第16話 勇者は武器をプレゼントされるが……

 セアはアイテムが入手できなくて落ち込んでいた。


 普段から横柄な態度だからいい気味よね。


 そんな彼の姿に見かねたのは師匠のゲバルゴンザだった。

 彼女は工房に籠る。


 一体、なにを作っているのかしら?


 熱した鉄を木槌で打つ。

 どうやら、大剣を作っているみたいね。


「フフフ。可愛い弟子のためだ」


カン! カン! カン!!


 さては、セアに大剣をプレゼントするつもりね。

 武器の入手できない彼に武器が渡ってしまう。


 そんなことではザウスさまの計画が台無しだわ。


 考えた私は、一通の手紙を出すことにした。


 それは匿名で、セア宛の手紙だった。


 彼はポストからそれを取り出して読んだ。


「拝啓、セアさま。いつも特訓している姿はとても格好いいです」


 女を匂わせる内容に、彼はニヤケ顔になっていた。


「僕のファンかな? デュフフ。やっぱり僕ってカッコいいよね」


 手紙はこう続く。



 ──やはり、勇者になる男は違いますね。

 ところで、その強さは本物なのでしょうか? 

 王都でも女の子の間で噂になっています。

 まさか、誰かから強力な武器を与えられて強くなったのではないでしょうね?

