第27話 敵のステータス確認
僕とミシリィは身を隠しながら魔公爵領へと侵入することにした。
目的はゴブリンのステータスを見ることだ。
物陰に隠れながら移動する。
「ねぇ。引き返しましょうよ。もしも、ゴブリンに見つかったらどうするの? もうペガサスの翼はないんだよ?」
「しぃーー。声が大きいよ。敵のステータスが気になるからね。どうしても見ておきたいんだ」
「ねぇ。もっと、堅実に冒険しない? メコンデルラの周辺でアイテムを探してさ」
「アイテムなんてどこにあるんだよぉおお!? 民家の壺は空だしさ。タンスの中にだって入っていない。ダンジョンを探索しても宝箱は全部空なんだからな!」
「で、でもぉ。もっと、一生懸命に探せば、きっと見つかるわよ」
「いや。ないね。怪しい草の茂みにだってないんだからな。井戸の中にだってなかった! 僕にはアイテムを手にいれることができない呪いがかかっているんだよ」
「そう卑下しないでよ。実直に冒険をしていればきっと神様が導いてくれるわ」
「その神の導きが間違っているんだよぉ!」
「そうなの?」
うう。このバカ女がぁ! 僕の苦労も知らないで呑気にいいやがって。可愛くなかったらフルボッコだぞ。
僕は5年前から一生懸命に行動しているんだ。
『!』マークのある場所は必ず調べるようにしてきた。でも、装備品はおろか、薬草だって手に入れたことがないんだからな!
「君は黙って僕のいうとおりにしていればいいんだよ」
「う、うん……」
「そもそも、君はカスみたいなレベル10だろ。僕はレベル82なんだぞ。戦闘は僕が全部やっているんだ。君を助けているのは全部僕なんだからな」
「だ、だから実直にっていってるじゃない。私のレベルも上げたいし」
「ははは。本音が出たね。結局、自分を強くしたいだけなんだ」
「わ、私が強くなるのはあなたのためでもあるでしょ!」
「いいかい? 君を冒険に連れているのは、君が幼馴染だからだよ」
「そ、それは……。わ、わかっているわよ」
「僕は幼馴染の君のことを誰よりも大切に扱っているんだ。そんな僕の足を引っ張るなんて、バカげていると思わないのかい?」
「なんだか論点が違う気がするわ。私はパーティー全体の戦力を底上げする話をしているのよ?」
「ああ。論破されたからって論点をズラすのはやめてくれないか。君はバカなんだから、頭のいい僕のいうことを聞いていればいいんだよ」
「うう……。た、たしかに、私はそんなに頭がよくないかもしれない。で、でも、あなたのことが心配だし、勇者パーティーとしての使命もあるのよ」
「だったら僕のいうことを聞くんだね。君みたいな雑魚レベルの存在が、レベル82の僕に意見をしている時点で間違っているんだよ」
「うう……」
「君と僕とは次元が違うんだ。次元がぁ!」
「そ、それは……。そうかもだけど……」
「君のレベルをいってみろよ」
「……じゅ、10」
「僕のは?」
「82」
「じゃあ、どっちが強い?」
「セ、セア」
「だろぉおおおおおおおおおおお? 強い者が弱い者を守る。強い者がパーティー行動の基軸となる。これは基本中の基本なんだ。雑魚レベルの君が意見していいことなんて1ミリも存在しないんだよ? わかるよねぇ? もう少し、噛み砕いた方がいいのかなぁ? んん? どうなの? わかったの? わからないなら、わからないっていおうね。もう、大人なんだからさぁ」
「ううう。わ、わ、わかった」
「じゃあ、もういいだろう。僕に完全に論破されてしまったんだから、いうことを聞くんだ」
「う、うん……」
「危なかったら僕が守ってやるよ。なにせ、僕のレベルは82なんだからな」
「……で、でもぉ。この前はゴブリンに」
「はぁ? まだ意見するのかい? 君はどれだけ無能なんだよ。この前のは油断もあったんだ。それに、今回は戦うことが目的じゃないと何度もいっているだろう」
「ううう……」
「だから、こうして身を隠しながら進んでいるんだ。今回の目的は、あのゴブリンのステータスを見ることだ。戦うわけじゃないよ」
「う、うん」
やれやれ。
この子は見た目は100点だけど、脳内はマイナス100点だな。無能を仲間にすると苦労するよ。
僕たちは広場の近くに到着した。
「あ、あそこだ。あの場所で僕とゴブリンは戦ったんだ」
そこには複数のモンスターたちが陣を構えていた。
「ちぃ。数が増えていやがる」
まぁ、いい。
今回はステータスを見るだけだからな。
あ、真ん中にいるやつが僕と戦ったゴブリンだ。
「一体、なんレベルなんだ?」
ステータスを見てやる。
「………………」
な、な、な、な、なんだと……?
