第34話 勇者が来る

〜〜魔公爵ザウス視点〜〜


 そういえば、スパイで活躍してくれていたスターサの容体が気になるな。体調不良という手紙が来ただけで、お見舞いには行けてなかった。


「スターサの体調はどうなんだろうか?」


「心配なのですか?」


「バカをいうな。魔族が人間の心配をするものか。彼女はたくさん活躍してくれたからな。元気になればまた働いてくれるという算段さ」


「きっと孤児院で療養していると思いますが」


「ふぅむ」


「彼女のことです。ザウスさまが顔を見せてあげれば、きっと元気になりますよ」


「おいおい。俺は魔公爵だぞ。人間1人の体調不良でいちいちお見舞いなんていけるもんか。それに今は勇者がいつ攻めてくるかわからないんだ」


「では、使いの者を出して状況を把握しましょうか」


「うむ」


 あーー。


「そういえば、果物の貯蔵庫に賞味期限が切れそうな果物がたくさんあったな。腐らせてはもったいない」


「ご安心ください。そういう果物はオークが処理をいたします。我が城で、食物の廃棄は一切ございません」


「そうか……。しかし、オークの肥満は問題だな」


「はぁ……。肥満でございますか?」


「うむ。肥満は寿命を縮めることになる」


「では、どういたしましょうか?」


「そのまま廃棄するのはもったいないだろう。熟れている果物は孤児院に持って行ってやれ」


 それを聞くと、メエエルは何かを察したように微笑んだ。


「スターサはモモーンとブドウマールの果物が大好きです」


「うむ。じゃあ、それを多めで持って行くんだ」


「承知しました。ちょうど使いの者を出すところでしたから、その者に持っていってもらいましょう」


「うむ。しかし……。孤児院は子供が多かったな」


「そうですね。少量の果物だと取り合いになってしまうかもしれません」


「そうか。そうなると喧嘩になるな」


「なりますね」


「不用意ないざこざはスターサの病状を悪化させる原因になるかもしれん。果物は孤児たち全員に行き渡るように持って行くんだ。いいな」


「承知しました」


「あくまでも廃棄処分の削減だからな。そこだけは履き違えないようにな」


「は!」


 と、凛々しく返事をした後にクスリと笑った。


 やれやれ。

 なにか勘違いしてなければいいがな。

 孤児たちは将来の労働力にすぎん。

 これは、あくまでも、未来に向けての投資なのだ。しかも、廃棄処分の削減を兼ね備えているからな。まさに一石二鳥だよ。


 それから数時間後。


 孤児院に行ったハーピーが血相を変えてやってきた。


「ザウスさま、大変ハピ! スターサが行方不明になっていたハピ!」


「なんだと!? いつからだ?」


「1か月も前からハピ!」


 なんてことだ。

 病欠で休むという手紙はなんだったんだ? 


 これは捜索隊を出さなければならないな。


 大切な労働力の消失だよ。

 絶対に見つけ出さなければ。


 と、そんな時である。


 部下モンスターのリザードマンが血だらけでやって来たのだ。


「た、大変リザ! ゆ、勇者が攻めて来たリザ!」


 やれやれ。

 どうやらこっちが優先のようだ。


 リザ丸め、傷だらけじゃないか。

 劣勢なのかな?


「ゴブ太郎の話では、勇者の実力は激弱なんじゃなかったのか?」


「い、岩土でできた巨人……。ゴ、 岩巨人ゴーレムに乗っているリザ」


  岩巨人ゴーレムだと!?


「他のみんなはどうしたんだ? 森の広場はみんなで警戒していたはずだ」


「み、みんなやられちゃたリザ。 岩巨人ゴーレムが強すぎるリザ」


 やれやれ。

 全員、軒並み200超えのレベルだぞ。

 それを凌駕する 岩巨人ゴーレムか。


「ゴブ太郎が戦ってくれて……。私を逃がしてくれたんリザ……。こ、このままじゃ、全員殺されて……しま……ガクリ」


 と、涙を流して気を失った。


最上級エキストラ 回復ヒール


「は!? き、傷が治ってるリザ!」


「よく知らせてくれた」


「ザウスさまぁああ! ゴブ太郎を助けてやって欲しいリザァア!!」


「うむ」


 モンスターのことなんかどうでもいいがな。

 俺の部下を傷つけたことは万死に値する。


「城内は厳戒態勢に入れ!」


 俺の言葉で部下たちは一斉に動き始めた。武器を持って配置につく。


 よし。

 城のことはみんなに任せて、俺は現場に行くか。


「ザウス。あたしも行くわ」

「私も。なにかお役に立てることがあるかもしれません」


 アルジェナにメエエル……。


「よし。3人で行こう」


「では馬を用意させます。ここからなら1時間で着きます!」


「いや。それじゃあ遅い。移動魔法を使う」


「え?  戻るリターンの魔法はペガサスの翼と同じ効果。拠点の街に戻るだけですよ?」


「そんな魔法は使わないさ」


「じゃあ、どうやって移動を?」


「2人とも俺の手を持て」


 2人が俺の手を握る。


 よし。


加速アクセル


ギュゥウウウウウウウウウウウウウウン!!


「ちょ! 早ぁあああああああああ!!」

「こ、この魔法は高速移動の魔法! 従来ならば短距離を移動するだけの戦闘専用の魔法なのに!!」


 そう。

 この 加速アクセルは戦闘用の魔法。

 しかし、


「大量の魔力を消費することで移動用に使えるんだ」


 俺たちの体は高速移動で野を駆けた。


 凄まじい風がアルジェナの髪を揺らす。


「め、目が……。開けられないわ」


「もうすぐだから堪えてくれ……。見えたぞ」


 うん。

 広場だ。

 真ん中で動いているデカいのが 岩巨人ゴーレムだな。


「よし。到着」


キキキィイイイイイイイイイイイイッ!!


「早ぁあああああ!! 5分も経ってないじゃない!!」

「す、すごいです!! まさかここまで早いとは!!」


 さて。


「メエエルは怪我人の治療。アルジェナは臨戦態勢だ」


「承知しました!」

「任せといて!」


 さぁ、戦闘だ。

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