第28話 念には念を
〜〜ザウス視点〜〜
嫌な予感がする。
勇者の侵入があってから1週間が経つ。
それ以来、妙に魔公爵領が静かだ。
「なぁ、ゴブ太郎。あれから勇者の姿はないんだろ?」
「はいゴブ。大勢のモンスターで大樹の泉前の広場を警戒をしているゴブ。でも、姿はまったく見えないゴブ」
「ふぅむ……」
「オイラが半殺しにしたから傷が治ってないかもしれないゴブ」
「それは考えにくな。勇者の仲間にはミシリィという回復魔法を使う僧侶がいるからな」
「もしかして、魔公爵領の他の土地に侵入しているかもしれないゴブよ。あの広場以外にもモンスターの動きを広げてはどうゴブか?」
「それはダメだ。死守すべきは泉なんだからな」
大樹の泉。
それはブレクエにおいて最高のレベル稼ぎポイント。
大きな樹の幹からは無限に水が湧き出ている。その水には治癒の効果があって、飲むだけでダメージが回復してしまう。
ゴブ太郎たちが守っているのは大樹の泉がある目の前の広場なんだ。あそこを通らなくては泉にはいけない。
逆をいえば、あの広場さえ死守していれば回復ポイントに行けないことになるんだ。
「ではザウスさま。モンスターの増援をして、広場よりもっと手広く警戒してはどうゴブか?」
「そんなことをすれば、おまえたちよりレベルの低いモンスターを出撃させることになるじゃないか」
「でも、勇者を手早く発見できるかもしれないゴブよ」
「あまり意味はないな。魔公爵城へはかならず大樹の泉を通らなければならない。無駄なことは避けよう。それに、低レベルのモンスターだと勇者に倒されてしまうかもしれないからな」
「ふぉお……。ザウスさまはお優しいゴブゥ」
「勘違いするな。俺は自分の部下を減らしたくないだけだ」
「そんなこといってぇ……。デヘヘヘェゴブ」
「なんだ、ニヤニヤしやがって。なにがいいたいんだ?」
「ザウスさまは、いっつもオイラたちのことを心配してくれるゴブ」
「ふざけるな! 支配者として当然のことをしているだけだ! 俺は極悪非道な魔族だぞ!」
ったく。
部下モンスターのことなんてどーーーーでもいいんだからな。
こいつらは俺を守る駒にすぎん。ゲームのキャラにいちいち愛着が沸いていたらキリがないっての。
こんな奴らが死のうが消えようがどうでもいいんだ。大事なのは俺の命なのさ。
「俺は容赦はせんぞ! 俺の命令は絶対だ! 気を抜いたら許さんからな!」
「はっ! 死ぬ気でがんばるゴブ!!」
「うむ」
「では、持ち場に戻るゴブ!」
あーー。
「ゴブ太郎。現場の休憩とかはどうしているんだ?」
「あ、はい。ザウスさまにいわれたとおり2時間置きに代わり番子で休憩を取っているゴブ」
「うむ。根を詰めすぎるのは長期戦で保たないからな。休みは?」
「3日に1度は休みをもらっているゴブ。モンスターの警戒は、メエエルさんが組んでくれたシフトで動いているゴブよ」
「よし。それならいい」
「デヘヘヘ」
「またニヤニヤしてるぞ! これはおまえらのことを心配しているからじゃない! 無理をして体を壊したらシフトに欠員が出るからだ!」
「はい。もうしわけありませんゴブ!」
「まぁ……。とはいえ、実際に体調不良になったら事前にいっておくように。そんな日は体を休めて体調を整えるのが一番だ。持ち場のことはメエエルにシフトを書き換えてもらえばいいからな」
「あは! やっぱり優しいゴブ」
「バカ! これはみんなに迷惑をかけないためだ! 体調不良で足手纏いになったらチームの戦力低下を招くだろうが!」
「は! 失礼しましたゴブ!」
「気が緩んでるぞ!」
「引き締めますゴブ! では、持ち場に戻るゴブ!」
と、少し走ってから振り向いた。
「ザウスさま。大好きゴブ」
「バカ! さっさと行け!」
「命に代えてもザウスさまをお守りするゴブ!」
「アホ! やられそうになったら早めに退却だ! おまえらが死んだら俺の手駒が減るだろうが!」
「ザウスさまーー! オイラがんばるゴブゥウウ!!」
やれやれ。
困った部下だよ。
と、鼻で嘆息をついていると、アルジェナがニヤニヤしながらこっちを見つめていた。
どうやら一連の会話を聞いていたようだな。
「おい。なにをニヤついているんだ?」
「別に〜〜」
「いやらしい顔だな。スケベなことでも考えていたのか?」
「考えないわよ!」
さて、ふざけてる場合じゃないな。
勇者の動向が気になる。
先手を打つか。
「メエエル。地図を広げてくれ」
「承知しました」
俺は大陸の地図を見ながら腕を組んだ。
勇者が魔公爵城に到着するには、2人の仲間を作る必要がある。
それが幼馴染でもある僧侶のミシリィと商人のナンバだ。
魔公爵を倒した勇者は仲間を更に増やす。
それがここにいる魔法使いメエエルと剣士アルジェナなんだ。
まぁ、彼女らは勇者の仲間になることはないだろうから、心配するのは最後の1人だな。
大賢者カフロディーテ。
ブレクエは最終的には勇者と5人の美少女が仲間になるゲームなんだ。
魔王を倒すまでの本章は、このパーティーで進むことになる。
そういえば、
「メエエル。ナンバとは連絡が取れているか?」
「はい。ギルドにて、勇者からの勧誘があったそうです」
やっぱりか。
勇者が商人をスカウトするのはメインストーリーだからな。
「でも、断ったそうですよ。武器商人チンさんとビジネスをするからといって」
よし。
事前に手を打っておいて良かったな。
これで、勇者の仲間は幼馴染のミシリィだけだ。
そうなると、これから仲間にできるのは大賢者カフロディーテだけとなる。
彼女が仲間になるのは、魔公爵を倒してからのイベントなんだがな……。
念には念をか。
俺は東の海に浮かぶ小さな島を指差した。
「よし。ソリチュー島に行こう」
「は? こんな孤島になにをしに行かれるのですか?」
「大賢者に会いに行く」
「……承知しました。ではワイバーン飛空艇を出航させましょう」
勇者の戦力は徹底的に削ぎ落とす。
確実に。堅実にいく。
勇者がどんなステータスだろうと、絶対に侮ったりしない。
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