第18話 勇者、剣を買う

 武器屋の店主は眉を上げた。


「なんだか、えらく興奮しているなぁ。よほど欲しい武器があるようだね」


「ふふふ。当然ですよ。これが興奮せずにいられますかって」


「ははは。まぁ、欲しい武器が買える時は心が弾むもんだよな。で、なにがお望みなんだ?」


「この袋には360コズン入っています。あの剣と同じ値段だ。くくく。僕はしっかりとリサーチしているんです」


「ほぉ……。360コズン……。そうなると魔鉱石のハンマーかな? それとも飛龍の鎖鎌?」


「やれやれ。僕は勇者になる男なんです。だから、装備は剣しかできません。今日は剣を買いに来たんですよ」


「そうか剣か……。しかしそうなると、該当する武器がなぁ……」


「んもぉ〜〜。察しが悪いなぁ。360コズンの剣といったら一つしかないでしょう! 全ての剣士が憧れる、あの剣ですよぉ!」


「あ、うん……。それは……そうなんだが……」


 ふふふ。

 僕が買いに来たのはあの剣なのさ。

 見た目が最高にかっこうよくて攻撃力がグーーンっと上がるあの剣しかないんだ。


「さぁ! 売ってください!! 竜砂鉄の剣を!!」


「悪いが在庫がないんだよ」


「ええええええええええええええ!?」


 クソ!

 ついてない!!


「い、いつ入荷なんですか?」


「えーーと、4年後かな」


「はぁああああ!? ふざけんじゃねぇえぞクソがぁああ!!」


「おいおい、口が悪いな」


「うるさい! 僕は必死に1年間働いて金を貯めたんだ!! 修行だって中止したんだぞぉおおお!! 全部、竜砂鉄の剣を買うためだったんだからなぁああああ!!」


「そういわれてもねぇ」


「1本くらい在庫があるだろうがぁああ!!」


 とカウンターの裏を覗くと、梱包中の剣が見えた。


「あ! 竜砂鉄の剣だ! あるじゃないか!! 売ってくれ!!」


「いや。あれはダメだよ。お客さんに送る品だからね」


 くぅうううう!

 ふざけんなぁああああ!!


「そもそも、どうして4年後まで買えないんだよぉ!?」


「お得意さまと専属契約をしてしまってね。その人が買い占めてしまったんだよ」


「誰だ! その不届き者はぁああ!?」


「顧客情報は言えないんだよ」


「ふざけんなぁああああああ!!」


 僕は店主の首を絞めた。


「ひぃいいい!!」


「クソがぁああああ!! ぶっ殺すぞゴラァアアア!! 言えぇええええ! 誰に売ったぁああああ!?」


「チ、チン・ピンインという武器商人だ」


 チィイ! 雑魚い名前しやがってぇ。聞いたこともない奴だ。


「どこにいるんだ!? 言え!」


「て、手紙でやり取りしてるんだ。住んでる場所は知らないよ」


「だったら手紙で許可を取れ! 竜砂鉄の剣を1本、僕に売るように許可を取るんだ」


「わ、わかった……。手紙のやり取りには2週間かかるから、また来てくれ」


 くぅうう! 

 仕方ない。


「ちゃんと交渉はしろよな! 手を抜いたらぶっ殺すぞ!」


 僕は仕方なしに帰った。


 そうして2週間後。


「ど、どうだった!? 許可はもらえたのか!?」


「ダメだった……」


「なにぃいいいいいいいいいい!! ふざけんなぁあああ!! ちゃんと交渉したのかぁああああ!?」


 そういって襟首を絞め上げた。


「こ、交渉はしたよぉ! これが返事の手紙さ。剣は売れませんと書いているだろう」


 店主のいうとおりだった。

 手紙には丁寧に断りの文言が書かれていた。


「クソがぁあああああああああああああああ!!」


 僕の計画が台無しだぁああああああ!!


「し、仕方ない。こうなったら、不本意だがサービスしてやるよ」


「サービスだと?」


魔鋼まはがねの剣を360コズンで売ってやるよ。特別だぞ」


「なに!?」


 魔鋼の剣といえば1000コズンはする高価な武器じゃないか!

 

「どうしてそんな高価な剣を360コズンで売ってくれるんだ?」


「い、いちいち首を絞められたんじゃ、たまったもんじゃないよ。この剣を売ってやるから帰ってくれ」


「ふざけるなぁあああ!!」


「ひぃいいい!!」


「それじゃあ、僕がおまえを脅したみたいになっているじゃないか!」


「いや……。実質、そんなもんだろ」


「舐めるんじゃないぞ!!」


 僕は、店主の首を片手で掴んで持ち上げた。

 僕の筋肉ならば、こんな大人の体くらい軽い。


「僕は勇者になる男なんだ! 店主を脅して、武器を安く手に入れたりなんかしない!!」


「あぐぐぐぐ。た、助けてくれ」


「僕を侮辱するとぶち殺すぞ! わかったか!?」


「は、はひぃ」


 ったく。

 雑魚が。


 こうなったら金を貯めるしかない。

 

「か、買ってやるよ。1000コズンがあれば買えるんだな?」


「そ、そりゃあ、まぁ、そうだが……」


「か、必ず買ってやる! 僕は勇者になる男なんだ。見くびるんじゃないぞ」


 2年はかかりそうだな。

 勇者認定式と被るが致し方ないか。


 なんとして1000コズンを貯めて、魔鋼の剣を手に入れるんだ。


 今よりもっと仕事の量を増やして、なんとしても1000コズンを貯めてやる。




〜〜ザウス視点〜〜


 武器の貿易は順調だった。

 竜砂鉄の剣を400コズンで買って800コズンで売る。

 このルートが確立すれば、あとはその差額だけが俺の収益になるんだ。


 メエエルは満面の笑みを見せる。

 

「儲かって仕方ありませんね」


「もうちょっと範囲を広げるか」


「と、いいますと?」


 元々は勇者セアに剣が渡らないようにするだけの計画だったからな。

 序盤で最強を誇る竜砂鉄の剣を買い占めるだけで十分だったんだ。

 でも、ここまで儲かるながビジネスとして拡張してもいいだろう。


「魔鋼の剣も買い占めよう」


「すばらしいアイデアでございます。早速手配させていただきますね」


 この剣は1000コズンもするからな。

 日本円でいえば100万円くらいの価値だ。

 俺がプレイしていた時は、この剣を購入したのは、中ボスである魔公爵を倒してからだった。

 ブレクエは序盤に金が貯まらないゲームだからな。開始当初ではなかなか手に入らない本当に憧れの武器だったよ。


 そんなわけだから、これを買い占めるのは、完璧にただのビジネスになる。

 勇者セアの弱体化とはまったくもって無縁だろう。


 まぁ、でも城の経営が潤えば、部下たちの福利厚生も向上するからな。

 ちょうどモンスターが住まう地区のインフラ設備の改善をしたかったんだ。

 不衛生だと病気が蔓延して兵力の低下につながってしまうよ。もっともっと環境をよくしなくちゃ。

 みんなの環境が潤えば、俺の領土は更に発展するだろう。こういうビジネス展開も悪くないよな。

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