第32話 勇者は転移の祠に行く

 僕とミシリィは転移の祠に入った。


 そこは遠く離れた場所でも、転移魔法によって移動できるという。


 入り口には2人の門番が立っていた。


「この先は危険だ。この門を通すわけにはいかない」


 やれやれ。無能どもが。


「僕は勇者です。この甲に浮かび上がる紋章が、『勇者の証』」


 ククク。

 この紋章があればほとんどの国境は渡ることができるのさ。


「ダメだ。魔公爵ザウスがいる限り。この先へは通すことができない」


 にゃにぃいいい!?


「僕は勇者だぞ!」


「ダメなもんは、ダメだ。この大陸は魔公爵ザウスによって支配されようとしている。この先を通すことはザウスの力を拡大する恐れがあるのだ」


「チィ!」


 そのザウスを倒す手がかりが欲しいからここに来てんだよ、クソが。


「セア。もう行きましょうよ。ここを通ることはできないわ。それに……。魔公爵ザウスって本当に悪者なのかしら? ザウスタウンの人々は、どう見ても平和に暮らしていたわ。やっぱり、倒すべき存在じゃないのかもしれない。ここはロントメルダに戻って国王に事情を説明すべきよ」


「ふざけるなよ。このお荷物が!」


「ちょ! その言い方は酷いじゃない!」


「君の無能っぷりには疲れてしまうんだよ! いちいち僕の足を引っ張るんじゃない! ザウスタウンの奴隷どもは洗脳されているのさ! 洗脳って言葉知ってるかい?」


「せ、洗脳くらい知ってるわよ! で、でも操られているようには思えないわ! 心の底からザウスを慕っているように見えたわよ」


 やれやれ。

 

「それが洗脳なのさ。本人の預かり知らぬところで洗脳の力が作用しているんだよ。洗脳とはそういうもんさ。もういいだろう。僕に完全論破されたんだ。バカは黙っていろよ」


「うう……。そ、そもそもだけど。洗脳されててもいいじゃない。囚われたみんなが、領民として幸せに暮らせているなら助ける必要ないもの」


「ぬぐぅ! み、見苦しいぞバカ女! 僕に論破されたからっていちいち反論してくるんじゃない!!」


「は、反論じゃないわよ! 事実をいったまででしょ!」


「それが反論なんだよ! 君はバカなんだから頭のいい僕についてくればそれでいいんだ!」


「バカにしないで! 結局、私をバカ扱いして話が終わっているわ!」


「やれやれ。僕も君と同じ。事実を指定したまでだぞ。人は生まれついての才能があるんだ。僕は秀才。君はバカだ。これは神が与えた運命であり事実だよ」


「うう……。領民もいっていたけれど、人は努力で変われると思うのよ。魔族だって改心すれば善人になれるわ。それに話しがズレてきてると思う」


「やれやれ。論点ズラしは君の得意技だろ。人は変われないね。バカは永遠にバカなのさ」


「うう。セアは努力して筋肉モリモリになったじゃない」


「これは成長だよ。変化じゃない。バカは永遠にバカ。魔族は永遠に『悪』なのさ。こんなことは成長しても変わらないよ。例えばだけど、僕が努力して女になれると思うかい?」


「それは……。なれないけど」


「だろぉおおお? じゃあ、君が努力をすれば『男』になれるのかなぁああ? どうなのかなぁ? 変われるのかなぁああ?? ねぇ、どう思う? ねぇ、ねぇ?」


「ううううう。そんなのなれっこないよ」


「そういう話ぃいいいいいいいいいいいいいいいいいい! じゃあゴブリンはぁああ? ゴブリンは努力すれば人間になれるのかなぁああ? ねぇなれるぅうう? 変われるぅううう?」


