!
「ふざけんなぁああああ!! 君が死んだら、ザウスを倒した後のお楽しみはどうなるんだよぉおおおお!?」
「……お楽しみ?」
「きわどい法衣を着てぇええええ! 僕に処女を捧げるんだよぉおおおおおお!!」
「……そんなこと考えてたの?」
「当然だろぉ! 可愛いだけが取り柄の、無能な君を仲間にしてきたのは、それだけが目的だよぉおおお!!」
「……吐きそう」
「早くこっちに来るんだぁあああ!!」
クソ!
操作クリスタルから手が離せないから、動くことができん。
「セア……。あなたのこと。心底、軽蔑する」
「勝手にしろぉおお!! バカに理解を求める僕がバカだったよ!! 君は、きわどい法衣を着て僕に処女を捧げればそれでいいんだよぉおお!!」
そうさ。
もう恋愛なんてどうでもいい。
こいつには僕の性欲処理係になってもらう。
君には、永遠にきわどい法衣を着てもらうぞ。ゲヘヘヘ。
君の大きな瞳も、輝くツヤツヤの髪も、スベッスベの真っ白い肌も、プルップルッの大きなおっぱいもぉおおおお!!
全部、僕の物だからなぁあああああああ!!
「おまえは僕の性欲を処理する運命なんだよぉおおおおおおおおお!!」
「最ッ底……!!」
「ヒャハハハーーーーッ!! 僕を罵ったところで結果は変わらないぞぉおお。運命は絶対なんだ! 魔公爵が『悪』であるようにぃ。勇者が『正義』であるようにぃいいいい!! 運命は決まっているぅううううう!! 君は『性欲処理係』になる運命なんだよぉおおおおおおおおおお!!」
「二度とあんたの顔なんか見たくない」
「ハハハハーーーー!! 無駄無駄ぁあああ!! だからって君の運命は変わらないぃいいいい!!」
死ぬのが怖くなったか!?
ククク。どうせ飛び降り自殺なんてできるもんか。
「さぁ、もういいだろう。茶番は終わりにしよう。君は僕の隣りにいるだけでいいんだからね。ククク。大事な性欲処理係なんだからさぁ」
「さよなら」
え?
瞬時にして、彼女の姿が消えた。
え?
え??
な、なにが起こった!?
彼女は窓から身を投げていたのだ。
そんなバカなぁあああああああ!!
僕の大切な性欲処理係がぁあああああ!!
「ミシリィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!」
☆
〜〜魔公爵ザウス視点〜〜
やれやれ。
ザウスタウンに飛んで行ったバーストパンチを追いに行きたいんだがな。
まさか、僧侶のミシリィが飛び降りるとは思わなかった。
まずは彼女の救出が優先か。
「
ギュゥウウウウウウウウウウウウウン!!
これは加速の魔法。
従来ならば、単なる高速移動なんだがな。
俺のユニークスキル『ステータス2倍強化』の恩恵はここでも生きているらしい。
そのスピードは音速域まで到達しているようだ。
勇者セアは
「ミシリィイイイイイイイイイイ!!」
そうはいくか。
あそこまでド酷い勇者に彼女を任せるわけにはいかん。
俺は
「大丈夫か?」
と、聞いても返事がない。
どうやら、泣きながら気を失ったらしい。
こんなに辛い目に遭ったんだからな。無理もない。
俺はすぐさま着地した。
「アルジェナ! 彼女を介抱してやってくれ!」
「わかったわ!! 任せといて!!」
さぁて、お次はザウスタウンに飛んで行ったバーストパンチだな。
「
音速移動でパンチを追う。
俺の背中越しに、アルジェナの声が響いた。
どうやら勇者に向かって何かを叫んでいるらしい。
彼女の声は、音速域をも超越したということか。
それほどまでに怒っているということだな。
「このド外道がぁあああああ!! あんたなんか地獄行きよぉおおお!! 女の敵ぃいいいいいいい!!」
うん。
全く同感だな。
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