第19話 4年目突入。アルジェナの気持ち
〜〜アルジェナ視点〜〜
部下モンスターの指南役としてスカウトされたわけだけれど、もうすっかり魔公爵の仲間になってしまった。
魔公爵といえば人間の敵だったけれど、ザウスにはそんな気配は微塵もない。
彼が支配するザウスタウンは天国のような街だ。孤児院の充実はさることながら、病院、市場、各種店舗。それぞれが驚くほど発展している。
それもこれも、彼の政策が住民視点の優しいものになっているからだ。彼の思慮深い思考にはどんな王族も貴族も敵わないだろう。
彼は本当にすごい存在だと思う。
ザウスタウンには周辺国からの移民も多く受け入れていた。よって、前魔公爵ゴォザックがやっていたような奴隷狩りはしなくても年々人口を増加させている。
しかも、住民は結婚をして出産をするので、どんどんと人口が増える仕組みになっているのだ。
魔公爵城も同様の発展を見せる。
野菜の売買を筆頭に武器の貿易が多大なる利益を生んでいる。また、部下モンスターが魔公爵ギルドを使ってやる探索の収入もバカにならない。
収入で増改築を繰り返すので、城の大きさは、私が来た時よりも3倍以上に拡大していた。
ザウスタウンからは、城の侍女になる希望者が後を断たない。
あまりにも多いので、メエエルが厳しい面接をして、若くて可愛い女の子ばかりを採用している。
その方がザウスが喜ぶかららしい。
そして、メエエルは新しく雇用をした女の子たちに添い寝係の説明をするのだ。
添い寝係とは、主人であるザウスが城内にいるお気に入りの女の子を寝室に誘って一緒に一夜を過ごすシステムのことだ。
希望者はノートに名前を記入する。今や、そのノートは3冊目に突入していた。
もちろん、
でも……。
彼は添い寝係を利用しているのだろうか?
べ、別に気になっているわけじゃないのよ。
彼は魔公爵だしね。第二夫人だって作るだろうしさ。
そうよ。
これは当然のことなのよ。
だから、気になっているわけじゃないわ。
だから、世間話というやつね。
「ねぇメエエル。あなたとは随分と仲がよくなったわよね」
「ええ。私もお友達ができて嬉しいです」
「えーーと。
「21歳ですね」
「ああ、もうそんな歳か……。そろそろ結婚とか考えないの?」
「あるわけないじゃないですか」
「好きな人とかいるの?」
「…………」
彼女は黙った。これをいうと頬を真っ赤に染めるのよね。
「え、えーーと。別に興味があるってわけじゃないんだけどね。話の流れで聞くんだけどさ。あのノートって使っているのかな?」
「……添い寝係の希望を記したノートのことでしょうか?」
「あ、うん。そういうのあったわよね?」
「ええ。もう3冊目が終わろうとしております」
そ、そんなに希望者がいるのか。
「……つ、使ってるの?」
「……知りたいですか?」
「べ、別に……」
「…………」
しばらく沈黙が続く。
メエエルは鼻息をともに眉を上げた。
「使っておりません」
「そ、そうなんだ。あはは」
良かったぁあああああああああああああ!!
なんか良かったぁあああああああああああ!!
「あら? なんだか、心底、ホッとした顔をされていますね」
「べ、べ、別にぃいいい! なぁあんとも思っていないわよ」
「そうですか。それならいいのですが……。このノートを使うのは来年とのことです」
ら、来年か……。
そういえば、私の契約は5年だったな。来年でその年になる。
ザウスは強敵に備えるっていっていたけどさ。
「ねぇ。一体、来年にはなにがあるというの?」
「……もうそろそろ、詳細を打ち明けてもよろしいでしょう。それに以前からザウスさまには説明するようにいわれておりました」
なんだか緊張するわね。
魔公爵が戦う敵の存在。
「来年になると勇者がこの城に来るのです」
ああ、やっぱりか。
薄々は感じていたんだけどね。
魔公爵の敵だもん。やはり、その相手は勇者……。
「勇者はザウスさまの命を狙っているのです」
当然か。
勇者は人間の味方。魔公爵は人間の敵……。
でもさ。
「ザウスは人間の味方なんじゃないの? ザウスタウンは平和だしさ」
「私もそう思います」
「だったら、王都ロントメルダに平和交渉を持ちかけたらどうかしら?」
「私の方からもザウスさまには、そのことを進言させていただきました。でも、内情はよくありません」
「ああ。魔公爵にもプライドがあるのか……。やっぱり人間と仲良くするのは難しいわよね」
「いえ。ザウスさまは平和主義者です。というか、『戦いは負傷者が出て労働力の低減につながる、よって非効率だ』と仰られております。私の発案にも同意していただきましたよ」
「だったら平和条約を結べばいいじゃない。魔族と人間が仲良くなれば勇者だって殺しに来ないわよ」
「王都は奴隷の解放を要求してきたのです」
「あ、そっか。ザウスタウンの住民は、彼の父親、ゴオザックが奴隷狩りで集めてきた人たちだもんね。じゃあ、その交渉には応えたの?」
「はい。ザウスさまはザウスタウンの長老に相談しました」
「だったら解決ね」
「それが……」
と顔を曇らせる。
「上手くいかなかったの? 住民たちは賛成でしょ? いわば奴隷解放なんだからさ」
「長老がロントメルダ領に戻ることを拒否したのです」
「はい?」
「それが領民の総意なんだだそうで。みなさん、ザウスタウンが大好きすぎて離れたくないそうなんです」
「ははは。まさかの展開だね」
でも、そりゃそうか。
ロントメルダ領に戻っても、年貢の取り立ては厳しくなって、生活場所は不衛生で子供の教育もままならない環境になるわ。明らかに故郷の方が劣悪だもんね。みんな帰りたくなくなるのは当然か。
たとえ、支配者が魔族でも自分達の生活が潤うなら、そっちの方がいいわよね。
「そんなことがあって、王都とは関係が拗れてしまっているのです」
なるほど……。
じゃあ、結局、予定通りか。
来年には勇者がザウスを倒しに来る。
「アルジェナさんは勇者の味方ですか?」
「まさか。
王都が孤児に資金を充てるとは思えないものね。
「じゃあ、一緒に戦ってもらえますか?」
「当然でしょ。みんなの平和を守るために戦うわ!」
「あは! ありがとうございます!」
と、
彼女は年上だけど、少女みたいに純粋で可愛い笑顔を見せるのよね。
「それではこれ!」
と、添い寝係の希望ノートを出す。
「はい?」
「ふふふ。どうぞ記帳を」
「か、書かないってば」
「こういうことは、よくないのですが……」
と、古いノートを取り出した。
「これは1冊目です。この初めのページ。私の次の行に付箋を貼り付けました」
「そ、そ、それがなによ?」
「ですから、ここにアルジェナさんの名前を書けば、たちまち2番目に早替わり」
「か、書かないってば!」
「あれ? いいのですか? こんなことはあなただけですよ」
「怪しい勧誘はやめてよ! 書かないってば」
「……勇者の討伐を回避できれば、このノートは活用されるようですよ。タイムリミットはあと1年です」
ゴクリ……。
「あ、今、生唾を飲み込みましたね」
「な、なんのことよ!」
「どうしますか? チャンスタイムですよ」
「な、なによそれ! 絶対に書かないわよ!」
か、書くもんですか!
そんなの書いたら、「好きです」って告白してるようなもんじゃない!
ザウスのことなんか別に好きじゃないわよ!
仲のいい友達なだけ!!
ぜ、絶対に書かないわ!!
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