第12話 最強の武器をゲット

〜〜ザウス視点〜〜


 部下が驚くのも無理はない。


 なにせ、目の前の剣は、装備したら呪われる武器だからだ。


 『レベル2倍の攻撃力』と『装備するとHPが必ず1になる』


 これはこのデーモンソードの象徴的な特徴だ。

 ネットでも大人気だったっけ。

 ふふふ。


 この武器はブレクエの序盤で呪い武器として登場するんだ。

 そのイベントは『呪い』という効果があることをプレイヤーに知らしめるチュートリアル。

 装備したらHPが1になって、しかも外すことができないんだ。

 呪われたら街の教会に行って解呪の魔法で外してもらわなければならない。しかも、その魔法付与には100コズンの金額がかかる。

 序盤で100コズンは大金だからな。

 

 まぁ、一応、救済処置として祠にいるじいさんに呪われたことを伝えると100コズンのお金がもらえるんだ。

 呪われたら100コズンで外す。これがこのゲーム、ブレイブソードクエストの基本ルールなんだ。

 

 面白いのは、この剣は武器屋で売っても1コズンにしかならないことだ。

 だから、捨てるプレイヤーが続出したんだよな。

 ところが、この剣は魔王を倒してから最強武器に格付けされる。

 なんと、主人公が魔王が所持しているスキル『呪い効果無効』を所持できるようになるんだ。


 呪いの効果を無効化できれば、デーモンソードの『レベル2倍の攻撃力』の恩恵だけを受けることができる。

 そうすることで終盤からのエンドコンテンツはデーモンソードが最強の武器になるんだよな。


 アルジェナはデーモンソードに目が釘付けだった。


「なんて禍々しいオーラを放つ剣なの……。あたしが装備したら呪われてしまいそうね」


「触らない方がいい。普通の人間が触ると呪われてしまう。持てるのは選ばれた魔族だけさ」


「え?」


 俺はデーモンソードを装備した。


「の、呪いが怖くないの?」


「呪われないさ。俺は『呪い効果無効』のスキルを持っているからな」


「そうか! だったら『レベル2倍の攻撃力』の恩恵だけを受けれるってわけね」


「ああ。装備するだけで実質2倍のレベルにしてくれるのがこの武器なんだ」


 特徴的なのは、他の武器の恩恵も2倍にしてくれるというもの。

 つまり、剣をもう1本持てば、その剣の攻撃力分も2倍にしてくれる。

 ゆえに、エンドコンテンツ最強の武器になる存在なんだよ。


 まさか、そんな最強武器が序盤のチュートリアルで手に入るとはにくい演出だよな。


 売ったやつ、捨てたプレイヤーは涙目。

 この武器はコレクション用に預かり所に預けておくのが正解だったのさ。


 俺がプレイしていた頃は、もちろん保管していたからな。

 魔王を倒して以降のエンドコンテンツでは大活躍だった。

 この禍々しいオーラ。めちゃくちゃグッと来るんだ。

 ちょっと闇落ちした感じの主人公ってのが、また格好良かったんだよな。


 それにしても、おかしいな?

 デーモンソードを保管している祠は強力な結界があってモンスターは入れないはずなんだが……。


「なぁゴブ太郎。本当にこの剣を拾ってきたのか?」


「落ちていたゴブよ」


 うーーん。

 あの祠は勇者にしか入れない場所だからな。

 そうなると、勇者が剣をゲットして捨てたことになる。


 今、主人公は10歳だ。

 この剣を手にいれるのは15歳の勇者認定式の後になるはずなんだがな。

 つまり、もう活動しているということか?


 10歳の少年が?

 うーーん。それは考え辛いか。

 勇者の証がない状態だと入れる場所が限られてくるからな。

 それならどうして祠に行ったんだ?

 

「ザウスだけ、こんなカッコイイ剣を装備できるなんて羨ましいわね。あたしも魔族になろうかしら。……ふふふ、なんてね」


 アルジェナが原因かもしれないな……。

 本来、彼女は勇者の師匠になっていた。

 つまり、俺が彼女をスカウトしたらから運命が変わったんだ。

 それにレベル1の無限ダンジョンのアイテムも全てこちらが没収したからな。

 勇者が強化できる選択肢を俺が奪ったことになる。

 だから、勇者の行動が変わった。

 そう考えるのが自然だろう。


 これは、勇者が強くなる工夫をしている証拠だ。

 うかうかしていられないな。


「みんな! 気を引き締めて訓練してくれ! 今よりもっと強くなるんだ!」


 もっと、みんなを強くさせたい。

 勇者と戦う時は圧勝するのが理想なんだ。


 ならば、報酬は豪華にしなくちゃな。


「今月はレベルアップが一番高かった者に、特別招待券をつけるぞ!」


 モンスターたちは興味津々だった。


「この券をゲットした者は俺と一緒に夕食を食べれるのだ! いわばディナー招待券!」


「えええええええ! それは絶対に欲しいゴブゥウウ!!」

「オラ、ザウスさまと夕食を一緒したいブゥ!」

「ザウスさまと夕食が食べれるなんて夢みたいハピィイ!」

「絶対にゲットするリザァアアア!」


 もっと、もっと、強くなるんだ。

 絶対に勇者には負けないからな。




〜〜セア視点〜〜


 強くなりたい……。


 それなのに、師匠は見つからない。

 武器やアイテムすらないなんて……。


「元気出してよセア」


 そういって、僕の背中を摩ってくれるのは幼馴染のミシリィだ。

 彼女は村1番の優しい性格の持ち主。それでいてとびきり可愛い。

 雪のように真っ白い肌。大きな瞳、輝く金髪。

 どれをとっても美少女というのに相応しい要素だ。

 しかも、10歳だというのに妙な色気がある。

 最近は少しだけ胸が出てきたのかもしれない。


 こ、この湧き上がる衝動はなんだ?


