第13話 1年経過
前世の記憶が戻ってから1年が経った。
俺はブレイブソードクエスト、通称ブレクエの中ボス、魔公爵ザウスだ。
今は16歳。
ブレクエのシナリオでは、あと4年後に勇者が攻めてきて倒される運命である。
前世では社畜の過労死だったからな。
せっかく生まれ変わったのに中ボスとして倒される運命なんて最悪だよ。
なんとしても阻止したい。
俺は指南役として魔神狩りのアルジェナをスカウトした。
彼女の活躍は目覚ましい。戦闘訓練を受けた部下モンスターたちは随分と強くなった。
俺も同様にかなりレベルアップしている。
部下たちはレベル100に到達。
俺はレベル150を超えた所だ。
通常のシナリオならば、レベル66で倒されることになっているからな。
そう考えたらかなり余裕が出てきているだろう。
なんなら、今のうちに主人公を倒してもいいかもしれない。
主人公が勇者認定を受けるのは今から4年後だ。
今はまだ11歳の子供。
弱いうちに闇討ちしてしまうというのも得策か。
まぁ、殺してしまうまでもなく誘拐して監禁するのも手だろう。
しかし、主人公がいるハジメ村にはモンスターが入れないように結界があるんだよな。
それを破ることはできるが、そんなことをすれば相手に俺の存在がバレてしまう。そうなれば大きな戦いになるのはやむを得ない。
それにもしも、主人公が俺より強かったら俺の命はおしまいだ。
慎重にことを進める必要がある。
ブレクエには主人公補正があるからな。
普段は子供の力でも、ピンチになったら覚醒して凄まじい力を発揮する恐れがあるんだ。
俺の父親、魔公爵ゴォザックはこの覚醒した力によって倒されてしまったからな。
中ボスとして、もっとも警戒しなければならないのは、この主人公補正なんだ。
今の主人公はどれくらいの強さなのだろうか?
本来なら、主人公は魔神狩りのアルジェナの弟子になって5年間の修行をする。
しっかりと剣技を身につけて国王から勇者認定を受けるんだ。
しかし、そのアルジェナは俺がスカウトしているからな。
主人公とは出会っていない。
つまり、通常のシナリオとは違う方向に変わってきているんだ。
主人公がどのくらいの強さなのか、知る必要があるな。
弱い子供のままならば、誘拐して監禁してやってもいい。そのまま時間が過ぎれば勇者認定を受けることもなく運命は変わるのだからな。
まずはスパイが必要だ。
人間が張ったモンスター専用の封印をすり抜けて主人公の状況を調べられる存在が。
「スパイでございますか?」
と、世話係のメエエルが小首を傾げる。
「そうだ。誰が適任だと思う?」
部下モンスターは誰もが従順だ。
ゴブリンのゴブ太郎。オークのブー助。ハーピーのハピ子。
他にの優秀なモンスターは大勢いる。
「とっておきの人材がございます」
と、彼女が連れてきたのは人間の少女だった。
「誰だ?」
気の強そうな顔だが、中々の美少女だ。
年は12、3歳といったところか。
彼女は頬をピンクに染めながら、俺のことを見つめていた。
「スターサといいます。ザウスタウン孤児院からやってきました。ザウスさまの元で働きたかったんです!」
まさか、孤児が働きたいとは驚いたな。
「彼女は就職願望が強いのです。以前から希望は受けていたのですが、まだ12歳ということで断っていました。しかし、今回の内容ならば彼女は適任かと」
なるほど、人間の子ならばスパイにちょうどいい。
でもな。
「魔公爵のスパイだと発覚すればどんな目に遭うかわからない。危険な仕事だぞ?」
スターサはニヤリと笑った。
「90 55 82」
「なんの数字だ?」
と、思うないなや、メエエルは胸を隠した
「い、いつの間に……」
「なんのことだよ?」
「わ、私のスリーサイズでございます」
ああ……。
「フフフ。私なら上手くやれます。どうか使ってください」
なるほど、スパイとしての実力は十分ということか。
「報酬はなにが欲しいんだ?」
「このまま、この城で雇っていただければ十分です」
「なぜだ?」
「私はザウスタウン孤児院に救われました。あそこがなければ今頃は病気で死んでいたでしょう。孤児院のおかげで私は生きていられるのです。だから、ザウスさまに仕えて恩返しがしたいのです」
どこまで信用していいかはわからない。
でも、人間を使うのは面白いな。
面白いは正義。やってみるのも一興か。
そんなわけで、俺は彼女をスパイとして使うことにした。
まだ子供ということもあり、彼女は簡単にハジメ村に潜入することができた。
☆
〜〜スターサ視点〜〜
私は孤児だった。
国界に存在する小さな村の出身。
そこは国同士の戦禍に巻き込まれ滅んだ。
村人は子供だけを逃がしてくれたが、子供だけで生きられるわけもなく。
飢えと病気に苦しむ毎日だった。
私の目は病いに侵され、腫れぼったい瞼は上がることがなかった。
このまま失明してしまうかもしれない。
そんな時、モンスターの群れに捕まった。
そいつらは魔公爵領の奴隷を集めていたのだ。
どんなに辛い境遇になるのだろうか?
