第33話 勇者は大賢者に会う

 僕とミシリィは転移魔法陣の中央に出現した。


 もう移動したんだろうか?

 ここはどこだ?


 すると、目の前に1人の女の子が立っていた。


「ほぉ。客人とは珍しいのぉ。しかし、その転移魔法陣はメコンデルラの兵士によって通行禁止になっていたはずじゃが?」


 なんだこの子供は?


「君には用はないよ。僕は勇者セア。大賢者に会いに来たんだ」


「なにしに来たんじゃ?」


「だから、ガキには用はないってば」


「言葉遣いが悪いのぉ」


 なんなんだよぉ。

 見た目は少女なのに、気味の悪い言葉遣いをしやがって。


「僕は勇者なんだ。勇者の仕事はこの世を平和にすることさ。だから大賢者に会いに来たんだ。居場所を知っているなら教えろ」


「それが人にものを頼む態度か?」


「おまえみたいなガキに用はない。会いたいのは大賢者だ。この場所にいるんだろ?」


「まぁ、そうじゃな」


「だったら会わせるんだな。そもそも、おまえは子供の癖に生意気だぞ。もう少し目上に対する言葉遣いを考えるんだな。目上には敬語だろうが。バカが。それとも僕が教育してやろうか? 僕はね。生意気なやつは、子供だろうと老人だろと躊躇なくぶん殴れるんだからな。そういう優しさを持った勇者なんだからな。強引に土下座さしてやろうか? んん?」


「強引?」


「力づくってことさ」


「ほぉ。どうやるのじゃ?」


「ちょ! セア。こんな子供にやめてあげて!」

「うるさい!!」

「きゃ!」


 僕はミシリィを振り払った。


 子供だからって教育を間違ったら礼儀を知らない大人になるんだよ。

 この子のためには暴力による教育は必要なのさ。これは僕の優しさなのさ!


「ククク。はっ倒してやる。教育的指導ぉおおおおおおお!!」


 僕は少女めがけて平手打ちを放った。

 

 突然。

 凄まじい光の波動が僕を襲う。


 なにぃいいいい!?


 僕はそのまま壁に激突した。


「ぐぇえええ!?」


「礼儀を知らんやつじゃなぁ」


 な、なんだと!?


 と思うや否や、僕の体は宙に浮いた。

 そして、そのままフワフワと空を飛んで子供の前に到達した。


「教育はビンタじゃったな」


 といって、彼女は俺の頬をビンタで連打した。


バシバシバシバシバシバシバシッ!!


「ほげらぁあああ!!」


「教育的指導じゃ」


 つ、強えええええ!!

 なんなんだ、このガキぃいい!?

 ステータスを見てやる!


「ゲェエエエエッ! レベル220だとぉおおお!?」


わしはカフロディーテ。おまえが会いたがっとる大賢者じゃよ」


「えええええええええええええええ!?」


 まさか、こんな子供だったとは……。

 そういえば、大賢者は不老の術を使って歳を取らないという話だったな。


わし。こう見えて1100歳じゃからの。お主より年上じゃぞ」


「すいませんでしたーー!」


「おかしいのぉ。メコンデルラとの契約では魔公爵を倒さなければ転移できぬはずじゃが……。お主のステータスではザウスは絶対に倒せるはずがないしの」


「なに!? ザウスのことを知っているのか!?」


「知ってるもなにも……。あやつは将来のお婿さ……。ごほんごほん。なんでもないわい。とにかく魔公爵のことはよく知っておる」


「だったら話は早い! 力を貸してくれ! 僕はやつを倒したいんだ!」


「ふぅむ」


「ザウスを倒してこの世を平和にする!」


「ほぉ」


「頼む! 仲間になってくれ! 僕と一緒に平和な世界を作ろう!」


「平和とは、様々な見解があるな」


「はぁ? なんのことだよ??」


「平和の形は人によって違うんじゃよ」


「はぁああああ? 平和は平和でしょうがぁ?」


「では、お主のいう平和とはどんなものだ?」


「そりゃあ、魔族がいない世の中でしょう。人間だけの世界になることだ」


「ふぅむ……。たしかにの。それも平和じゃな」


「だったら仲間になってください!」


わしの平和は違うんじゃ」


「な!? なにぃいいい!?」


「最近、平和の価値観が変わった」


「おいおい。どう変わったっていうんだよ?」


「それはいえぬ」


「はぁああああ?」


「今は研究段階なのじゃよ。わしは真の平和を探求しておるのじゃ」


 おいおい。

 なんだこのガキは?

 難しいことをいって煙に巻く寸法か?


「仲間になる条件があるならいってくれ! できる限りのことはする!」


「それはできぬ相談じゃな。わしは研究で忙しいのじゃ」


「なにぃいいいいいいいいいい!?」


 

 ☆


〜〜大賢者カフロディーテ視点〜〜


 厄介なことになったのぉ。

 まさか勇者がここに来るとは……。


 ザウスがここに来たのがつい2週間前のことだ。

 わしは翌日に返事をした。


「ザウス! 契約成立じゃ!」


 わしはザウスの配下になってしまったのじゃ。

 勇者からすれば、敵側の人間じゃのう。


 ザウスは底抜けに優しい魔族じゃよ。

 ザウスタウンでは領民が幸せに暮らしておる。

 ザウスこそがこの世の救世主といっても過言ではないじゃろう。


 真の平和とは、ザウスが支配者になることなのじゃ。

 魔族と人間が仲良く暮らす。それがわしの平和といっても良いじゃろう。


 しかし、これはまだまだ飛躍した考えなのじゃ。とても他言はできぬ。

 公言ができる頃には、わしはザウスのお嫁さんに……。


 いかんいかん。

 ザウスのことを考えるとついつい我を忘れてしまう。


 しかし、困ったのう。そんなことを勇者にいうわけにもいかんしぃ。

 どうしたもんじゃろうか?


