第15話 勇者は民家の壺を調べる

〜〜セア視点〜〜


 魔公爵領の活躍が目覚ましい。


 そこでは上質な作物が穫れるらしい。

 魔公爵ゴォザックは僕がぶっ殺したんだがな。

 近年はその息子が跡目を継いだらしい。

 雑魚い魔公爵領が発展してるのはそいつのせいだ。


 魔公爵ザウス。


 最近は奴隷狩りが行われていないがな。

 どうせ、奴隷をこき使って作物を作っているのだろう。

 諸悪の権化であるのはいうまでもない。


 魔公爵なんていうのは、この世に存在してはいけないゴミなんだ。

 そのうち僕が掃除してやるさ。


 筋肉の修行は順調だった。

 しかし、装備がない。


 まったくといっていいほど、アイテムを揃えることができていないのだ。

 これでは立派な勇者になれないだろう。


 3年後には国王さまから勇者の認定式が行われる。

 それまでには、勇者に相応しい装備を揃えておきたい。


 せめて、なにかアイテムでも……。


 僕は民家に向けて目を凝らした。

 すると、民家の扉上に「!」マークが浮いているじゃないか。


 あれは、『神の導き』だ!


 僕だけが見える特別なマーク。

 あの不思議な印がある所では必ず勇者専用のイベントが控えているんだ。


 感じる。

 すごく感じるぞ。


 あの民家の壺が怪しい。

 なにかアイテムが入っているに違いない。


 僕はその民家に押し入った。


「セ、セアじゃないか。急になんだ!? ここはおまえの家じゃないぞ」


「僕は勇者になる人間だからね。神の導きを感じた時は強引にでも入っていいのさ」


「そ、そんなことが許されるのか?」


「許されるに決まっている。僕は勇者の血を引いているんだからな。それより敬語を使えよな。生意気な態度だと、悪とみなして排除するぞ」


「ひぃいいい! す、すいませんでした。セアさん」


「じゃあ、あの壺が怪しいから調べてやる」


 しかし、中は空っぽだった。


「ない! なにも入ってないぞ!?」


「ああ、そこには勇者さまに捧げる薬草が入っていたんですけどね。いつの間にか金貨に変わっていたんですよ」


「そんなバカな!? 誰が獲ったんだ!?」


「知りませんよ。セアさんじゃないんですか?」


「僕は……知らない」


 どういうことなんだ?


「薬草が欲しいなら、差し上げますよ。はい、どうぞ」


「ふざけるな!! 僕は壺に入った薬草が欲しいんだ!! 壺に入った薬草じゃないとダメなんだ!!」


「や、薬草は薬草ですよ」


 クソが! 

 このバカはなにもわかっていない。

 僕は選ばれた勇者なんだ。神の導きによって動いているんだよ。私利私欲でやっているわけじゃない。


 僕はこいつの襟首を掴み上げた。


「ひぃいいいい!! お助けぇえええ!!」


「舐めるんじゃないぞ。僕は勇者であって、盗賊じゃないんだからな! 家に入り込んで薬草を奪いに来たんじゃないんだ。あくまでも、壺の中の薬草をゲットしに来たんだよぉおお」


「で、でもぉ。薬草は薬草ですよ……」


 壺の中の薬草こそが神の導きなんだ。

 ただの薬草じゃあ意味がない。

 それならば、道具屋で買えば手に入るアイテムなんだからな。

 それになにより、住民から薬草を奪ったんじゃ勇者の名折れなんだよ。


「ち! 役立たずの雑魚がぁ!」


 そういって、住民を投げ飛ばした。


「おまえら雑魚は勇者にアイテムを与えるのが存在理由だろうが!」


「で、ですから薬草はお渡ししますって……」


「壺に入っているのが重要なんだろがぁあああ!! そんなこともわからんのかぁああああああ!!」


「ひぃいいい! まったくわかりません!!」


 クソ雑魚が! 話しにならん!


 こうなったら他の民家だ。

 ありがたいことに『神の導き』はしっかりと見えているからな。


 この家のタンスが怪しいぞ。

 胸騒ぎが止まらない。

 神がタンスを探れと訴えかけているようだ。

 きっと、なにか強力なアイテムが入っているのだろう。


「きゃああ! セアさん。急に入ってきてどうしたんですか!?」


「ここのタンスにアイテムが入っているだろう。それを取りに来たんだ」


 僕はタンスを調べた。

 しかし、


「ない! アイテムが入ってないぞ!?」


「ああ。そこには力の種が入っていましたけどね。いつの間にか金貨に変わっていたんです」


 ここもか!?


「力の種なら補充ができますよ。お渡ししましょうか?」


「舐めるんじゃない! 僕は勇者になる男なんだ! 神の導きで動いているんだぞ。アイテム欲しさに物乞いに来たんじゃないんだ!!」


「し、しかし、力の種は同じですよ? ただタンスに入ってないってだけで……」


「タンスに入っているのが重要なんだよぉおおお!! クソがぁあああ!!」


 僕は家主の女をビンタでぶっ飛ばした。


 どいつもこいつも無能がぁあああああ!!


「貴様らのセキュリティの甘さが家宅侵入を許して、こんな結果になってんだよぉおお! 全部、おまえたちの責任だぁああ!! おまえらが悪い!! この無能がぁああ!! ぶっ殺すぞクソがぁあああああ!!」


「ひぃいいいい! で、でもぉおお。金貨に変わっているので盗まれたわけじゃないですぅうう!」


 ぬぐぅううッ!


「く、く、口答えすんなクソがぁああああ!!」


「ひぃいいいい!!」


 クソクソクソがぁああああ!!

 どうしてアイテムが手に入らないんだよぉおおおお!!


 僕は勇者になる男だぞぉおおおおおおおおおおおおおおお!!



〜〜スターサ視点〜〜


「クソがぁああ!! この民家にもアイテムがなあぁあああい!! どうしてアイテムがないんだぁああああ!!」


 プフゥウウウウウウウウウ!!

 いい気味ぃいいいいいいいいいい!!


 ふふふ。あいつが探していた場所のアイテムは、全て私が金貨にすり替えておいたのよ。

 これも全てザウスさまの指示通り。でもまさか、このためだったとはね。流石はザウスさまだわ。

 

「むきぃいいい! ここの家の壺にもアイテムが入ってなぁあいっ!!」


 ふふふ。最高ね。

 あのクソ生意気なセアが困りまくってる。


「クソ。ない! ここの民家にもない!! 壺もタンスも、どこにもアイテムが入ってなああああああい!!」


 それにしても、あんなやつが勇者候補って嘘みたいね。

 周囲に迷惑しかかけてないじゃない。

 これならザウスさまの方が100万倍勇者さまだわ。


 もっともっとがんばって、セアにアイテムが渡らないようにしてやろう。

 あんな邪悪な勇者は絶対に強くしちゃダメだ。

 

 ザウスさまのためにも、全身全霊でアイテムを奪ってやるわ。

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