と、私たち孤児は体をブルブルと震わせる。
ところが、連れてこられたのは綺麗な建物だった。
「おまえたちはここで町人として暮らすんだゴブ」
ゴブリンの言葉に面食らったのは今でも覚えている。
そこはザウスさまが作った孤児院だった。
ザウスタウン孤児院。美味しい食事と衛生的な生活空間。そして、完璧な教育。しかも、遊ぶ時間まで与えれて……。
ここは天国なの?
私の目の病気はすぐに完治した。
腫れぼったい瞼はたちまち軽くなる。
孤児院の環境が良すぎるのだ。
明るい。
こんなにも世界は眩しいのか。
この素晴らしい未来をくれたのは孤児院の創設者。
私はザウスさまに恩返しがしたかった。
命をかけて。私の生涯をかけて恩返しをしたい。
だから、スパイになった。
ザウスさまを困らせる存在は絶対に許さない。
あの方は正義。
ザウスさまの敵は悪だ!
たとえ人間だろうとなんだろうと。
そして、私は役に立つ。
戦禍の中で生き残った能力は伊達じゃない。
ザウスさまのために必ず役に立ってみせる。
ハジメ村は人口300人の小さな村だった。
その中に彼がいた。
ザウスさまの父親を殺した存在。
11歳の少年セア。
彼こそが、4年後に勇者に認定される存在。
ザウスさまの敵だ。
セアは11歳とは思えないほど、鍛えられていた。
筋肉隆々ね。
彼の師匠もすさまじい筋肉。
女だけど、大きいわ。
セアは彼女の指示通りの修行を熟していた。
「師匠。今日はこの岩を破壊するんですね」
彼は自分の背丈と同じくらいの岩に拳をぶつけた。
バゴォオオオオオン!
たった一撃で真っ二つ。
すさまじいパワーだわ。
「僕にかかればこんなもんです。もう最強かもしれませんよ。人間を脅かす魔公爵を早くぶっ倒したいですね。どうせ雑魚だろうし」
ザウスさまを雑魚ですって!?
許せないわ。
私はこのことをザウスさまに伝えた。
☆
〜〜ザウス視点〜〜
「なに!? 筋肉モリモリだと!?」
「はい。すさまじい上腕二頭筋でございます」
やれやれ。
やはり未来は変わっているようだな。
主人公セアに聞いたこともない師匠がついている。
これは手を出さないのが無難だな。
セアが独自の成長をするなら、俺も自軍を鍛えるまでだ。
セアより強くなれば問題はないだろう。
それに、ゲームのシナリオに変更はないからな。
彼は、今から4年後の15歳の勇者認定をきっかけに魔公爵ザウスに戦いを挑むんだ。
そのことに変わりはない。
アイテムや武器の配置は覚えているからな。
4年後までには全て奪う。
やつに強い武器を与えなければ十分に優位に立てるはずだ。加えて自軍の強化を徹底させる。
「私はセアを許せません! ザウスさまを冒涜する発言をしているのです! 奴のレベルは30程度です。明らかにザウスさまの方が上! 今なら余裕で勝てる力量ですよ!」
「気持ちはわかるが、落ち着けスターサ。勇者を侮ってはいけない。俺の父は、もっとレベルの低い時のセアに倒されたんだからな。覚醒した勇者の力は強大なんだ」
敵の力量を甘く見積もって、こちらが倒されたのでは無意味だ。
慎重にいこう。
石橋を叩くように慎重に。
自軍を鍛えて、敵は弱体化させる。
この作戦を徹底しよう。
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