第17話 買い占め

〜〜ザウス視点〜〜


 俺はロントメルダ領の武器を買い占めることにした。


 その為には武器屋と交渉し、納得させる必要がある。


 俺はつけ髭をして謎の武器商人に変装した。

 話言葉は片言である。


「私。武器商人。チン・ピンイン。いうあるね」


 この名前は「珍しい武器」というのを中国語にしたのだ。

 まぁ、あんまり深い意味はないさ。


 丸い縁のサングラスをかければ正体も年齢も隠せるだろう。

 頭の角はターバンで隠す。問題は青い肌だが、日焼けしたことにしとけばなんとかなると思う。

 お共にはメエエルを選んだ。

 彼女には露出度が高めのチャイナ服を着てもらう。スリットから見える太ももには目のやり場が困ってしまうがな。なかなかに似合っていてセクシーだ。


 そんなわけで、俺は武器屋の店主を国界に呼んだ。

 そこはロントメルダ領の最端で、モンスターの侵入を防ぐ魔法壁の外側に位置する場所だった。

 俺が領土内に侵入すると、魔法壁が反応するからな。

 できる限り外側になるのは当然なのさ。


 武器屋の店主はいい儲け話があるということで呼び出されていた。

 そこは臨時で作った掘っ立て小屋。

 武器屋が作った竜砂鉄の剣が5本。テーブルに並んでいた。


「こんな場所で武器の交渉とは、チンさんは一体何者なのです?」


「ただの貿易商ある。王都に入るのは検閲やらで面倒臭くてね。こんな場所に来ていただいたある」


 俺はテーブルの剣を持った。


 うむ。

 竜砂鉄の剣だ。

 間違いない。


「店主。この剣の出来は素晴らしいある。全部買わしていただきたいある」


「おお! それは嬉しいですな。では、何本必要なのでしょうか?」


「全部ある」


「全部といいますと?」


「店に置いてある剣と、今後作られるであろう剣を全部ある」


「ええええ!? では専属契約ですか!?」


「まぁ、そういうことあるな」


「うは! それはありがたい! うちの売り上げが安定しますよ!」


「では、買値の交渉あるね」


「大量契約ですからね。安くするのは当然でしょう。店舗価格は360コズンなのですが……。例えばですが350とかでどうでしょうか?」


「400コズンでお願いしたいある」


「え!? た、高値ですか!? そ、それはありがたいですが……しかし、そんなことをしてあなたに得があるのでしょうか?」


「私、この剣を独占したいあるね。だから、高値で買うよ。でも、その見返りで他には絶対に売らないで欲しいある」


「なるほど。高値で買い取る条件があるというわけですね」


 違反した場合のペナルティも必要か。

 美味しい話ばかりだと怪しまれるからな。

 この辺は適当に、


「契約は今から5年間ある。それまでは私が竜砂鉄の剣を独占したいある。その間は誰にも売ってはいけないある。例え、たった1人の個人であろうと。1本でも売ったことが発覚すれば契約違反ね。もしも、違反が発覚した場合は契約は反故にさせていただくある。そればかりか、店主から武器を買うことは一生涯しないある。私、約束を破る人間とはビジネスはしないと決めているね。これ商売の鉄則」


「い、違反なんてそんな! こんな美味しい話は他にありません。絶対に他の者には売りませんよ」


「誠実が一番ある」


「では、契約は成立ということで」


 店主は肩を躍らせて帰って行った。

 遠巻きに「これで店が改築できるぞーー!」と歓喜の声が聞こえてくる。


 ふふふ。

 店に利益があれば買い占めは成功するだろう。


 この調子で、他の武器屋とも交渉をした。

 領土内に存在する5軒の武器屋。その全てと交渉が成立した。


 これで、国内で竜砂鉄の剣が買えなくなるぞ。


 このことに眉を寄せたのはメエエルである。


「5軒からの買い付けですからね。月にすると100本の竜砂鉄の剣が手に入ります。装備できるのはゴブリンだけですからね。年内にも在庫がすごいことになりそうです」


「ふふふ。実は剣の扱いは全部考えているんだ」


 400コズンの剣を100本だからな。

 月にすると4万コズンの出費になる。なにもしなければ単なる支出だがな。 

 これを収入に変える方法があるのさ。


 ブレイブクエスト。略してブレクエでは同じ武器を2本までしか持てないという制約がある。序盤のモンスターは滅多に金貨を落とさないから、金のやりくりは死活問題なんだ。

 そんな中、金策をするのは主にアイテムの売買になるんだ。

 このゲームが面白いのは、各国によって売買の値段を変えているところなんだよな。

 ユーザーの救済も兼ねているんだろうが、そのほとんどが高値で売れる設定にしてある。

 また、特別に高値で売れる国というのがあって、すごい所だと倍以上の値段で売れてしまうんだ。


 この竜砂鉄の剣も例外ではない。

 プレイ中は、いくつも所持したいと心から思ったもんだよ。

 

