第35話 ゴブ太郎。君のことは忘れない

 これはザウスが到着する少し前の話。


 ゴブリンのゴブ太郎は強大な力を感じ取っていた。


「な、なんだ、この感じ!? とんでもない力が迫ってるゴブ!!」


 その気配は空からだった。


「ハーピー部隊! 確認しにいくハピ!!」


 ハピ江の引きいるハーピーたちが空を舞う。


 しかし、


 数分もしないうちに、全てのハーピーが撃墜された。


「どういうことゴブ!?」


 と、思うや否や、


ドシィーーーーーーーーン!


 彼らの前に飛来したのは全長30メートルを超える岩土の巨人だった。


「何者ゴブ!?」


 巨人の頭部はロボットのコックピットのようになっており、その目からは勇者セアの顔が見えた。

 彼はスイカほどの水晶に手を当ててゴーレムを操っていた。


「ハーーハッハッハッ!! 害虫駆除の始まりだぁああああああ!!」


「あれは勇者ゴブ!!」


「お? おまえはあの時のゴブリンだな」


 以前、勇者セアはゴブ太郎にボコボコにやられたことがあるのだ。


「今回は、この前みたいにはいかないぞ。僕にはこの 究極アルティメット 岩巨人ゴーレムがあるからなぁああ!」


「全員で一斉に攻撃するゴブ!! この広場をなんとしても守るゴブ!」


 モンスターの総攻撃が始まった。

 ゴブリンの棍棒。オークのハンマー。リザードマンの槍。

 それぞれが一斉に 岩巨人ゴーレムに向かって攻撃を加える。


 しかし、モンスターたちの攻撃は全く通じなかった。


「傷一つ与えられないブゥ! おいどんのハンマー攻撃が通じないブゥ!」

「私の槍攻撃も弾かれるリザ! なんて硬い装甲リザ!」


「ハーーーーッハッハッハッ!! 雑魚どもがぁ! この 究極アルティメット 岩巨人ゴーレムに攻撃が通るもんかぁああ!! 貴様らのレベルは所詮は300未満。この 岩巨人ゴーレムのレベルは999なんだからなぁああああああ!!」


 この物語において、レベル999はカンスト値である。

 つまり、この 岩巨人ゴーレムは最強の存在なのだ。


 モンスターたちは 岩巨人ゴーレムの一撃で吹っ飛んでいった。


「くぅううう! こうなったらリザ丸! このことをザウスさまに知らせるゴブ!」


「こんな時は全員で撤退しろというザウスさまの命令だリザ」


「この広場を通したらこの 岩巨人ゴーレムは魔公爵城に着いてしまうゴブ。そうなったらもっと犠牲が出てしまうゴブよ。ここはオイラが食い止めるゴブゥ!」


「ゴブ太郎……おまえ……」


「オイラはみんなが大好きゴブ。ザウスさまも、城のみんなも。そして、人間もゴブ。こんな気持ちになれるのはザウスさまが魔公爵領を支配してくれているからゴブ。オイラはそんなザウスさまに恩返しがしたいんゴブ」


「ううう」


 リザ丸は涙を流す。


「さぁ、行けゴブ。この危険をザウスさまに知らせるゴブ! そして、遠くに逃げるゴブ。この 岩巨人ゴーレムの手が届かないところに避難するゴブ」


「わかったリザ! ゴブ太郎、死ぬなリザ!!」


 こうして、リザ丸は傷だらけの体で魔公爵城に向かったのである。


 残ったゴブ太郎は 岩巨人ゴーレムに全力の攻撃をしかけた。

 