 彼女を見つめると胸の鼓動が止まらない。


 将来は絶対に僕のお嫁さんにするんだ。

 絶対に僕の物にしてやるからな。その可愛い唇も愛らしい瞳も、小さく膨らんだ胸も……。ククク。絶対に僕の物にしてやる。


 しかし……。

 こう、強くなれないんじゃ、ミシリィにもそっぽを向かれそうだよな。

 なんとか強くなれる方法を考えないと……。


「魔神狩りのアルジェナは見つからなかったの?」


「ああ。色々と探したんだけどね。一体、どこで働いているのやら。もう一度ツルギ村に行って村人を締め上げてやろうかな。拷問すれば自白するかもしれない」


「や、やめてよ。そんなこと可哀想だわ」


「はぁ? 僕は勇者になる男だぞ! 僕に隠し事なんかするから拷問を受けるんだよ!」


「本当に知らないかもしれないわよ。それに、隠しているならわけがあるんだろうし。他人がとやかく詮索することじゃないわ」


「でも、強くなるには効率的な特訓が必要なんだ。そのためには達人に教えてもらう必要があるんだよ」


「わかったわ。私の親戚に剣の達人がいるから、その人にお願いしてみるわね」


「その人は強いの?」


「うん。山を3つ超えた所にマスル村という山村があってね。そこでは最強を誇っているらしいわ。デコピンで熊を倒しちゃうんだって」


「へぇ……」


「熊殺しのゲバルゴンザ。それがその人の異名みたいよ」


 なんか、すごい筋肉質な感じだな。

 デコピンってのもなぁ……。


「つ、強そうだね。でも、僕は筋肉をつけたいわけじゃないんだ。剣技を教えてもらいたいんだよ」


「彼女は剣の達人よ」


「彼女? お、女なの?」


「ええ。正真正銘、女性よ」


 お、女か……。

 ならいいかもしれない。


「かなり、胸が大きくてね。その界隈じゃあ男の人にモテモテなの」


「へ、へぇ……」


 やった!

 美人の巨乳剣士!!


 こういう展開を待っていたんだ。

 僕がアルジェナにこだわっていたのも、実はここなんだよな。

 彼女は相当な美少女だと聞いていたからね。

 僕はそんな可愛い女の子に剣技を教えてもらいたかったんだ。


 ゲバルゴンザさんは長い黒髪の美人だという。

 年齢は20歳。

 お姉さんタイプか。

 グフフ。これは甘えられるかもしれないぞ。


 1週間後。

 ミシリィは彼女を連れてきた。


「セア。この人が剣の達人、ゲバルゴンザさんよ」


 それは身の丈2メートルを超える大女。

 全身筋肉質で、それはもう女か男かわからないような顔をしていた。


「へぇ。可愛い坊やだね。あたいはゲバルゴンザ・ウォッホ。大剣使いさ」


 自分のことをあたいっていうのか……。


あたいは気に入った人間しか弟子にしないんだけどね。ミシリィの連れってんでやってきたのさ」


 た、確かに胸はデカい。

 というか、全部胸筋じゃないか。

 すさまじい胸板。

 これじゃあ女というか……。


「ゴリラだ」


「なんですってぇええ!」


 ゲバルゴンザは僕を掴んで尻を叩き始めた。


「このガキ、社会常識を知らないのか!! 女にゴリラは禁句なのよ!!」


ペシィイイイッ!! ペシィイイイイッ!!


「ぎゃあああああああ!!」


 い、痛い!

 どうして僕がこんな目に遭わなくちゃならないんだぁ!


「でも、気に入ったよ。生意気なガキを教育するのはあたいの趣味なのさ。あんたを弟子にしてやるよ」


「お、お断りだ! 誰がゴリラの弟子になるか!! 僕は勇者になる男なんだぁあ!!」


「まだいうか! 本当に生意気なガキだね! 教育的指導!」


パシィイイイイイイイイイイッ!!


「あぎゃぁああああああああああああああ!!」


 こうして、僕は半分、無理やりに彼女の弟子になった。


 ゲバルゴンザさんは食事さえも修行の一環として用意した。


「え? また赤身肉ですか? 昨日もでしたよ?」


「良質な蛋白質はいい筋肉を作るのさ。きちんと食べなきゃ、あたいみたいなマッチョになれないよ」


「いや。別にマッチョになりたいわけではありません。僕は剣技を教えて欲しいのです」


「生言ってんじゃないわよ! これは命令だよ! いうこときかないとお尻ペンペンだからね!」


「ひぃいいいいいいいい!!」


 クソクソォオオオ!!

 絶対に強くなってやるぅうううう!!

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