第21話 セアは魔鋼の剣を買いに行く

〜〜セア視点〜〜


 僕がお金を貯め始めてから1年と半年が経とうとしていた。


 修行と金策を兼ねるため、馬や農機具といったものは全て使わなかったよ。

 荷物は走って持ち運び、田畑は素手で耕した。


 おかげで僕の体はかなりマッチョになってくれたね。


「ふふふ。見よ。この究極のボディ。美しき上腕二頭筋」


 と、鏡を見ながらうっとりする。

 僕は本当にかっこいい男だ。

 どう見ても勇者に相応しいよね。


 そして、ついについに。

 くははは。


 1000コズンを貯めてやったぞ!

 これで 魔鋼まはがねの剣が買える!


 この美しい筋肉質の体に 魔鋼まはがねの剣が加われば、その勇姿は歴史に名前を刻むことになるだろう。

 王都の娘たちは僕に見惚れて顔を真っ赤に染めるはずだ。

 ククク。そうなったらとっかえひっかえ遊びまくってやる。

 僕くらいに有能な人間は美女に囲まれてハーレム生活を送る権利があるんだよ。


 ククク。 魔鋼まはがねの剣を購入してモテモテ生活の始まりさ。


 僕は王都ロントメルザの武器屋に行った。

 

 な、なんか店が改装されてんな。

 全体的に大きくなって綺麗になっている。

 どうやら、かなり繁盛しているようだな。


「店主! 久しぶりだな」


「お、おまえは……ハジメ村のセア。すごい筋肉だな」


「ククク。まぁね」


「今日はなにを買いに来たんだ? 残念だが、まだ、竜砂鉄の剣は売れないぞ」


「ふん! そんな雑魚い剣に興味はないのさ」


「竜砂鉄の剣は剣士の憧れなんだがな」


「ふん。そんなゴミクズに興味はないんだよ。あるのは僕に似合った剣なのさ」


「というと?」


「上位種に決まっているだろうが!」


「いや……。し、しかしだな。あの剣は……。あの時、安く売るといったのに断ったのはおまえの方じゃないか!」


「僕を舐めるんじゃあないよ。お情けのセール品なんて買うもんか。僕は勇者になる男だぞ。たとえ、どんな高価な金額だろうと定価で買ってみせるのさ」


「ま、まさか……。おまえみたいな子供が大金を用意できたのか?」


「僕を舐めるんじゃない!!」


 と、カウンターに金貨が入った小袋を置いた。


「こ、これは!?」


「1000コズンある」


「なに!? こんな大金どうやって!?」


「働いて貯めたのさ」


「なにぃいいいいいいいい!?」


「ククク。まぁ、余裕だったよ。なにせ、僕は勇者になる男だからね」


 見よ。この輝く上腕二頭筋を!


「ま、まさか、本当に金を持ってくるとは……」


「ククク。僕は有言実行する男なのさ。さぁ、売ってくれ。 魔鋼まはがねの剣を!」


「じ、実はな……」


 と店主は眉を寄せた。


 な、なんだ、このワントーン落ちた感じは!?

 このパターンは前にもあったぞ。

 な、なんだかすごく嫌な予感がする。


魔鋼まはがねの剣は売れないことになっているんだ」


 また、このパターンかぁああああ!!


「まさか……。また、買い占めか!?」


「う、うむ……。こちらも商売だからな」


「ふざけるなぁあ!! 誰が買い占めたんだぁああ!!」


「……チ、チンさんだよ。武器商人のチン・ピンインさんだ」


 また、その男かぁああああ!!


「クソがぁああああああああああ!! 買い占めなんかやりやがってぇえええ!! 人としてのモラルはないのかモラルはぁああああ!!」


 と、店主の首を絞めた。


「んぐぐ……。そ、そう怒るなよ。武器は他にもあるんだ。飛龍の鎖鎌は強力な武器だぞ?」


「僕は剣しか装備できないんだよぉおおおおおおおお!!」


「そ、そうだったな……。しかし剣か……」


「他にないのか? 強くて格好いい剣は?」


「あ、あいにく、うちの店にある剣は全部、チンさんが買い込んでしまったんだ」


 チィイイイイイイン!!

 このクソ野郎がぁあああああああ!!


「あ、でも1本だけあるかもしれないな」


「なに!? どんな剣なんだ!?」


「世界でたった1本しか存在しないユニークソードさ」


「にゃにぃいいいいい!? そんな貴重な剣があるのかあああ!! 早く見せろ!!」


「うむ。倉庫にあるから持ってこよう」


 すると、店内が悪臭に包まれた。


 く、臭い!

 なんだこの臭いは!?


 店主は長い木箱を持ってきた。


 鼻を摘みながら箱を開けると、モァアっと悪臭が立ち込める。


 く、臭い!


 そこにはいびつな形をした剣が入っていた。


「この剣は、魔神の吐いたゲロを固めて作ったと言われているんだ。そのせいでめちゃくちゃ臭い。その名も魔神ゲロソード」


「はぁああああ?」


「伝説の刀鍛冶師が遊びで作った剣らしい。装備すると不思議な力で外せなくなるんだ」


「ふざけんな! 呪いの武器じゃないか!!」


「この剣を装備した冒険者は攻撃力が10分の1になる。その上で、ギルドには出禁になるということだ。ユニーク武器だからな。1000コズンでいいぞ」


「いるかぁああああああああ!!」


 僕はその剣を放り投げた。

 それは窓ガラスを蹴破って遠くの空に飛んでいった。


「ああ! チンさんでも買わなかった珍しい剣が!」


「ふざけるなぁあああああああ!! 武器商人が買わない武器を僕に勧めるなぁああ! 他にないのかぁあああああ!?」


「ない」


「ぬあああああああああああああああああああ!!」


 クソがぁあああ!!

 どうして武器が手に入らないんだよぉおおおおおおおお!!


「飴をあげるから帰ってくれ」


「子供扱いすんなぁああ!! 舐めんなぁあああああ!!」


「蜂蜜ミルク味の飴ちゃんだから美味いぞ」


「クソがぁああああああああああああ!!」


 僕は飴を握りしめて店を出た。


 途中、拳の中の飴を握り潰そうとして我に返る。


「クソ……。食べ物は粗末にできない。そんなことをすれば勇者の名折れだ」


 誰もいない場所に行って、飴を口の中に入れた。


 う……。甘い。

 ミルクと蜂蜜の飴はめちゃくちゃ美味しいな。 

 クリミィな味わいに濃厚な蜂蜜の甘味が口いっぱいに広がる。

 こんな飴を無料でもらえたんだからちょっとだけラッキー……。


「じゃねぇええええええええええええええええええええええ!!」


 ふざけんなぁあああああああ!!

 クソがぁああああああああああああああああ!!


 僕は勇者になる男だぞぉおおおお!!

 飴ちゃんをもらって喜んでいる場合じゃなあああああああああい!!


 なんで剣が手に入らないんだよぉおおおおおおおおおおおおお!!

 なんでだぁああああああああああああああああああ!?


────

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