第11話 最強の剣
セアが祠の中に入ると、祭壇の前に老人がいた。
ローブを被ったその姿はどうみても怪しい。
なにかの宗教なのだろうか。その空気感は厳かで、明らかに、なにかを祭り上げていた。
「ほお……。ここに来られるとは勇者の子孫かな?」
「そうだよ。僕は勇者になる男さ」
「この祠には結界が施してある。普通の人間は当然のこと、魔族やモンスターは絶対に入れないのじゃ。選ばれた勇者の血を受け継いだ者だけが入室できる場所なのじゃよ」
「ふふふ。当然だろ。僕は勇者の子供なんだからさ」
セアは10歳の子供である。
老人はそんな彼を見て目を細めた。
「ふぅむ。しかし、そなたはまだ若い。運命は5年後にはっきりするであろう。勇者の証を持ってくるのだ。立ち去るがよい」
勇者の証、とは王城の祭壇で神官から授かるマークのことである。
それ自体に大きな力はないが、その表示が各イベントのキーになるのだ。
主に入場許可証の役割が大きい。
ブレイブクエスト、通称ブレクエの物語はこの勇者の証によって進むのである。
「じいさん。僕は強くなりたいんです。そのためには強い武器がいる。ここには特別な武器があると聞いてきました」
「うむ。強者にしか使えぬ、強力な武器が存在するぞい。しかし、今はその時ではない。立ち去るがよい」
「帰れません。僕には武器が必要なんです」
「立ち去るがよい」
「お願いします。武器をください」
「運命が動き出すのは5年後なのじゃ。立ち去るがよい」
「どうしてもいただけないのでしょうか?」
「それが運命。5年後に来るのじゃ」
「5年後も今も同じじゃないですか」
「それが運命なのじゃ。立ち去るがよい」
「どうしても?」
「うむ。運命は変えられぬよ」
セアは入念に周囲を見渡した。
室内には老人と自分しかいないことを確認すると、その表情は豹変した。
「おい、じじい。いい加減にしろよ」
「え?」
セアは老人の首を絞めた。
「ひぃいい!!」
「子供だからってバカにするんじゃないぞ。くそじじい。僕は勇者なんだよ」
「うぐぐぐぐ……。そ、それはわかる。……し、しかし、運命は……」
「ごちゃごちゃとうっせぇえんだよぉお! このまま首の骨を折ってやろうかぁああ? んんんん?」
「ひぃいいいいいいい!!」
「いいか、じじい。僕は勇者なんだ! この世界を救う正義の味方なんだよぉおお! 魔王を倒す救世主。それが僕だぁああああ!!」
「うぐぐぐぐ……し、し、しかし……」
「この祠の中に入れるのがその証拠なんだよ! ごちゃごちゃ言ってないで、隠してる武器を渡せぇえええ!」
「し、しかし、物語が…‥」
「うるさい!! ぶっ殺されたいのかぁあああ!!」
「ひぃいいいいいい!!」
老人は渋々、木箱を持ってくるのだった。
それは細長い木箱で、明らかに剣を収納している物だった。
木箱を開けると、ムアァアっと黒い煙りが発生する。
「こ、この剣は?」
「デーモンソード。いにしえより伝わる最強の剣ですじゃ」
セアは目を凝らした。
すると、剣の表面にステータス表記が現れる。
「武器のステータスはまぁまぁ高いな。でも、この2つの特殊能力が気になるよ」
それは、『レベル2倍の攻撃力』と『装備するとHPが必ず1になる』だった。
しかも、後者の表示は赤文字で点滅している。
「なんだ、この特殊能力は? 赤い点滅も気になるぞ」
「これは魔族の武器。装備すればわかりますですじゃ」
「装備するまでもない!! これは高い恩恵と同時にデメリットの大きい、呪われた武器だろうが!!」
「そ、それは……」
「装備したが最期。街の教会で呪いを解いてもらわなければならない。解呪の作業にはバカ高い費用がいると聞いているぞ!! 赤い点滅がその証拠だ!!」
「え、えーーと……。わ、わしの仕事はこの武器を勇者に渡すのが使命なのじゃ。それ以上のことはわからぬ」
「ふざけるな! 本当にぶっ殺すぞ!!」
「ひぃいいい!!」
これはチュートリアルだった。
この世界に呪いの装備品があるというイベントだったのだ。
「こんな剣いるかぁああ!!」
そういって、剣の入った木箱をそのまま窓の外にぶん投げてしまう。
その木箱は遥か遠くまで飛んでいった。
「ああ! 最強の武器がぁああああ!!」
「ははは! いい気味だ! くだらない武器を守っているからこんなことになるんだよ。くそがぁあ!」
老人はがっくりと項垂れて涙を流す。
「あああ……。わしが守ってきた武器が……」
「ちっ! とんだ無駄足だったよ。こんなところ二度と来るもんか」
「ああああ……」
「ぶっ殺されなかっただけ感謝するんだな」
セアは悪態をつきながらも村へ帰って行った。
一方、飛ばされた木箱だが、それは無限ダンジョンの近くに着地していた。
「あれ? なんだこれゴブ? あ、中に剣が入ってるゴブ! もしかしたらザウスさまが喜んでくれるかもしれないゴブ! 持って帰るゴブ!」
ゴブリンは木箱を抱えたまま魔公爵城へと帰った。
もしかしたら、ザウスさまに褒めてもらえるかもしれない。そんな期待を胸に込めて……。
「ザウスさま、これ……。無限ダンジョンにレベル上げに行ったら拾ったんゴブ。ダンジョンのアイテムじゃないからポイントはもらえないゴブよね?」
「いや……。ポイントどころか……。これ……。デ、デーモンソードじゃないか! 神聖な祠に祀られていてモンスターは入れないはずだが?」
「えーーと。ダンジョンの外で拾ったゴブ。オイラは祠には入ってないゴブよ」
「間違いない……。これはデーモンソード。ステータスにある『レベル2倍の攻撃力』と『装備するとHPが必ず1になる』がその証拠だ」
「あちゃぁ。『装備するとHPが必ず1になる』では使いもんにならないゴブね。ゴミだったゴブか。お手間を取らせて申し訳ないゴブ」
「いや、違うぞ。ゴブ太郎」
「ゴブ?」
「でかした!」
「ほえ? どうしましたゴブ?」
ザウスはそのゴブリンを抱きしめた。
「でかしたゴブ太郎! おまえは偉い!!」
「えええええええええゴブゥウウウ!!」
「よしよしよしよしぃいいいいいい!!」
「ほぁああああああああ!! オイラ、撫でられてるぅううう! ザウスさまに頭を撫でられてるゴブぅううううううう!!」
周囲のモンスターは羨望の眼差しでそれを見つめる。
「いいなぁスラ」
「ゴブ太郎、ハグまでされて羨ましいゴブ」
「ええええ……。マジかよぉブゥ」
「拾ったアイテムで……。し、信じられんリザ」
「えええええ。めっちゃついてるハピィ」
「しかし、わからないゴブね。なんで呪われている武器がいいんだゴブ?」
みんなはその剣でザウスが喜ぶ理由がわからなかった。
世話係のメエエルは眉を上げる。
「ザウスさま。こんな剣がよいのですか?」
「ふふふ。これは最強の剣なんだ」
「「「 ええ!? 」」」
魔公爵城にみんなの声が響く。
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面白いと思った方だけで結構ですので、↓にある☆の評価をいれていただけると幸いです。作者の執筆意欲につながって、大変に助かります。どうぞ、よろしくお願いします。
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