第31話 勇者はザウスタウンを発見する

〜〜勇者セア視点〜〜


 僕とミシリィは魔公爵領を探索していた。


 と、いっても、警戒をしながら姿を隠しながらである。


「ね、ねぇ。もうメコンデルラに戻りましょうよぉ」


「戻ってどうするんだよ!」


 ゴブリンのレベルは270もあるんだぞ。


「メコンデルラで経験値を稼いで強化を図ればいいじゃない」


「何年かかると思っているんだ! 僕のレベルは82なんだぞ!」


「け、堅実にやればいいじゃない」


「バカ! 僕は今のレベルになるのに5年もかかったんだ! のそのそやってちゃ英雄になれないよ!」


「そ、そんなの別にいいじゃない! 実直に。堅実に強くなることが重要なのよ!」


「うるさい! レベル10の雑魚のくせに! 僕に意見するな! 君は黙ってついてくればいいんだよ!!」


「うう……。それをいわれると辛いなぁ。……でもさ。セアの命を助けたのは私だと思うんだよね」


 ぐぅううう!!


「恩着せがましいな君はぁああ!! 仲間は助け合うものだろうがぁああああ!! じゃあ、なにかい!? ここに来るまでに僕が君を助けなかったとでもいうのかい!?」


「それは……。ごめんなさい」


「ったく! 雑魚は黙っていろよ。僕は頭がいいんだから! 必ず勝機を見つけてやるさ!」


 周辺にはモンスターはいなかった。


 やっぱりあの森の中の広場だけに集中しているようだな。

 魔公爵城へはあの広場を通る必要があるのか……。


 くそ。

 なにか切り口はないのか!?


 と、彷徨っていると、大きな街を見つけた。


「な、なんだあれ!?」


 僕たちは街に入った。


 そこには魔公爵ゴォザックの奴隷狩りで集められた人々が暮らしていた。


 うは!

 やった奴隷たちを見つけたぞ!

 このままこいつらを逃してロントメルダに返せば僕は英雄だ。


「やったわねセア! 大手柄よ!」


「ああ! だからいったろ! 僕のいうとおりにしていれば間違いないってさ!」


 クハハ!

 運が向いて来たぞ。


 ここまで来るのにモンスターの遭遇はなかったからな。

 逃走経路はバッチリ確保できている。

 最高だ!

 戦わずして奴隷を解放する!


 やっぱり僕は頭がいい!!

 この功績で国王より褒美をもらって、強力な装備を整えてやるんだ!


 僕たちは適当にその辺を歩いている男に声をかけた。

 そいつは奴隷とは思えないほど身なりが綺麗だったが、きっと辛い目に遭っているに違いない。


「おい! 僕は勇者セア! 助けに来たぞ!」


「え? ゆ、勇者さま?」


「ははは。もう安心していいぞ! ここから逃してやる!」


「あ、いや……」


 おいおい。

 なにを戸惑っているんだよ。

 感の鈍いやつだな。

 そこは大喜びで飛び跳ねるところだろうがよ。


 ええい。

 こんな雑魚は放っておこう。

 

 周囲にモンスターはいないみたいだし。

 全員に声をかけてやる。


「みんな、聞けぇえええええええ!! 勇者セアが助けに来たぞぉおおおおおおおおお!!」


 すると、奴隷たちは僕の周りに集まった。


「ははは! みんなよくがんばった! 僕は勇者セア! この苦しい世界から救いに来たんだ!」


「べ、別に苦しんでないが……」

「勇者か……」

「助けに来たといわれてもなぁ」

「これが苦しんでいるように見えるのか?」


 ったく! 

 どいつもこいつもバカばっかりだな。


「あなたたちは魔公爵ザウスに捕えられた奴隷でしょう! 安心して欲しい! 魔の手から解放するのはこの勇者セアなのです!」


 群衆は騒ついた。


 なにをボソボソ言ってんだよぉおおおお!

 アホどもがぁあああああ!!

 そこは歓喜して僕に感謝の涙を流すところだろうがぁあああ!!


 人だかりから1人の老人が現れる。


「そなたが勇者か。わしはザウスタウンの町長をしている者じゃ」


 ザ、


「ザウス……タウンだと?」


「そうじゃ。ここはザウスさまが作ってくださった。わしたちの街なのじゃよ」


「はぁ?」


「奴隷という呼び名は廃止され、みな、領民として楽しく暮らしておる」


「なにぃいいいいいいいいい!?」


「驚くのも無理はない。魔公爵ゴォザックが亡くなって、そのご子息のザウスさまが跡を継がれた。この魔公爵領は生まれ変わったのじゃよ」


「ふざけんなぁああああ!! ザウスはゴォザックの息子だろうがぁああああ!!」


「そうじゃよ。れっきとした魔族じゃ。じゃが、とてもお優しい方なのじゃよ」


「アホかぁ! みんなは騙されてんだよぉおおおおおおおおおおおおおお!!」


 優しい魔族なんているもんかぁああああ!!

 アホすぎだろうがぁああああああああああ!!


