第25話 ザウスの部下モンスター

 僕たちは魔公爵領に入った。


 事前情報では、随分と強力なモンスターがいるらしい。

 でも、僕のレベルは82だからな。どんなモンスターが現れても雑魚なのさ。


 適当にモンスターを狩ってレベルアップの経験値にしてやるさ。

 魔公爵城に到着するころにはレベル上限一杯の99にしてやるよ。

 ククク。さぁ、雑魚狩りの開始だぞ。


 と、思いながらも、モンスターにはなかなか遭遇しなかった。


「なんだ? 僕の実力に怖気付いたのか?」


 随分と歩いたが、敵に遭遇する気配がないな。

 

「ねぇセア。やっぱり魔公爵領って雰囲気が違うわね。かなり警戒した方が良さそうよ」


「はぁ? 警戒する要素がどこにあるんだよ? 雑魚モンスターは僕の実力に恐れをなしたのさ」


「そ、そうなのかなぁ……?」


「ははは。心配症だなぁ。まぁ、君のことは僕が守ってあげるからさ。安心しなよ」


「……私ね。一応、ペガサスの翼を買っておいたのよ」


 やれやれ。

 ペガサスの翼といえば、一度宿泊した町に一瞬で戻ることができる魔法のアイテムじゃないか。


「おいおい。僕たちの目的地は魔公爵城だぞ。そこに向かって前進あるのみなんだ。そんな戻るアイテムを使うはずがないだろう。バカだなぁ」


「メコンデルラの宿屋の女将が言っていたじゃない。ここのモンスターは強力だって。もしものことを考えたら必要かもしれないわよ」


「ははは。そういうのを無駄使いっていうのさ。意味のないアイテムは買っちゃダメだよ。バカの始まりだね」


「『きわどい法衣』だって無駄使いでしょ」


「あ、あれは必要だよ!」


 勝利の後のご褒美なのさ。必ず、君にえっちな格好をしてもらうよ。デュフフ。


 半日は歩いただろうか。

 森の中に開けた場所があって、その真ん中に1匹のゴブリンが座っていた。


 なんか、普通のゴブリンにしては背が高いな。

 見たことがないタイプだ。


 まぁ、でも、どうせゴブリンだしな。

 雑魚モンスターであるのには変わりないさ。


「やっとこ敵のお出ましか」


「おまえが勇者ゴブか?」


「ああ、そうだ。僕が最強の勇者、セアだ。光栄に思うんだね。僕に倒してもらえるなんてさ」


「ザウスさまの命を狙う勇者……。許さないゴブ」


「ハハハ! 雑魚の忠誠心か。笑っちゃうね。許せないってどう許さないんだ?」


「おまえはオイラが倒すゴブ」


「プフゥウウウ! えらく強気な発言をするじゃないか。見たとこおまえ1匹だが? 仲間はどうした? 逃げたのか?」


「おまえはオイラ1匹で十分ってことゴブ」


 ふん。

 こんな雑魚のステータスは見るまでもないな。

 それより態度がよろしくないな。これは教育が必要のようだ。

 僕に啖呵を切ったことを激しく後悔させてやるさ。


 僕は凄まじい速度で移動した。


 常人ならば消えたように見えたかもしれない。

 なにせ、レベル82の移動速度だかな。

 雑魚モンスターに僕の動きは捉えられまい。


 さて、拳の攻撃を喰らわせてやろうか。

 でも、パワーは抑えといてやるよ。本気でやったらコイツの顔が吹っ飛んでしまうからな。ククク。ジワジワとなぶり殺してやるよ。

 

筋肉の拳マッスルファウスト!」


 ゲバルゴンザ師匠から譲り受けた最強の打撃技だ。

 それは鍛え上げられた筋肉の一撃。命中すればどんなモンスターも秒殺だよ。

 さぁ、吹っ飛べ。


 ところが、



ガンッ!



