第30話 金こそ命!
俺は不思議な建物の前にいた。
そこは大きな塔を中心に、あちこちに掘っ立て小屋があって、煙突からはモクモクと煙りが出ていた。
その周辺を土人形が忙しく動き回る。
おそらく魔法で造った奴隷なのだろう。人間くらいの大きさで、全身は泥土を固めているようだ。
『か、帰るのじゃあ!
その声は塔の入り口から響いた。
「俺は魔公爵ザウス」
「なにぃいい!? 魔族のボスではないか!」
「大賢者カフロディーテと話しがしたくてやってきたんだ」
『な!? どうして
「おまえのことならなんでも知っているぞ。年齢は1100歳。不老の魔法で若い子供の姿のままなんだ。好きなのは熊のぬいぐるみ」
『なななななな!』
「大好物はハンバーグ」
『どうしてそんなことまでぇえええええええ!?』
なんでって、そりゃ、恋愛パートで攻略したからじゃないか。
一応、合法ロリってことで、彼女も恋愛対象キャラなんだよな。
俺は裏技を使って全員の女キャラとハッピーエンドまでいったから、こいつのことも色々と覚えているんだ。
「フワフワのミニスカートが好きでぇ。あと、スリーサイズはぁ」
「ハワワワワワワーー! それ以上はストップなのじゃあぁああああああ!!」
そういえば、こいつは胸が小さいことがコンプレックスだったな。
塔の中から出て来たのは小さな女の子だった。
アイドルのような格好に白い白衣を纏っている。大きな瞳のなかなかの美少女である。
「あら。可愛らしいですね。まさか、子供とは思いませんでした」
「へぇ。こんなにちびっ子なんだ」
「
と、勢い余ってドテーンと地面に転んでしまう。
スカートが捲れ上がって、熊のマークのパンツが見えてしまった。
「うむ」
このパンチライベントはゲームと同じだな。
彼女はずば抜けて頭はいいが、肝心なところでおっちょこちょいなんだ。
「あわわわわわわ! 見るなぁあああ!!」
「立てるか?」
「はううううううう! と、殿方に見られてしまったのじゃあああああ!!」
ああ……。初めて見るのは勇者なんだがな。
まぁ、いいか。
「うええええええええええええええん! もうお嫁にいけないのじゃあああああ!!」
やれやれ。
泣き虫なのもゲームと同じだな。
メエエルは彼女を抱きしめた。
「よしよし。大丈夫ですよ」
「うう……。すさまじいおっぱいなのじゃ」
「ちょっと……。触るのはやめていただけませんか?」
「うう。すごい柔らかいのじゃ。モミモミ」
「あん……。ちょっと!」
ゲームと同じ展開だ。
俺が敵役の魔公爵ってのを忘れるくらい忠実に再現されている。
「そなたらは、
ふむ。
本題に入ろうか。
彼女には勇者の仲間になって欲しくない。目的は、ただそれだけなんだ。
しかし、彼女に勇者のことを伝えるのは面倒だよな。
正義の使者と悪の魔公爵なら、いうことを聞くのは間違いなく前者だろう。
だったら、適当な理由を作るしかないな。
「魔公爵領を発展させたいんだ」
「ほぉ。
「まぁ、そういうことになるな」
「お断りじゃな。
彼女は正義感が強いからな。
魔公爵を倒した勇者に感銘を受けるんだ。
そんな彼女は魔王討伐のために勇者の仲間になる。
勇者セアがここに来るのは、あくまでも俺を倒してからなんだがな。
念には念をだ。できるだけ、仲間にならないように手を打っておく。
「俺は魔公爵ゴォザックの息子でな。その跡を継いだんだ。ここ5年間、他の領土への侵攻は行っていない」
「ふむ。そういえば、ここ5年。大きな戦いは起こっておらんな。奴隷狩りもないようじゃしな」
「領土内にある物資だけで発展させているんだ。更なる成長には、おまえの頭脳がいるのさ」
「
「そうだ。その天才的頭脳で、俺の領土を発展させて欲しいのさ」
「て、天才……。ムフフ。どうやらそなたは、
「ああ。大賢者カフロディーテの頭脳に勝る者はいない」
「ぬぐ! ほ、褒めても無駄じゃぞ! 全然、嬉しくないんじゃからな!」
「まぁ、こんな口だけで頼み事をする俺じゃないさ。メエエル」
俺はメエエルに袋を持って来させた。
その中には金貨がビッシリと入っている。
「こ、これは!?」
「10万コズンある。俺に協力してくれるなら、この金を毎月提供してもいい」
「なんじゃと!?」
「研究費用さ。これだけあれば、楽しい研究ができるだろう?」