「このこのこのぉおおおおおおおおお! ゴブゥウウウ!!」


 しかし、そんな攻撃が通るわけもなく。

  岩巨人ゴーレムのデコピンによってゴブ太郎は瀕死になってしまう。


「じ、時間を稼ぐゴブ! ザウスさまが逃げる時間を!」


 彼はポーションで回復を試みる。

 そして、逃げながら罵倒する作戦に出た。


「やーーい! ポンコツ勇者ぁああ! こっちゴブゥウウ!!」


 木の影に隠れながら勇者を挑発する。


「ふん! ゴミゴブリンが! ちょこまかと動きよって!!」


 そんなゴブ太郎の作戦だったが、広場から離れられないゆえに、すぐに捕まってしまうのだった。


「ヒャーーーーハッハッハッ!! さぁ、どうしてくれようかぁあああ?」


 セアはゴブ太郎に恨みがあった。

 ゆえに、すぐに殺さなかったのだ。


「さぁって、貴様だけはじっくりと料理してやるぞ。まずは右腕からいってみようか」


 そういって、 岩巨人ゴーレムの大きな指はゴブ太郎の腕を摘んで、ポキっと折った。


「ぎゃぁあああああああッ!!」


「クックックッ! 良い気味だなぁああ! 僕の痛みはそんなもんじゃなかったぞぉお。次は足だぁあああ」


「うぎゃあああああああッ!!」


 セアはゴブ太郎の四肢を破壊した。


  岩巨人ゴーレムを操作する部屋の中には幼馴染の僧侶ミシリィもいた。


「ねぇセア。モンスターといえど、もうとどめを刺してあげましょうよ。これは可哀想だわ」


「ふん。君は黙っていろよ。こいつに殺されそうになったのは僕なんだぞ。君は、あの時の恐怖を知らないだろう?」


「それは……そうだけど」


「一瞬で殺しちゃあ僕の気が晴れないね。僕の痛みを100倍にして返してやらなくちゃ」


 ゴブ太郎は全身複雑骨折。その口からは血を吐いていた。


「で、でも。もう十分でしょ?」


「ちっ! まぁ、そうだな。そろそろ殺してやるか」


  岩巨人ゴーレムはゴブ太郎を地面に落とす。


「さて。最後はプチっと踏み潰してやるかぁああ。蟻んこみたいにさ。雑魚モンスターの最期にはぴったりの死に方だろう」


  岩巨人ゴーレムの大きな足はゴブ太郎を踏み潰す。


「それぇえええええええ! プチッとぉおおおおお! プチィイイイイイ──。プチィイイイ……。プチィ……?」


  岩巨人ゴーレムを操作している水晶からは、その巨体から感じ取れる感覚が伝わる。

 彼はその違和感を感じ取っていた。


「おかしいな? なんだか地面に触れてないぞ??」


 いくら押しても、足が地面につくことがない。


「どうなっているんだ?」


 その足は1人の男によって支えられていた。

 ゴブ太郎の霞んだ視界には、懐かしい背中がボンヤリと見える。

 黒いマント姿……。


「ザ、ザウスさま……」


「バカが。こういう時は逃げろと言ったろ」


 ゴブ太郎は涙を流す。

 嬉しいやら、体が痛いやらで、よくわからない感覚だ。


「な、なんで……逃げなかったんゴブか?」


「アホ」


 ザウスがほんの少し力を込めると、 岩巨人ゴーレムの巨体は20メートルほど吹っ飛んだ。勇者の悲鳴が空に響く。


「あぎゃああああ!!」


 ザウスはゴブ太郎に手をかざした。


「部下を置いて逃げるわけがないだろ。 最上級エキストラ 回復ヒール


 ゴブ太郎の傷は全快した。


「部下を守るのも支配者の勤めさ」


「ザウスさまぁああ!」


 ゴブ太郎は号泣する。そのままザウスに抱きついた。


「うぇええええええん! ザウスさまぁあああああ! ゴブゥウウ!!」


「よしよし。よくがんばったな」


「ザウスさまぁあああああああああああ!!」


「ったく。無茶しやがって」


「ザウスさまぁああ。オイラ、みんなを守りたかったんゴブゥウ」


「ああ。リザ丸から聞いたよ」


「ザウスさま。ザウスさまぁああああああ!!」


 二度と会えないと思ったのだろう。感極まったゴブ太郎は、ザウスの胸に顔を埋めた。


「い、一緒に逃げるゴブ。グスン」


「なんで逃げる必要があるんだ?」

 

「だ、だって……。あ、あいつめちゃくちゃ強いゴブよ」


  岩巨人ゴーレムはザウスの前に立った。


「ほぉおお〜〜。おまえが魔公爵ザウスか?」


「そうだ。勇者にしては随分とデカいな」

(こいつが乗っているのは 究極アルティメット 岩巨人ゴーレムだ。これは、魔王を倒してから手にいれるエンドコンテンツの乗り物なんだがな。どうやら、ストーリーの改変が相当にバグっているらしい。やれやれ。助かった。やはり、勇者は侮ってはいけないな)


「ふん。おまえの父親、魔公爵ゴォザックは、僕がぶっ殺してやったんだぞ?」


「ああ。それは知ってる。父は傍若無人な魔貴族だったからな。部下をなぶり殺し、人間は奴隷としてこき使っていた。死んで当然の存在さ」


「ククク。悪は滅ぶのさ」


「面白い理論だな」


「おまえも悪だ」


「ああ。俺は魔公爵だからな。悪の支配者だ」


「だったら死ねよ」


  岩巨人ゴーレムは凄まじいスピードでパンチを繰り出した。


「うわぁああああ! ザウスさまぁあああ!! 逃げるゴブゥウウウウ!!」


「ヒャッハーー!! 死ねぇえええええええええええええええ!!」




ガンッ!!



 それは、不思議な接触音。


「死ね! 死ね! 死にさらせぇえええええええええええ!!」


 パンチの連打。



ガンガンガンガンガンガンガンガンッ!!

 


 ゴブ太郎は恐怖のあまりに目を閉じていた。

 体に伝わる衝撃音で恐る恐る目を開ける。


 そこには、片手だけで全ての攻撃を受け切るザウスの姿があった。


「ザ、ザウスさま!?」


「逃げるのは勝てない時だけだな」


 勇者セアは汗を飛散させた。


「クソがぁあああ!? 攻撃が通じねぇえええええ!! しかも、ザウスの野郎ぉ。ステータスを隠してやがるぅうう!!」


 それは隠蔽の魔法だった。

 ステータスは黒いもやがかかって見えないようになっているのだ。


「おかしいだろうがぁああああ!!  究極アルティメット 岩巨人ゴーレムのレベルは999だぞぉおおおおお!? どうして攻撃が通じないんだぁああ!?」


 それでも、ザウスは余裕だった。

  岩巨人ゴーレムの連打を片手で防ぐ。しかも、よそ見をしながら。




「どうなってんだぁああああ!? おまえのレベルはいくつなんだぁああああああ!?」




 この物語のカンストレベルは999が最高値である。

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