 あれ? おかしいな。

 ゴブリンの頬を殴ったつもりなのだが?

 なんだこの感触?

 まるで大木を殴った時のようにビクともしないぞ。


 よく見ると、ゴブリンは僕の拳をモロに受けていた。しかも、その位置は不動で、一歩も仰け反る気配がない。



「なにぃいいいいい!? 防御もせずに、頬で受けきるだとぉおおおお!?」



 パワーを弱めすぎたか?


「ん? なんだこの拳は? 戦いの挨拶ゴブか?」


 くっ!


 ス、スカした顔しやがって!

 ずいぶんと辛抱強いようだな!

 ダメージがあるのはわかっているんだ。


「ふん! 少しはやるようだな」


 雑魚でも防御力だけは高そうだ。

 だったら、少し、本気を出してやるよ。


筋肉の拳マッスルファウスト!!」


 どうだ!

 本気の一撃だぞ!!


ガンッ!!


「ん? なんだこれゴブ?」


 こ、この野郎ぉ!

 痩せ我慢しやがって! 痛いならそういう顔をしろぉおおお!!


筋肉の拳マッスルファウスト!  筋肉の拳マッスルファウスト! | 筋肉の拳《マッスルファウストォオオオオ!!」


 フハハハ!

 見たか!

 強力な打撃の連打だ!


 僕を怒らせたからこうなるんだよ!

 激しく後悔しやが──


「もしかして、戦いは始まっているゴブか?」


 なにぃいいいいいいいいいいい!?


 まったくダメージがないだとぉおおおおおお!?


「じゃあ、オイラも攻撃するぞ。えい」




バキィイイイイイイイン!!




「ほげぇえええええええええええええええ!!」



 な、なんちゅう重い一撃だ。


 あ、顎の骨が砕けた。


 ゴブリンは、僕が吹っ飛ばされた先の位置に既に移動していた。

 やつの拳が僕の腹に減り込む。


「げぼぉおおおおおおッ!!」


「まだまだいくゴブ。えい」


ボコォオオオオオオオオオオ!!


「うげぇええええええええええええ!!」


 つ、強い……!!


 僕は地面に伏せる。

 ゴブリンは僕の上に乗っかった。


「えい。おりゃ。どうだゴブ」


 拳の連打が僕の頬を打つ。


 ひぃいいいいいいいいいいいいい!!


 痛い痛い痛ぁあああああああい!!


 死ぬぅうううううううううううう!!


 殺されるぅううううううううううう!!



「ペガサスの翼ぁああああああああああ!!」



 それはミシリィの声だった。

 魔法のアイテムで、僕たちの体は光に包まれる。

 そのまま、空の上に向かって浮かび上がった。


ビュゥウウウウウウン!!


 すさまじい速度で空を飛ぶ。


 強烈な風が体を包み込む。

 やがて、その風が止むと目的地に着いたのがわかった。


 ああ……。もう意識が飛びそうだ。


 ぼやける視界に彼女の声がこだまする。


「セア。しっかりして!? 今、回復魔法をかけてあげるからね!」


 鼻の中は血だらけで、頭はグラグラと揺れて、もう何が何だかよくわからない。

 ただ、錆びた鉄のような臭いだけが鼻腔に充満する。




 やがて、そんな血の臭いも消え去って、ジーーンとした鈍い痛みだけが体中に残った。


「は……! ぼ、僕は?」


「良かった気がついた!」


 そこはベッドの上。昨日泊まったメコンデルラの宿屋だった。


「き、君が助けてくれたのかい?」


「そうよ。買っといて良かったでしょ。ペガサスの翼」


 ぼ、僕は負けたのか?


 まだ信じられない……。


 た、戦ったのは、ただのゴブリンだぞ?


 僕のレベルは82。そんな僕が手も足も出ないだと??


 ステータスを見ておくべきだった……。


 あのゴブリンは、一体なんレベルなんだ?

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