第22話 セアの勇者認定式。支度金をもらえるが……
魔公爵ゴォザックの襲来より5年が経過した。
僕は勇者の血に目覚め、修行の日々を重ねる。
結局、強力な武器は何一つ入手できなかった。
無限ダンジョンの宝箱は全部空。民家の壺にもアイテムは入って無くて、武器屋は売り切れ。
どうしてこんなことになったんだ?
これも勇者になる試練だったのだろうか?
まぁ、いい。
武器なんかなくても僕には最強の筋肉があるからな。
それに、ついに来たのだ。
待ちに待ったこの日が。
今日は勇者の認定式の日だ。
王都ロントメルダの王城にて、僕が勇者に認定される日だ。
僕は祭壇の前で頭を下げた。
「大勇神ブレイゼニスの加護のもと。ここにいるセア・ウザインに勇者の称号を捧げる」
神官の言葉で僕は光に包まれた。
そして、右手の甲に紋章が浮かび上がる。
やった!
ついに来た。
「それは勇者の証。その紋章があれば、どんな国にも入ることができるであろう。そなたに神のご加護があらんことを」
そして王の間。
国王はみんなの前で宣言した。
「セア・ウザインを第108代目の勇者と認める」
キターーーーーーーーーーー!!
ついに勇者になれたんだぁあああああああああ!!
ということは、グフフ。
装備品と薬草、支度金の100コズンがもらえることになっているぞ。
歴代の勇者はもらってきたんだからなぁああ。
「ふふふ」
「どうしたのだ?」
「え?」
「勇者の認定式はこれにて終了だ」
「あ、あのぅ……」
「な、なんだ?」
「いや……。へへへ」
「認定式は終わった。魔公爵ザウスを倒す旅に出るがよい。囚われの身となった奴隷たちを解放するのだ。ロントメルダに平和を取り戻してくれ」
「あ、はい。それはわかっているんですが……。そのぉ」
と、両手の平を差し出した。
「旅にはそれなりの準備が必要でしてぇ……。えへへ」
「な、な、なんのことだ?」
「ははは。知らないはずはないでしょう。歴代の勇者はもらっていると聞いております」
「も、も、もしかして、装備品や支度金のことか!?」
「はい。えへへ。薬草ももらえると聞いていますよ」
「う、うむぅ……」
「えへへへ」
「それがなぁ」
と、国王は内情を語り始めた。
「えええええ!? 城内の経済が困窮してるですってぇええええ!?」
「うむぅ。とてもいいにくいのだがなぁ。そなたに渡せる金がないのだよ」
「そ、装備品もですか?」
「うむ」
「薬草は!?」
「貴重な財源だ」
「じゃあ、なにも無いのですか!?」
「そうなるな」
「ええええええええええええええ!? そんなぁあああ!! 手ぶらで旅立ちなんて、あり得ませんよぉおおお!!」
「し、仕方がないであろう。魔公爵ザウスが奴隷の引き渡しに応えてくれんのだからな。そうなれば国内における労働力の低下は免れん。ロントメルダ領は深刻な税収不足なのだよ」
いやいやいや。
「おかしいじゃないですか! 5年前に僕が魔公爵ゴォザックを倒して、それ以来、奴隷狩りは行われていないと聞いていますよ! つまり、5年間は平和だったはずだ! その間に税収なんか回復しているでしょう!!」
「な、な、な、なにをいうんだ! せ、政治のことも知らんくせに!」
「考えればわかります! 5年間はモンスターの襲撃はありませんでした! それに、街中は潤っています! 城内だって立派だ! ホラ! あの兵士なんか竜砂鉄の剣を装備していますよ!!」
「あ、あ、あれは……その……。と、と、とにかく困窮しておるのだ!!」
「あの兵士も、あの兵士も竜砂鉄の剣だ。あ! あの兵士なんか魔鋼の剣を装備しているじゃないですか!! 部下に立派な装備をさせて僕に支度金を渡せないってどういうことですか!?」
「と、と、とにかく我が城は貧乏なのだ! おまえに渡せる物はない!!」
「クソがぁああああ!!」
「なんだと!? 貴様、誰にものをいっているのだ!?」
「あ、いや……。こ、これは独り言です」
「口の利き方には気をつけろよ。私は国王なのだぞ」
「も、も、申し訳ありません」
「さぁ、もう行け。そなたには使命があるはずだ。魔公爵ザウスを倒して奴隷たちを解放するがよい。さすれば、それ相応の褒美を与えてやる」
「ううう……」
僕は涙目で城を出た。
なにもない……。
まさか、こんな惨めな旅立ちになるとは。
一体どうなってるんだよ。ついてないなぁ。
☆
ーー3日前の話ーー
ロントメルダ領の騎士団長は国境にある小屋の中にいた。
そこは魔法壁の外側に位置しており、いつモンスターが攻めてくるかもわからないような場所であったが、不思議と静かな所だった。
「なに!? 竜砂鉄の剣を売ってくれるだと!?」
と、騎士団長は目を見開く。
彼の前にいたのはチャイナ服に身を包んだ、丸渕メガネの男だった。
それは、巷で有名な武器商人チンの姿である。
「500コズンでいいあるね。ロントメルダとは仲良くしたいことたよ」
「ご、500だと!? 刀身がボロボロの中古品ではあるまいな?」
「刃こぼれなんて一つもない新品あるよ」
「なにぃいいい!? あ、あの剣の値段は高騰しているんだぞ。国内の武器屋は在庫ゼロだ。いまや、中古品でも1000コズン以上はする。そんな貴重な剣をたった500コズンで……。し、信じられん」
「私、貿易のために剣を買い込んだね。他国に売れば800コズンで売れるあるよ」
「そんな貴重な剣をどうして格安で売ってくれるのだ?」
「仲良くしたいある」
「ふぅむ……。詳しい目的をいえ。条件が良すぎるのは気味が悪い」
「実は、勇者になる少年に恨みがあるあるね」
「なんだと?」
「彼は武器屋の店主の首を絞めたり、貴重な剣を放り投げたり、好き放題やってるあるね。店主とは親しい仲ある。こんなことは許せないある」
「ふぅむ。では、我々に復讐をして欲しいのか?」
「まさかある。そんなことをすれば国内で揉め事が起こってしまうあるね。なにごとも穏便にするのが一番よ」
「では、どうするのだ?」
「認定式の日にね」
と、チンは条件を提示した。
「なるほど……。勇者に渡す、支度金と装備品を渡さないようにするのか」
「薬草もあるよ。アイテムは渡さないで欲しいあるね。これがせめてもの復讐ある。そうしないと店主の首を絞めた恨みは消えないあるね」
「ふむ……。従来ならば、自警団に逮捕させて投獄行きなのだがな」
「勇者になる存在をそんなことで投獄にはできないあるね」
「うむ」
「ささやかな復讐ある」
「たしかにな。これくらいなら、武器屋の店主も気が晴れるし、勇者にも罰を与えられる」
「一石二鳥ある」
「うむ。わかった。しかし、国王が納得するかだなぁ……」
「魔鋼の剣も安く売ってあげるある」
「なに!? そんな貴重な剣まで!? それなら断る理由がない!」
「商談成立ね」
こうして、勇者認定式には、ああなったのである。
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