「か、変われない」


「だよねぇえええええ! じゃあ、鳥は? カエルは? トカゲはどうかなぁあ? 努力したら人間になれるのかなぁあああああああ?」


「なれない」


「はい論破ぁああああああ! 完全、完璧に論破ぁああああ!! 説明するの長ぁああああああああ!! 疲れるぅうううう!! バカと話すとこれだけ時間を食うんだよ。だから、黙って僕のいうことを聞けといったんだ。わかったかい?」


「うううう」


「魔族は『悪』なんだ。勇者は『正義』なんだよ。こんなことは決まっていることなのさ。努力なんかじゃ絶対に変わることはないんだよ。すなわち、『悪』に囚われた人間は奴隷であり、不幸なのは確実ということさ。だったら助け出すのが勇者の役目だよね? 違うかい?」


「うう……。で、でもぉ……。価値観と種族は別の話で……。種族は固定概念だけど。価値観は常に流動性があると思うんだよね。2つの系統を同系列にして話すのは無意味だと思うわ。正義と悪の話は価値観を基準に話さないと成立しないんじゃないのかなぁ?」


 固定概念?

 流動性??


「おいおーーい! 完全に論破されたからって意味不明な話にすり替えて煙に撒こうったってそうはいかないぞ。君の口調は完全に詐欺師の手口と同じだね」


「さ、詐欺じゃないわよ!」


「はいはい。君のバカ話なんて僕には通じないよ。そもそも、勇者なのは価値観じゃないね。運命だよ。魔公爵は『悪』。勇者は『正義』なのさ。すなわち、正義である僕の話は絶対なんだ」


「ううう……。話しが噛み合わない」


「もう黙ってついて来いよ。君は無能なんだからさ。僕の邪魔をするんじゃないよ」


「ううう」


 門番は眉を寄せた。


「ここはカフェじゃないんだ。おしゃべりなら他でやってくれ。さぁ、立ち去るがよい」


 ふん。

 偉そうに。

 僕は勇者だぞ!


「おらぁ!」


 僕は門番を殴りつけた。


 2人の門番は僕の攻撃によってあっけなく地に伏せる。

 僕はストレス発散も兼ねて門番の顔を殴りまくった。


「おら! おらぁあ!! 僕は勇者っていってんだろうがよぉお!!」


 ここぞとばかりに殴りまくる。


 あーー最高。

 ちょっとしたストレス発散だな。


「セア! やめて!」


 ちぃいい。気分が乗ってきたとこなのにぃ。

 しかし、これ以上はミシリィの心象が悪いか。

 あくまでも僕は彼女の恋愛対象だからな。

 優しいところをアピっておくか。

 

「わかったよ。君が止めるからやめてあげるよ。君が止めるからね」


「こんな暴力……。酷いわよ」


「仕方ないだろ。勇者に反抗するんだからさ。すなわち、それは『悪』だよ」


 彼女は門番に回復魔法をかけようとしていた。


「やめろ! この祠に入れなくなる」


「うう……。じゃあ、せめて薬草を置いておきます。ごめんなさい」


 ったく。

 無駄な出費だなぁ。貴重な薬草なのにさ。


 僕たちは祠の中に入った。


 すると、広い部屋の中に大きな魔法陣が描かれていた。


「この中に入れば大賢者の住む場所に行けるんだ」


 僕たちは魔法陣の中心に入る。

 すると、転移魔法が作動した。


「きゃ!」


「安心しろよミシリィ。もっと僕にくっつくんだ。僕が君を守ってやる」


 あーー。

 ミシリィって髪の毛がサラサラでいい匂いがするなぁ。

 肌は真っ白でスベスベ。手はちっちゃくて指は細い。

 大きなおっぱいが体に密着して最高だぁ。グフフフ。

 絶対にザウスを倒して君の処女をもらうからね。

 その時はめちゃくちゃエッチなきわどい法衣を着てもらうんだからなぁああ。デュフフフ。


 さぁ、ザウスを倒すため。

 大賢者に協力してもらうぞぉぉおおお!

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