「あ、あ、あ、ありえない」
僕は目を擦った。
見間違いかもしれない。
もう一度、確認する。
「……ま、間違いじゃない」
「す、すごいステータスね」
ミシリィも確認していたようだ。
彼女も僕と同じように震える。
「セ、セア……。レ、レベルって99が頭打ちじゃないの?」
「……あぐぐぐぐぐ」
し、信じられん。
こ、これは現実か?
はぁ……はぁ……。
ダ、ダメだ。
胸の動悸が止まらない。
ゴブリンのレベル……。
「に、270だとぉおおおおおおおおおお!?」
と、僕はそのまま後ろに倒れた。
「きゃああセア!!」
つ、つ、強すぎる……。
そりゃあ、負けるよね。
だって、僕のレベルは82だもん。
流石に、82レベルじゃ勝てないよね……。
ば、倍以上の強さ……。
圧倒的な強さ。
「セ、セア……。あのゴブリンだけじゃないわよ。ハーピーもリザードマンもオークも。あそこにいるモンスターのレベルは軒並み200を超えているわ!」
これは夢か?
ああ……。
ダメだ。
意識が遠のく。
「アブクククガガガガガガガガガ……」
「ああ、セア! 泡吹いてるわ! しっかりしてぇ!!」
ぼ、僕がレベルを82にするのに5年かかったんだぞ?
そ、それが……270だとぉ?
無理無理無理……。
「セア! しっかりして!」
いや、無理だろ。
無理無理。
ゴブリンレベルでこれぇ?
ってことはそのボスである魔公爵ってなんレベル??
無理無理無理無理。
これ無理だろ。
終わった。
詰んだ。
完全に詰みだ。
「セア! セアーーーー!!」
ああ……。意識が遠のく──。
「はっ……! こ、ここは……どこだ??」
そこはベッドの中。
どうやら、宿屋にいるようだ。
「やった! 助かった!!」
ゆ、夢だ!
夢だったんだーー!!
ふざけんな! 悪夢すぎだろうがぁあああ!!
「ああ、良かった気がついたぁ。セアったら気絶しちゃうんだもん。おぶって帰るの大変だったのよ」
お……。おぶって?
「はい……?」
「セアは泡を吹いて気絶しちゃったのよ」
「……え?」
「あ、だから……。ゴブリンのレベルを見て気を失っちゃったのよ」
「あ……」
「セアったら筋肉の塊だもん。ものすごく重いのよね。だから、おんぶして移動するのが大変で。ここまで帰ってくるのに2日かもかかったのよ」
「え……?」
「あなたは、ずっと眠っていたのよ」
「ずっと?」
「あれから3日が経ったの。あなたはずっと目を覚まさなかったのよ」
「み、3日も……」
「そうよ。もう、永遠に起きないのかと思って心配しちゃった。でも目が覚めてよかったわ」
「ああああああ……」
「ちょ、セ、セア!」
「ああああああああああああ」
「セ、セア! 大丈夫!?」
「あああああああああああああああああ!!」
夢じゃなかった!
夢じゃなかったぁあああああああああああ!!
「ぬがぁああああああああああああああああああああああ!!」
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