第29話 ザウスの強さはどんなもん?

 俺たちはワイバーン飛空艇に乗っていた。


 これは空飛ぶ船のことで、大きな船を飛竜が馬車のように引く乗り物なのである。


 爽やかな風を感じながらも魔公爵領を飛び越えて、東の海に浮かぶ孤島、ソリチュー島に到着した。


 島の真ん中には不思議な塔が立っていて、そこが大賢者の研究所になっていた。


 本来ならば、転移魔法陣で入る場所なんだがな。

 まさか、ワイバーン飛空艇で来るとは思わなかったよ。


 勇者がここに来るのは、魔公爵を倒してからのことだ。

 勇者セアがここに来るためには特殊な祠の門番の許可が必要だ。その祠の奥には魔法陣があって、その真ん中に入ると転移魔法が作動する。その転移魔法によって、ようやく、この島に入れるというわけだ。


 そんなイベントをすっとばして、俺は空を飛んでやってきた。


 俺とメエエルとアルジェナの3人は、海岸から見える研究所に向かった。


 すると、


ゴン!


「痛っ! ちょ、なに? なんか透明な壁があるんだけど??」


 ふむ。

 透明の防弾ガラスみたいな感じか。

 ドーム状になって研究所を包んでいるんだ。


「大賢者は用心深い。モンスターの侵入を防止する結界を張っているんだろう」

 

 だから、転移魔法でしかいけない場所だったのか。

 俺はイベントの順番をすっ飛ばしているからな。

 勇者が通る通常ルートだと、この結界の場所には行かないんだ。


「えい! やぁああ!!」


 と、アルジェナは剣でその結界を斬りつけた。


「ダメだわ。傷一つつけれない」


「では、私が。ドラゴフレア!」


 メエエルは巨大な炎の魔法を使った。


「ダ、ダメです。この結界はビクともしません」


 ふむ。


「2人とも、ちょっと下がっていてくれ」


 ちょい、強めに殴ってみるか。


「よいしょっと」


バキィイイイイイイイイイイイイイイイイン!


 結界はガラスが割れるように破壊された。


「よし」


「ちょ!? えええ!? あ、あたしの斬撃でもビクともしなかったんだよ!?」


「もう入れるから、行こう」


「えええええ……。ザウスすごすぎぃ」

「さ、流石はザウスさまです。フフ。これがザウスさまの実力なのですね」

「なんであなたが誇らしげなのよ?」

「当然です。ご主人さまのお力はお世話係の名誉ですから」

「はぁ……。それにしてもザウスったら、とんでもなく強くなったわよね。もう最強の魔公爵だわ」

「はい。ザウスさまが最強です」

「ザウスのステータスって黒いモヤがかかって見えないんだよね。一体なんレベルなのかしら?」

「隠蔽の魔法によって隠しているようですね。他者に能力を見られないようにしているみたいですよ」

「抜かりがないわねぇ。強いんなら隠さずにアピった方がいいのにさ」

「強さを測られることは、それが弱点になる、と仰られておられました」

「慎重ねぇ」

「ふふふ。ザウスさまは堅実なお方なのです」

「また、自慢げぇ」


 やれやれ。

 なにをブツブツといっているんだ。


「置いてくぞ」


「あん! 待ってよぉ」


 しばらく進むと、森の中に立て看板が見える。


【結界を破りし者。今すぐ引き返すがよい。そのまま進めば至極の恐怖がそなたを襲うであろう】


 なんだこれは?


「ふふふ。魔神狩りのアルジェナを舐めないで欲しいわね。こういうのって挑発だわ。あたしだって強くなってんだから。レベル150の実力を見せてやるわ!」


 そういって剣を構える。


 しばらく歩くと、辺りは木々でビッシリと覆われて、薄暗い場所になった。

 