「あわわわわわわわわ……。ゴクリ」
「もちろん、契約が成立すれば、外部からのスカウトはキャンセルしてもらうがな」
「か、金で
「仲間にしたいだけさ。嫌なら抜けてもらっても構わない」
「ぬぐぅう……。しかし、悪の手助けはできぬ」
アルジェナは鼻でため息を吐く。
「ねぇ。ザウスが悪っていうけどさ。彼はそんなに悪いやつじゃないわよ。領民たちに自由を与えてさ、街を作って発展させているんだから」
「なんじゃと!?」
「ザウスタウンっていうんだけどね。とても綺麗で清潔な街よ。特に孤児院が充実していてね。そこいら中の国から孤児が集まってくるんだから」
「こ、孤児院まであるのか?」
「そう。そこは最高の場所でね。びっくりするくらい、孤児たちが伸び伸びと生活してるのよ」
「し、信じられん。ザウスは魔公爵じゃろう?」
「ふふふ。彼は優しい魔公爵なのよ」
やれやれ。
「おい。おしゃべりはほどほどにするんだな。俺は仕事の依頼でここに来ているだけだ」
「ふぅむ……。もしも、
「そりゃあ、帰るしかないだろう」
「なに!? 力づくでいうことを聞かせたりせんのか?」
「そんなことをしてなんになる? 嫌嫌、研究をしていても領土の発展には繋がらんだろう。なにより、いつ裏切られるかわからない。あくまでも、相互でメリットがなければ仕事としては成立しないのさ。それに、楽しいは正義だ。楽しければ自主的に行動してくれるからな」
「むむむ。た、楽しいは正義とな?」
「そうだ。そうやって俺の領土は発展している。ザウスタウンのみんなも、魔公爵城のみんなも、楽しんで仕事をやってくれているんだ」
アルジェナは笑った。
「あーー! それはあるかも。ザウスの部下モンスターたちは毎日を楽しんでいるわね。
力づくで従わせることに大きなメリットはないさ。
楽しいは正義なんだ。
「うーーむ。信じられんなぁ。楽しいは正義……。しかし、悪の手助けはなぁ……」
「即決は求めないさ。しっかり考えてくれたらいい」
「……か、変わったやつじゃのう」
「この金はもらってくれ」
「え!?
「島を傷つけてしまったしな。おまえの大切にしているザーゲゴーレムも倒してしまった。この金はその詫びもあるのさ」
「お、お主、本当に魔公爵か?」
「ああ、悪の支配者だ」
俺たちはワイバーン飛空艇に乗って帰ることにした。
「ザウスさま。このまま帰ってもよろしかったのでしょうか?」
「ああ。問題ない」
「彼女が仲間にならない可能性がありますよ。そうなれば、10万コズンを損しただけになってしまいますね」
「いや。そうでもないさ」
「え?」
「ふふふ……」
彼女は研究熱心だ。
日頃から、研究費用の捻出には四苦八苦している。
その上、研究結果を使って貧困で困っている人々を助けたいと思っているんだ。
多額の報酬と貧民を救うザウスタウン。
彼女の欲求に追随したのが今回のスカウトなんだよな。
彼女は必ず仲間になる。
ククク。
今頃は報酬のことで頭がいっぱいだろうよぉ。10万コズンが目の前にあるんだからなぁ。ハーーーーハッハッハッ!
素直になるがいいさぁああああああ!!
金こそ命!
金の魅力は絶対なのだぁああああああああ!!
そして、俺の配下になるがいいいいいいいいいいいいいい!!
ハーーーーーーハッハッハッ!!
☆
〜〜大賢者カフロディーテ視点〜〜
パンツを見られた。
ああ、殿方にパンツを見られたのじゃあああああ!!
こんな恥ずかしいことは1100年生きて来て初めてのことじゃああああああ!!
うう……。
まさか、
うう……。
魔族でも結婚できるのかな?
「は!
いかん!
頭の中はザウスでいっぱいじゃあああああ!!
「こんな金貨!!」
と、
「ハァ……ハァ……。こ、こんな大金よりザウスじゃ」
うう。
どっしりと落ち着いた佇まい。たまに見せる笑顔。不思議な色気。
た、たまらん……。
たまらーーーーーーん!!
なんなんじゃこれぇええええ!?
この気持ちなんなんじゃああああああああ!?
ザウス。ザウス。ザーーーーウス!
目を閉じればザウスの顔が浮かぶ。
会いたい!!
もう一度会いたいのじゃあああああああああああああ!!
ザーーーーーーーーーーウス!!
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