第24話 きわどい法衣

 僕とミシリィは魔公爵ザウスを倒すため、隣国の王都メコンデルラに入った。

 魔公爵の領土へはこの国の国境を越えてからとなる。


 そこの武器屋にて。


「なにぃいい!? こ、ここも竜砂鉄の剣が売り切れているのか?」


「悪いね。あの剣は人気だから」


「じゃあ、魔鋼の剣は?」


「それも売り切れなんだ」


 どうなっているんだ!?


「まさか、チンという武器商人が買い占めたんじゃあないだろうな?」


「へぇ。よく知っているな。彼はこの店のお得意様だよ。店内の剣は全部、彼が買ってくれているんだ」


 くぁああああ!

 またチンかああ! クソ野郎が。

 見つけたら制裁を加えてやる。


「剣はないが、飛龍の鎖鎌なんてどうだい?」


「いや。僕は剣士タイプだから剣しか装備できないんだ」


「じゃあ、そこの姉ちゃんの武器だな。うちは僧侶の武器も置いているよ」


 ふぅむ、ミシリィの武器か……。

 所持金は僕の貯金していた1000コズンがあるからな。

 強力な武器を買うことができるが……。


「おや? ここは装備品も置いているのか?」


「ああ。うちは防具も置いてるんだ。強力な防具があるからな」


 なら、僕の防具を買うのもありか。

 

「店主。剣士タイプが装備できる盾とかあるか?」


「悪い。剣士タイプは全部売り切れなんだ」


「はぁあ!?」


「チンさんが買い占めていてな」


「チーーーーン!」


 クソがぁあああ!!


「僧侶の姉ちゃんの装備を揃えてやってくれよ」


「うーーーーむ。仕方ない」


 は!

 こ、これは!?


 それはスケスケのレースがついた水着のような防具だった。


「て、店主……。これは?」


「ああ、それは『きわどい法衣』だ。見ての通り女性専用だな」


「き、きわどい法衣……」


 ぬ、布の面積が少ない……。

 なんて露出度の高い防具なんだ。

 腰履きなんてTの字じゃないか。

 こ、これは、ぜひミシリィに着てもらいたいぞ。


「わ、私はこんな恥ずかしい装備を身につけるなんて嫌だからね」


「う!」


 見透かされた。

 し、しかし、どうしても見たい。

 清純な彼女が、エロい装備を身につけてる姿をどうしても見たいぞ!


「きょ、強力な装備は必須だよ」


 と、彼女を説得しようとすると、店主がすかさず、


「ああ、その装備は見た目だけしか効果がなくてな。防御力は彼女が来ている『旅人の着衣』と同じなんだよ」


 ぬぐぅう!

 じゃあ、買う意味がないじゃないか。


「しかも、1000コズンもするからな。結構、高いんだ。買う人は貴族か、金持ちくらいだよ」


「じゃあ、やっぱり買う意味はないわね。セア。この杖なんて強そうよ。どうかしら?」


 いや。

 杖なんてどうでもいいさ。

 やっぱり、きわどい法衣がいい。


「ちょっとセア! それは身につけないからね!」


「うう……。じゃ、じゃあ……」


 と、僕は彼女の耳元で囁く。


「魔公爵ザウスを倒したら着てくれるかい?」


「ええ〜〜」


 どうしても見たい。

 清潔感満載で純粋。エロから遠い世界にいるミシリィがこんなエロい服を着ている姿をどうしても見たいんだ。


「僕がこの世界を平和にするから。頼むよ」


「ううう……。じゃあ、平和になったらね」


「やった! 約束だよ!! 約束を破ったら承知しないからね!」


「じゃ、じゃあ、とりあえず、その装備は置いといて、今回はこの杖を買いましょうよ」


「いや。これを買うよ」


「え!?」


「店主。きわどい法衣をくれ」


「ちょ、セア!!」


 グフフフ。

 か、買ってしまったぞ。

 軍資金は尽きてしまったが構うもんか。


 僕はきわどい法衣を丁寧に異空間に収納した。

 アイテムボックス。これは勇者に与えらえた特別なスキルなんだよな。

 アイテムを異空間の中に収納することができる便利技なんだ。まぁ、アイテムはきわどい法衣しか入ってないから、中はスカスカだけどね。

 

「ねぇセア。こんな初期装備じゃ不安があるわよ」


「大丈夫さ。僕には筋肉があるからね」


 そうだ。

 装備なんて必要はないのさ。

 僕にはこの肉体があるんだ。

 それに、


「ミシリィのレベルは10だけどさ。僕のレベルは82もあるんだよ。この界隈じゃあ最強すぎて誰も勝てないよね」


「た、たしかにセアは強いわ」


「だろ。君の雑魚レベルと違ってさ。僕のレベルはもうすぐ頭打ちだ。そうなれば最強だよ。しかも、魔公爵城に着くころには最高値のレベル99にするつもりだからね」


「魔公爵ザウスのレベルが気になるわね」


「どうせ雑魚だろ。やつの父親、魔公爵ゴォザックのレベルは、たった66だったからね。雑魚の子供は雑魚なのさ」


「苦戦しなければいいけど」


「ははは! 苦戦するわけがないだろ! 君は見た目は可愛いけどバカだな〜〜!!」


「……もしものことがあるから、慎重にいきましょうよ」


「はいはい。慎重にね。まぁ、雑魚相手だから、それなりに気合いは入れてやるよ。ククク」


 僕たちは宿屋に泊まることにした。


 宿屋の女将は、僕の手の甲に浮かび上がる勇者の証を見て目を丸めた。


「まさか、勇者さまがうちの宿に泊まってくれるなんてねぇ。行き先は決まっているのかい?」


「ふ……。魔公爵領です」


「え!? あんな危険な場所に行くのかい!?」


「魔公爵を倒すのが勇者の使命ですからね」


「あんた知らないのかい? 魔公爵領のモンスターはここいらとは比べ物にならないくらい強いんだよ」


「ははは! どうせ雑魚です。僕が蹴散らして見せますよ」


「ギルドの冒険者が戦いを挑んでも勝った者がいないっていうよ。だから、魔公爵領だけには近づかないようになっているのさ」


「へぇ〜〜。ここのギルドはカスなのかな?」


「き、気をつけるんだよ」


 ふん。クソババァは黙っていろ。ブスが僕に意見するんじゃない。

 魔公爵領だろうとなんだろうと、所詮は雑魚モンスターなのさ。僕の敵じゃない。

 なにせ、僕のレベルは82もあるんだからなぁ!


 次の日。


 僕たちは国境を越えた。


 そこは魔公爵領。


 魔公爵の部下モンスターが蠢く魔の地域だ。


 さぁ、魔公爵をぶっ倒して、ミシリィにこの『きわどい法衣』を着てもらうぞぉお〜〜。

 グフフフゥ。

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