 今にもなにかが出そうな雰囲気。


 突然、どこからともなく女の声が響く。

 それはおどろおどろしい感じ。


『看板を見なかったのか〜〜? 愚か者めぇ〜〜。至極の恐怖を体験することになるであろう〜〜』


 なんだか、安っぽい遊園地のお化け屋敷みたいだな。


 そんな時。ズシーンズシーンと大きな音が聞こえてきた。


「な、なんの音!?」


「足音だ。デカい何かが近づいてくる。気を抜くなよアルジェナ」


「う、うん!」


 それは木々の茂みから襲ってきた。巨大な手だった。


「わわッ!」


 彼女は寸でのところでその手を交わす。


 手の先には巨大な石像が立っていた。


 ほぉ。


「ザーゲゴーレムだ」


「ザウス、知ってるの?」


「あ、いや。設定資料集で見ただけなんだけどさ」


「せってい……? なにそれ?」


「ああ、なんでもない。とにかく強いモンスターだからな。アルジェナは下がっていろ。俺がやるよ」


「邪魔しないで! 魔神狩りのアルジェナを舐めないでよね! こんな石の人形、あたしがぶった斬ってやるわ」


 ザーゲゴーレムは大賢者カフロディーテが魔法で作った 岩巨人ゴーレムだ。

 ゲーム中では背景の一部だったから、特に戦闘はしなかったんだよな。主人公は魔公爵を倒した証として、ザーゲゴーレムとの戦闘は免除されるんだよ。

 だから、こうして動いている 岩巨人ゴーレムを見るのはプレイヤーとしては感慨深いな。設定資料集だと最強の 岩巨人ゴーレムになってたっけ。


「ブレイブスラッシュ!!」


 アルジェナの必殺斬りだ。


 しかし、


「ちょ、なにコイツ! めちゃくちゃ硬いんだけど!? あたしの斬撃が通らないわ!!」


「だから強いんだって。ステータスを見てみろよ」


「はい!? レベル……に、280!? 強すぎでしょ!!」


  岩巨人ゴーレムの動きは早かった。そのパワーも桁違い。

 繰り出すパンチは大樹をへし折り、大地を抉った。


「よ、避けるので精一杯だわ!」


 それはアルジェナが着地したのと同時。やつの拳は彼女を捉えた。


「きゃあああああああああ!!」


 やれやれ。

 あんなの喰らったら即死だよ。彼女の体は骨さえ粉砕されるだろう。

 

 俺は 岩巨人ゴーレムの拳を片手で止めた。


「よっと」


「…………ザ、ザウス?」


「大丈夫か?」


「か、か、か、かた……。片手で……。止めてる……?」


 よし、怪我はなさそうだな。


「ふん」


 それは軽く振っただけ。

 しかし、 岩巨人ゴーレムは20メートルほど吹っ飛んだ。


 ほぉ。


「なかなか硬いな」


 軽い素振りだけでも、並のモンスターなら消滅はするんだがな。


 素手は面倒か。


 俺は亜空間から漆黒の剣を出現させる。


「デーモンソード」


 それは稲妻を纏ってバチバチと稲光を発っしていた。


「最近、この剣を使ってなかったからさ。久しぶりに振ってみようかな」


 片手で。

 軽ーーく。

 軽くな。



「ダークスラッシュ」


 

 ブォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!



 あ。


 なんかやりすぎたかもしれん。


 俺の斬撃波動は大地を抉り、対岸の海まで繋がった。

 暗い森の中に一本の道ができて、遠くには水平線が見える。


  岩巨人ゴーレムは跡形もなく消滅したようだが……。


 あちゃあ……。


 ずいぶんと明るくなってしまったな……。


「ちょっと強く振りすぎちゃった。てへ」


「てへじゃないってば! し、島の形が変わっちゃったじゃない!!」


「うむ。地主に悪いな」


「そんなこと、いってる場合!? あわわわわわ……。なんて威力なの……」


「通常ならば謝罪案件なんだがな。向こうが襲ってきたからこうなってしまったんだ。不可抗力だな」


「つ、強すぎよ……」

「私も驚きました。まさか、ザウスさまがここまで強くなられているなんて……」


 俺もちょっと驚いてる。

 最近だと究極進化した部下モンスターでも相手にならなかったからな。

 力の加減が難しいな。自分の強さがわからなかったや。


 アルジェナは顔を赤くしながらモジモジと体をくねらせた。


「さ、さっきはありがとね」


「あんまり無茶はすんな」


「うん……。へへへ。ザウスって優しいね」


「いや。怪我をされたら治療をする手間が生まれるからな。効率を考えたら俺がやった方が良かったんだよ」


「な、なによそれぇ! それじゃああたしが足手纏いみたいじゃない!」


「そうはいってないさ」


「ぶうううう! 次は絶対に活躍するんだからぁあ!!」


 突然、女の声がこだまする。

 さっきの声と同じようだが、今度のは随分と焦ってる感じだ。


『な、な、何者じゃああ! わしの造った最強の 岩巨人ゴーレムザーゲちゃんを倒すとはぁああ!?』


 ああ、この声は大賢者だな。

 ゲームと同じ声だ。話し言葉はおばあちゃんだけどさ。小学生みたいな声なんだ。


「もしかして、さっきの 岩巨人ゴーレムが至極の恐怖なのか?」


『うう!!』


「なんか怖がらせたかったみたいだけどさ。至極の恐怖とは?」


『う、うるさいのじゃああああ!!』


 せったくイベントを用意してくれたんだからな。

 ピックアップして掘り下げてやるのは優しさだろう。

 用意した者にとって、スルーされるのは一番悲しいことだからな。


「あ、それとも、至極の恐怖はまだ襲って来てないのかな? もっと強い敵がいる感じか? 至極の恐怖を体験したい。さぁ、来い」


『人の傷を抉るなぁあああ!!』


「せっかく用意してくれたイベントだしな」


『なんなんじゃ、お主はぁあああああ!?』

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