「頼む! 仲間になってくれ!! どうしてもあんたの力が必要なんだ!!」


 やれやれ。

 こう熱心に頼まれたら断り辛いのじゃ。


 仕方ない。


「協力はしてやろう」


「本当か!?」


「仲間にはなれんが、わしの魔研究を見学させてやろう。手頃なアイテムがあれば1つだけくれてやるのじゃ」


 接待をして帰ってもらうのが吉じゃな。

 適当に魔法のアイテムでもプレゼントしてやるか……。使用すれば体力が全快するエリクサーでも渡してやれば喜ぶじゃろう。


 わしは勇者に研究所を案内した。

 彼は口を大きく開けて感銘を受けていた。


「すごい魔研究だ!」


 ふふふ。


「当然じゃな。わしは天才じゃからな」


 わしの力は強大すぎるのじゃ。

 よって、メコンデルラ領の監視下になってしまった。

 こんな孤島で研究をしておるのはその影響なのじゃ。


「これは『半減の法典』じゃな。どんなレベルの相手でも半分のレベルにしてしまう弱体化アイテムじゃ」


「す、すごい」


「そして、こっちが『魔力封じの首輪』これをつければ魔力を完全にゼロにできるのじゃ」


「あっちに見える大きな巨人はなんだ?」


 それは30メートルほどの巨大な石像。


「ふふふ。あれはわしが作った最高傑作。 究極アルティメット 岩巨人ゴーレムじゃ。レベル999の最強の巨人じゃよ」


「なにぃいい!? レベル999だとぉおお!? 無敵ではないか!」


「しかし、動力源が見つかっておらんのじゃ。それは特殊な力が必要でのぉ。わしの魔力はおろか、魔公爵ザウスの強力な魔力でさえも動くことはなかったのじゃ」


「ふぉおおおおおおお……!!」


 ふふふ。

 痙攣を起こすほどに感銘を受けておるわい。


 


〜〜勇者セア視点〜〜


 ついてる!

 つきまくっているぞ!

 やはりここへ来て正解だった!


 3つのアイテムがあれば最強になれる。


 魔力をゼロにする首輪。

 レベルを半分にする法典。

 そして、レベル999の 岩巨人ゴーレムだ。


 こ、この3つのアイテムがあれば敵なしだぞ。

 なんとしても奪ってやる。


「以上で研究所の見学はお終いじゃ。ほれ。万能薬のエリクサーをやるから帰るのじゃ」


 ククク。


「んなもん、いるかよ!」


「なんじゃと!?」


 僕は瞬時にしてカフロディーテに首輪をはめた。


「こ、これは!?」


「ククク。魔力封じの首輪。自分で作ったアイテムをはめる気分はどうだ?」


「ぬ! いかん……。魔法が使えぬ!!」


「ハハハ! いくらレベル220でも魔力がゼロになった賢者は雑魚だなぁ!! 僕の筋肉の前では無力だ!」


「こ、こんな首輪!」


「おっと、外させるわけにはいかんぞ」


 僕は、彼女の首を片手で鷲掴みにして持ち上げた。


「うぐぐぐぅ……」


「ククク。どんな気分だ大賢者? さっきは偉そうに僕にビンタをしてくれたなぁ? 今なら、簡単に首の骨を折ることができるぞぉ。んん? さぁ、どうして欲しい? ククク」


「も、目的をいうのじゃ」


「ククク。ここにある強力な魔法アイテムをもらっていく。半減の法典と、あそこにある 究極アルティメット 岩巨人ゴーレムだ」


「ゴ、 岩巨人ゴーレムは動かぬ。動力源が、まだ見つかっておらんのじゃ」


「ククク……。勇者を舐めるなよ」


 僕の右手の甲は 岩巨人ゴーレムと共鳴するように青白く輝いていた。


「そ、その紋章は!?」


「ククク。勇者の証さ」


 感じるぞ。

 神の導きを。


 その証拠に、あの 岩巨人ゴーレムの頭上に『!』マークがついているじゃないか。

 このマークがあるということは、なにかイベントが発生する証拠だ。

 

 ククク。

 未知の動力源。それは勇者の証から発生される勇者の力だったのさ。


 あの 岩巨人ゴーレムを動かせるのは僕だけだ。


 ククク……。

 僕は無敵だ。


 たとえザウスのレベルが最高値の999だろうと、半減の法典を使えば半分のレベルにできる。

 やつのレベルを499にして、レベル999の 岩巨人ゴーレムで攻撃を加えればひとたまりもないはずだ。


「バ、バカな……。 岩巨人ゴーレムが勇者の証と共鳴しておる。お主の力が動力源だったのか……」


「ククク。そういうことだな」


 ハハハ!

 勝った!


 勝ち確だ!


 100パーセント僕の勝利!!


「やはり、最後に勝つのは勇者なのだ! ハーーーーーーーハッハッハッ!!」


 絶対の絶対に勝てる!


 待っていろ雑魚魔公爵!


 貴様をなぶり殺しにしてやるからなぁああああああ!!

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