 そうなったら幻滅しますよ。

 心の底らから軽蔑します。

 だって、あなたは勇者になる男なんですからね。

 そんな者が、誰かから強力な武器を与えられて強くなっているなんてことがあったら、クソ雑魚認定は確定でしょう。

 クズ中のクズ。クソ・オブ・ザ・クソ勇者ですよ。

 そんなことがわかれば王都中に言いふらすつもりです。みんなであなたを笑い者にすることでしょう。

 ……まぁ、そんなことにはならないとは思いますが。

 だって、あなたは勇者になる男なのですから。




 彼は手紙を読み終えて震えていた。


「な、な、なんだこの手紙は!? バカにしやがって! 僕を見くびるなよ! 僕は勇者になる男だ! 誰かから強力な武器をもらったりはしない!!」


 そうして1週間後。


 彼はいつものように筋トレに勤しんでいた。


「筋肉! 筋肉!! 腕立て伏せ1万回の次はスクワット3万回だぁああ!!」


 と、そこへ、彼の師匠ゲバルゴンザが現れる。

 その顔は完全に優しい女の顔だった。


「フフフ。セア。いいものをやろう」


「なんですか師匠?」


「ジャーーン! これだぁああ!!」


「た、大剣!?」


あたいが、あんたのために作ったのさ。プレゼントしてやるよ」


「み、見くびらないでください! 僕は自分の装備くらい自分で手に入れて見せます!」


「そうはいっても無限ダンジョンも民家の壺にもアイテムはなかったんだろ?」


「そ、それはそうですが……」


「だったら師匠からプレゼントしてやるさ。この大剣で強い勇者になればいい」


「……うう。ゴクリ」


 彼は、その立派な大剣を見つめて唾を飲み込んだ。

 遠目で見ているだけでも、その大剣の素晴らしさはわかる。

 きっと、相当なステータス向上につながるだろう。

 彼は喉から手が出るほどに欲しいはずだ。


 でも、


「い、いりません!! 僕には必要のない物だ!!」


「あのなぁ…‥。女が男にプレゼントしてんだぞ。とりあえず受け取るのが礼儀だろうが」


「いえ、受け取れません! 僕は勇者になる男なんだ!!」


「だからぁああ! この大剣でだなぁあ!! 立派な勇者になればいいだろうがぁああ!!」


「いらないったらいらないんだよ! このゴリラ女がぁああ!!」


 そういって大剣を払いのけた。


「なんですってぇええええ!! このクソガキがぁあああ!!」


 実力差は明白であった。

 いくら鍛えられているからといっても、師匠のゲバルゴンザには手も足も出ない。

 彼は体を固定されて、尻をバシバシと叩かれることになった。


「女にゴリラなんていう男は最低なんだよぉおおおおお!! 教育的指導ぉおおおおお!!」


「あぎゃあああああああああああああ!!」


 ふふふ。

 上手くいったわ。


 この調子で、武器とアイテムは彼に渡らないようにしようっと。




〜〜ザウス視点〜〜


 セアの弱体化は順調だ。

 彼には一切の武器が渡らないようになっている。


 さて、ここで問題になってくるのが、武器屋なんだよな。

 この店で陳列された武器だけはどうしようもない。


 もしも、彼が金をためて店に買い物に行った場合は強力な武器を手にしてしまう可能性があるんだ。


 彼が勇者認定されるまで、あと3年。

 それまでに、なんとしても武器屋の売り物をなんとかしたい。


「買い占めができれば、やつが購入することもできないのだがなぁ……」


 ブレクエの武器屋って、たしか100軒以上はあるんだよなぁ。

 その武器を買い占めるとなるととても金額が追いつかないだろう。


 とそこへ、メエエルが今月分の野菜の売り上げを知らせにやってきた。


「魔公爵領で収穫できる作物の売り上げは右肩上がりですね」


 うむ。

 モンスターたちの仕事は丁寧だからな。頑張って良質で美味しい野菜を作ってくれているよ。

 そういえば、収穫が余りまくっているから貿易を始めたんだよな。


「隣接するトーナリ国に売った野菜の売り上げはどうなっている?」


「順調でございます。良質すぎてもっと欲しいという声があとを立ちません」


 黒字の金額はすさまじいものになっていた。

 ある程度の金はあるんだよな。


「さすがはザウスさまでございます。ザウスさまの魔公爵領は益々発展することでしょう!」


 勇者が攻めてくるのにあと3年。 

 それまでは限界まで強化する。


 そう考えれば、金の使い道は部下の強化だよな。良質な武具を揃えれば更なる成長が見込めるだろう。

 となれば、良質な武具を購入することになるが……。


「あ、そうか! この金で、セアが行ける範囲の武器屋の武具を買い占めればいいんだ!」


 よくよく考えればセアはまだ勇者じゃない。それどころか12歳の子供だ。そんなセアが回ることのできる武器屋は王都ロントメルダ領に存在する5軒だけになる。

 ブレクエに存在する多種多様な武器屋を回るのは、彼が15歳になって勇者の証を右手の甲に表示できるようになってからだ。勇者の証があれば国境を越えることが簡単だからな。

 でも、今は国境は越えることはできない。


 つまり、5軒の武器屋を買い占めてしまえばセアが強力な武器を買うことはできないということだ。


 ブレクエが始まって絶対に欲しくなるのが竜砂鉄の剣だ。

 これは360コズンもする。

 国王から100コズンは支度金としてもらえるんだがな。その金を使っても買えない貴重な武器なんだ。

 序盤では絶対に欲しい武器だ。


 ブレクエの世界観ではモンスターを倒すとコズンという金貨に変わる。しかし、その変化は勇者の証がそうさせているというんだ。

 つまり、勇者認定を受けていない子供のセアが金を稼ぐ手段というのは直に働いて稼ぐしか方法がない。


 100コズンは日本円でいえば10万円くらいの価値。だから、竜砂鉄の剣は36万円はすることになるんだ。

 そんな金を12歳の子供が稼ぐのは無理ゲーだよな。貯めるとなっても相当な労力と時間を要するだろう。

 

 ふふふ。

 いいぞ。

 強力な武器を買い占めてやる。




〜〜セア視点〜〜


「なに!? 修行をストップして働きたいだって?」


 と、師匠のゲバルゴンザさんは眉を上げた。


「どうしてもお金が必要なんです」


「そんなことより、体を鍛えて強くなることの方が重要だろ?」


「もう、十分に鍛えていますよ! それより武器が欲しいんだ!」


「だったらあたいが作った大剣があるじゃないか」


「も、貰い物はダメです。そこいらの雑魚い村男なら大喜びするかもしれませんがね。僕は勇者になる男なんですよ。貰い物を自分の装備にすることはできません」


「プライドが高いねぇ。まだ、12歳の子供なのにさ。まぁ、嫌いじゃないけどね」


「僕は勇者になる男なんです。この世界の中心なんです」


 そう、僕は主役なんだ。


 この世界は僕が救ってやる。

 そして、僕は世界で一番偉い存在になるんだ。


 そんな僕は格好いい装備を当然のように身につけて、王都の女の子たちにキャアキャアいわれたいんだよ。


『きゃあセアさま素敵ぃ!』

『セアさまカッコイイ!』

『私、セアさまのお嫁さんになりたい!』


 グフフフ。

 これが勇者になる男さ。

 目の前にいるゴリラ女とは早々に分かれて美少女に囲まれたいもんだよ。

 僕はハーレムを作って、毎晩とっかえひっかえ女の子を抱くんだ。


 僕には才能がある。

 最強の力と最高の頭脳。

 そして、カッコイイ見た目を持っているんだ。


 そんな僕に必要なのは装備さ!

 

 女の子がうっとりするくらいカッコイイ装備が必要なんだ。


 竜砂鉄の剣をゲットする。


 もしも、3年後の勇者認定式の日に竜砂鉄の剣を装備してみろよ。

 きっと、尊敬の眼差しで見られることだろうさ。国王だって僕に一目置くはずだ。


 ククク。

 絶対に手に入れてやるぞ。


 なんとしても360コズンを貯め込んで、竜砂鉄の剣を買ってやるからなぁああああああ!!


 こうして、僕の努力が始まった。

 朝早くに起床して、その日は暗くなるまで働く。村に存在するあらゆる仕事を熟したのだった。

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