「次はヤマミツ王国に交渉しよう」


「国界を3つ越えた王国ですね。そんな所の剣を買うのですか?」


「いや。今度は売るのさ」


「売る?」


 この国が竜砂鉄の剣を一番高く買ってくれる。


 ヤマミツ王国の武器屋は専属契約に心を躍らせた。


「貴重な竜砂鉄ですからな。1本、1千コズンでどうでしょうか?」


「い、い、1千コズン!?」


 と、大きな声を張り上げたのはメエエルである。

 まぁ、無理もないか。400コズンで買った剣だもんな。


「では専属契約ということで800コズンで買っていただくある」


「は、800!? そんなに安くしてもよろしいのでしょうか?」


「ビジネスにお得感は大事あるね」


「ふは! 流石はチンさんだ! 今後ともご贔屓によろしくお願いしますよ」


 こうして、俺は竜砂鉄の剣を買い占めて、他の国に転売することにした。

 400コズンで買って800コズンで売る。 

 それが毎月100本だからな。実質4万コズンの黒字だよ。


「あは! すごいです!! 益々、儲かってしまいますね!!」


 と、メエエルは小さく手を叩いた。


 ふふふ。

 買い占めと収入が一緒にできるなんて一石二鳥だよな。


 と、喜んでいると、メエエルが頬を赤らめた。


「ザウスさま……。チャイナ服。お好きなのですか?」


「え? な、なんでそんなことを聞くんだ?」


「……チラチラと見ておられたので」


「ははは……」


 バレていたか。

 露出度が高めで、なんかエロかったんだよな。


「時々、着ますね」


「あ、ああ。なんかありがとう」


「いえ……」


 といって顔を赤らめた。

 メエエルはお淑やかで可愛いな。

 などと思っていたら、次の日。

 アルジェナがチャイナ服を着ていた。

 胸元はパッカリ空いて、太もものスリットはサックリと入っている。

 これはエロい。


 思わず、見入ってしまう。


「へ、変かな?」


「いや……。変じゃないよ」


「そう。……なら、良かったけど」


 でも、なんでアルジェナがチャイナ服を着てるんだ?

 そんなイベントはブレクエでもなかったのに……。

 理由を聞いたら怒るだろうか?


「あ……」


「なによ? やっぱり変?」


 アルジェナは全身を真っ赤にしていた。


 やっぱり理由を聞くのはやめよう。

 えーーと、たしか、ブレクエの恋愛イベントでは新しい服を着たアルジェナを褒めて上げると喜ぶんだったな。


「その服。似合ってるよ」


 そういうと、彼女は更に全身を赤くした。


「バ、バカ!」


 そういって去っていった。


 なんか知らんが、今回の買い占めは一石三鳥だったかもな。



〜〜セア視点〜〜


 僕は働きに働いた。

 勇者というプライドを捨てて、仕事の鬼になった。

 それはもう朝から晩まで。野良仕事に配達、掃除洗濯、薬草採取等等。

 やれることはなんでもやった。手に血豆ができることだってあった。

 それもこれも、あの剣を買うためだ。


 そうして1年が過ぎた頃……。


「た、貯まったぞ。さ、360コズン」


 貯めてやった!!

 13歳のこの僕が、360コズンも貯めてやったぞぉおおおおおお!!


 これで竜砂鉄の剣が買えるぅうううううううう!!


 僕は鼻息を荒くしながら王都に行った。


 途中、川の水面に映る自分の顔を見ると、目が血走っていて、少々危ない感じもしたが、まぁいいだろう。


 この興奮が止めらるもんか!

 なにせ1年もかかったんだからなぁああ!!


「ムフゥウウウ!! ムフゥウウウ!!」


 グフフ。鼻息が止まらんな。


 王都の女の子たちとすれ違う。


「ひぃい!」

「こっわ!」

「目がバッキバキじゃない」

「完全にいってるわね」

「あの子、変な薬でもやってるのかしら?」

「ママ。あの人、体から湯気が出てるよ」

「指差しちゃいけません」


 バカが。ほざいていろ。

 今に見ていろ。おまえたちは、僕に心が奪われるんだ。立派な剣を装備したこの僕の勇姿になぁああ!!


 くくく。

 僕は生まれ変わる。

 竜砂鉄の剣を装備してなぁあああああ!!


 雑魚モンスターを駆逐してやるさ。

 バッサバッサと斬り殺してやるさぁあッ!!

 

 最近、噂になっている魔公爵ザウスだってそうだ。

 所詮はカス魔族。僕にとっては雑魚モンスターだ。

 僕がぶっ倒してやるよぉおおおお。今から買う竜砂鉄の剣でなぁあああああ!!


 武器屋に入ると、店主が気軽に声をかけた。


「いらっしゃい」


 くくくくく。


「いらっしゃいましたぁあああああああ!!」


 僕は、店主のいるカウンターに金貨が入った小袋を勢いよく置いた。


ドォン!!


「360コズンだぁああああああああ!!」


 どやぁああああああ!!



────

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