第20話 究極進化
〜〜ザウス視点〜〜
勇者襲来まで残り1年になった。
俺を含め、部下たちは恐ろしく強くなっている。
アルジェナは勇者と同じ人間だが協力的だ。内情をよく理解してくれている。
「ねぇザウス。勇者が1年後に襲ってくるのはどうしてわかっているの?」
この質問に答えるのには躊躇するよな。
俺が転生者で、この世界がゲーム世界だなんてことは言えないよ。
彼女たちにとってはこの世界は現実なんだからな。
適当に誤魔化しておこうか。
「予言があってね。その予言の的中率が高いんだ。その予言では、俺が勇者に倒されることになっている」
「え!? ヤバイじゃん」
と、青ざめる。
なんだ、知らなかったのか。
「まぁ、予言では俺のレベルは66だったからな。今はレベル230だ。しかも、最強の武器、デーモンソードを持っている。予言の状況とは変わってきているんだ」
「城内じゃザウスより強いモンスターいないし。この界隈じゃあ最強だもんね。それだけ強くなったら安心だね」
「…………」
問題は勇者の状況も変わってきていることなんだよな。
勇者セアには強い武器が行き渡らないように画策している。
しかし、素体が凄まじい修行によって筋肉隆々になっているとか。
敵が強くなろうと、俺がそれ以上に強くなればなにも問題はない。
だが、懸念要素はあるんだ。
それは勇者だけに設けられた主人公補正。
勇者には主人公補正があって、他のキャラにはない特別な行動が設定されているんだ。
それが低確率で発生させるブレイブクリティカル。
これが発生すると、通常攻撃の倍以上の威力が出る。
倍率はランダムで2〜〜5倍の威力になっている。
滅多に出ることはないが、5倍のクリティカルが出れば相当な火力になるだろう。
俺の父、魔公爵ゴォザックはこのブレイブクリティカルによって倒されてしまったんだ。
だから、決して勇者を侮ってはいけない。
多少のレベル差がつこうと、このブレイブクリティカルによって圧倒的に不利になるんだからな。
「浮かない顔だね」
「……いや。そういうわけじゃないが」
「ごめんね。
「アルジェナには十分、活躍してもらったからな。そうだ。少し早いが村に帰るか?」
「えええ!?」
「契約では5年だったからさ。あと1年はあるけど。おまえのおかげで俺は強くなれたよ。ボーナスは弾むからさ。ゆっくり休んでくれてもいい」
「そ、それはないわよ。ザウスが困ってるのにさ。
俺が困ってる?
「どういう意味だ?」
「べ、べ、別に深い意味なんてないんだからね! ご、誤解しないでよね! 友達が困ってるのを見過ごせないってこと! そ、それにあなたが倒されちゃったら、誰がザウスタウンを統治するのよ! あの街はあなたなしでは存在できないんだからね」
「そんなのは、他の王族か貴族が面倒をみてだなぁ」
「そんなことできるわけないでしょ! 他の支配者はあなたみたいに優しくないんだから」
「いや……。別に優しくしてるつもりは微塵もないが」
「呆れた……。おなたって本当にお人好しね。……まぁ、そういうところが好きなん……」
「え?」
「な、な、なんでもないわよ! バカ!」
なんか罵られた。
「と、とにかく、ザウスタウンにはあなたが必要なの! 絶対に勇者なんかに負けないでよね!」
「ああ。善処する」
「
「助かるよ。ありがとな」
「べ、べ、別にあんたのためじゃないっての! ザウスタウンのためなんだからね」
「そか」
「そ、そうよ! 勘違いしないでよね! ふん!」
彼女といると心が和むな。
「そういえばさ。モンスターを教育していて気がついんたんだけどね。最近、ちょっとおかしいのよね」
「なにがだ?」
「ゴブ太郎とかハピ江ちゃんがさ。うっすら光っているように見えるの。他にも何体か輝いているモンスターがいるわ」
「へぇ」
俺はゴブ太郎を呼んだ。
「なにかご用ですかゴブ?」
ふむ。
身長は120センチ前後。
その見た目はゲームに出てくるゴブリンそのものだ。
ステータス画面の種族欄にも『ゴブリン』と表示されている。
確かにうっすら光っているな。
「なにか変わったことはないか?」
「レベルが上がらなくなったゴブ。ザウスさまのためにもっと強くなりたいんでゴブが。辛いゴブ」
ほぉ。
強さはどうなっているんだろう?