 あーー。

 ダメだ。

 こういう時こそ落ち着いて喋らないとな。

 知能に差がつきすぎて、天才の会話が理解できなくてっているんだろう。

 丁寧に噛み砕いて話してやろう。


「あーー。落ち着いて、よく聞いてくれ町長。魔公爵ザウスは魔族だ」


「そうじゃよ。額には立派な角があり、肌は青い。あの方は立派な魔族じゃよ」


「ははは」


 なにが立派だよアホか。


「コホン。魔族は悪なんだ」


「……それはわからんじゃろう」


「ははは……。落ち着いて聞いて欲しい。生物は生まれながらにして運命が決まっているんだよ。これは残酷なことだが仕方がないことなんだ。僕は勇者の祖先。すなわち『正義』だ。魔公爵は魔族。つまり『悪』だよ。これは神が与えた運命なんだ」


 周囲は騒ぎ出した。


「そんなことわからねぇじゃねぇか!」

「正義の魔族だっているかもしれないわよ!」

「そうだそうだ!」

「生まれながらに運命が決まっているなんておかしいわよ!」

「努力で変われるんじゃないのか!?」


 やれやれ。

 これだから、バカどもは……。

 人の身分は努力なんかじゃ変わらない。悪に生まれた者は永遠に悪なのさ。

 こんな当たり前のことを説明しなければならないなんてな。クソ面倒だが仕方ない。これも神が与えた試練か。


「みんな落ち着いて聞いて欲しい。これは真実なんだ。人は生まれながらにして神から役割を与えられている。バカは死ぬまでバカだし、僕みたいな秀才は、やっぱり頭がいいんだよ。それは努力ではどうしようもないことなんだ。だから、勇者として生まれた僕は永遠に『正義』だし、魔族とてい生まれたザウスは永遠に『悪』なんだ。正義は悪を倒し、悪は正義によって滅ぼされなくはならないんだよ」


「ふざけんな! ザウスさまは『悪』じゃねぇええええ!!」

「そうよ! ザウスさまは悪者なんかじゃないわよ!」

「ザウスさまは救世主だ!」

「ザウスさまこそ、この世の『善』だ!!」

「そうだそうだ! ザウスさまは『いい魔族』だ!!」


 あーー。

 こりゃ、完全にやられている。


「みんな洗脳されているんだよ。狂ってしまったんだ! 正気に戻ってくれ! ザウスなんかに利用されては人生詰みだぞ!!」


「私たちは狂ってなんかいない! ザウスさまは年貢を6割にしてくれているんだぞ!! 下水道は整備されて清潔だ! 医療に学校。遊ぶ場所だって充実してんだ! これだけ優しい貴族がどこにいる!?」


 なに? 年貢が、


「6割だとぉお!?」


 普通は8割だろ。7割でも相当な緩和だというのに。それが6割だなんて、


「そんな低い割合の年貢があるか! 貴族でもあり得ないのに、まして奴隷だぞ! 絶対に有り得ないだろうが! 嘘をつくんじゃない!」


「それがあり得るのじゃよ。年貢を緩和し、我々に自由と平穏を与えてくれる。それがザウスさまなのじゃ」


 女は赤ちゃんを見せた。


「私はこの街で結婚してね。この子を授かったのよ。ザウスタウンじゃ、自由に恋愛だってできるんだから」


「ふざけんなぁあ!! 奴隷の分際でぇええ!!」


 すると、物が飛んで来た。


 痛っ!


「ちょ! 誰だぁ!? 物を投げたやつはぁ!?」


「俺たちは奴隷じゃない!」

「そうよ! 私たちは領民だわ!」

「ザウスさまは我々を尊重してくれているぞ!!」


 クソがぁ!


「洗脳されてんだよぉおお! 魔公爵が人間を尊重するもんかぁ!! ザウスは『悪』なんだぁああああッ!!」


 すると、次々に物が飛んでくる。


「帰れぇえええ!!」

「ザウスさまの悪口をいうやつは許せねぇ!!」

「悪の勇者は帰れぇえええ!!」

「二度と来んなぁあッ!!」

「出てけぇえええ!! ザウスタウンに二度と来んなぁ!!」

「おまえなんかよりザウスさまの方が正義だぁ!!」

「私たちの幸せを壊さないで!!」


 ふざけんなぁああっ!!


「てめぇらぶっ殺すぞ!!」


 僕の闘気は民衆を退かせた。強風が吹き荒れ、赤子は泣き叫ぶ。


「セ、セア! やめて!!」


「うるさい!!」


 勇者を侮辱するやつらは死罪だぁ!!


「ひぃいいい!!」

「おい! ザウスさまの部下モンスターを呼べ!!」

「部下モンスターを呼ぶんじゃあ!!」

「敵の襲来よ!!」


 チィイイッ!

 部下モンスターといえば、レベル200超えのやつらだ!

 そんなのを呼ばれたらたまったもんじゃない。


「ミシリィー! 帰るぞ」


「う、うん」


 覚えていろよクソ野郎どもがぁ。

 僕に物を投げたことを激しく後悔させてやるからなぁ!!


 僕たちは物を投げつけられながらも、足早にその場を去った。


 クソがぁ!

 魔公爵領を調べるのはやめだ。


 もっと他にチャンスを見出すしかない。


 確か、東の海の孤島に大賢者がいるという噂があるな。


 そいつの力を使えば、クソったれザウスを倒せるかもしれないぞ。

 ザウスを倒したら覚えていろよ。僕に反抗したことを一生後悔させてやるからなぁ!

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