レベル150か。
なかなかに成長しているな。
すると、画面の中には見たこともない表示があった。
【究極進化】 支配者の権限によって解放。
なんだこの表示?
点滅してアピールしてるな。押してみるか。
『究極進化させますか? はい・いいえ 』
え?
もしかして……。
と、『はい』を選択してみる。
瞬間。
ゴブ太郎は光を発した。
「ゴブ!? なんだこれゴブ!?」
強烈な光に包まれる。
やがて、光が治まると、身長160センチくらいのゴブリンが顔を出した。
「あれ? オイラ、どうしちゃったゴブ!?」
その声はゴブ太郎だった。
「成長したのか?」
ステータスを確認すると、種族が『
こいつはエンドコンテンツのレベル100の無限ダンジョンに出てくる強敵だよ。
レベルが──
「250だと!? 一気に100も膨れ上がってるぞ!」
「うは! オイラ、強くなったゴブか!?」
どうやらそのようだな。
通常のゴブリンはレベル150がカンスト値なのかもしれない。
モンスターの設定はブレクエのプレイヤーでも知らないことだったからな。
まさか、
でも、これはいいぞ。
「アルジェナ。他にも光ってるやつがいるんだよな?」
「ええ。何体かいたわね」
「全員をここに連れてきてくれ」
「わかったわ。光ってるモンスターを進化させるのね!」
いい流れだ。
俺は集まった部下モンスターを片っ端から究極進化をさせていった。
眼前に並ぶのはレベル250のモンスターたち。
「うむ」
壮観だ。
勇者の襲来まで残り1年。
俺よりもレベルの高いモンスターたちが誕生したぞ。
ちょうどいい。城内では強すぎて稽古の相手がいなかったからな。
「ゴブ太郎。修行をしよう」
「え?」
「思いっきり攻撃してきてくれ」
「……オ、オイラのレベルはザウスさまを超えてしまったゴブ。思いっきりやったら怪我しちゃうゴブよ」
「手加減していては成長しないさ。怪我は回復魔法で治せばいいからな。思いっきりくるんだ」
「わ、わかったゴブ。ご命令とあらば思いっきりやっちゃうゴブ」
ゴブ太郎は棍棒を振り下ろした。
ブォオオオオオオン!!
速い!
目で見えないぞ。
とても防御魔法を使う余裕がない。
さすがはレベル250だ。
「あ、当たっちゃうゴブゥウウウ!! 顔面直撃ゴブゥウウウウ!!」
と、叫ぶやいなや、その棍棒は俺の顔面のわずか数センチのところで止まった。
ガンッ!!
「え!? な、なにが起こったゴブ?」
「……俺にもわからん」
ゴブ太郎は何回も俺に棍棒を当てた。
ガンガンガン!!
……まったく痛くも痒くもないな。
「見えない壁に弾かれるゴブよ。攻撃が当たらないゴブ」
……あ、そうか。
「支配者権限だ。ゴブ太郎は俺と奴隷契約を結んでいるから、その権限が発動して攻撃が当たらないんだよ」
「あ、本当だゴブ。右手の甲にある『奴隷紋』が光っているゴブ」
「これならゴブ太郎は安心して攻撃できるな」
「ふおおおお! 流石はザウスさまゴブ!! 最強ゴブ!!」
「よぉし。そうとわかれば思いっきり来い!」
「やるゴブ!!」
そうだ。
「ハピ江。オーク蔵。リザ丸も一緒に来い! みんなで俺に攻撃するんだ。修行の開始だ!」
魔公爵城の中にガンガンというとんでもなく大きな音が響き渡る。
メエエルが運ぶお茶の水面が揺れるほどの振動。まるで世界の終末を予感させるような、そんな大きな音だった。
残り1年。
限界まで強くなってやるさ。
──
次回。セアが魔鋼の剣を買いに行きます。
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