第10話 ザウスのスキル


〜〜ザウス視点〜〜


「スラッシュッ!」


 俺は象よりも大きな巨岩を真っ二つにした。


 木刀でこの威力だからな。

 なかなかのものだろう。


「すごい! もうあたしのブレイブスラッシュをマスターしたわね」


 まぁ、俺がプレイヤーとして勇者を操作している時にコツは掴んでいたからな。

 それに中ボスのユニークスキル『ステータス2倍強化』が強く作用しているように思う。

 このスキルは中ボスだけに与えられた特殊スキルで、その名前のごとく中ボスのステータスを2倍に底上げする能力なんだよな。

 ブレクエのチュートリアルでは『スキル無効』の魔法が存在するので、その魔法を使ってスキルの効果を無効化して、主人公が中ボスを倒すんだ。


 中ボスに転生してわかったことだが、このステータス2倍強化は経験値の取得も2倍にしているようだ。

 おそらく、このスキルの詳細は『なんでも2倍にする』ということ。つまり、技能の習得しやすさも倍にするんだ。

 だから、俺は驚異的な速さでブレイブスラッシュを習得できた……。


 しかし、このスキル。

 その恩恵は良いことばかりではない。

 これは、俺が前世でネットの攻略情報で知ったことだったんだが、初めて知った時は納得したもんだ。

 実は、状態異常にかかりやすいのも2倍になっているんだよな。

 

 中ボスをスキル無効の状態異常にして倒す。

 これがこのゲームのチュートリアルなんだ。


 長所が弱点になる。

 ゲームのチュートリアルらしい設定だよ。


 まぁ、なんにせよ。

 このスキルは使える。

 俺はこのスキルの恩恵を受けながら5年間で圧倒的な力をつけてやるんだ。


 そうそう。この際だからいっておこう。

 俺が持っているスキルは2つだけだ。


 『ステータス2倍強化』と『呪い効果無効』


 これは呪いの武器を装備しても呪われないということ。

 魔公爵らしいスキルだよな。

 ブレクエをプレイしている時は特に意識していなかったけどな。呪われた武具をノーリスクで装備できるのは大きな恩恵だろう。


「ブレイブスラッシュ」


「もう完全に自分のものにしているわね。なんならあたしの斬撃より威力が高そうよ」


「しかし不思議だな。アルジェナのスラッシュは光り輝いているのにさ。俺のは真っ黒のオーラが出ている」


「そうね。禍々しい感じよね」


 魔族の力が作用しているのかもな。

 これなら自分の技として改名してもいい。

 名前はそうだな……。


「シンプルにダークスラッシュにしようか」


「いい名前ね。魔公爵らしいわ」


 ゲームの中ボスには必殺技はなかったからな。

 これはありがたい取得だよ。


「すごく助かった。これはお礼をしないとだな」


「べ、別にいいわよ。給金はもらっているしさ。寝泊まりは最高の部屋だしね」


「いや、貴重な秘技を教えてもらったからな。それなりに礼はするよ。なにか欲しいものはないか?」


「欲しいもの……。うーーん」


「ザウスタウンに市場があってな。あそこの品揃えはすごいんだ。もしかしたらアルジェナが気に入るものがあるかもしれないぞ」


「か、買い物に行くの?」


「ああ、嫌か?」


「……い、嫌じゃないけど」


「あれ? 熱っぽい? 顔が赤いが?」


「こ、これはそういうんじゃないっての! い、行くわよ。買い物くらい!」


 こうして、俺とアルジェナはザウスタウンに行くことになった。



「……メエエルも一緒なのね」


「当然です。私はザウスさまのお世話係ですからね。おや? なんだか残念そうな顔に見えますが?」


「は? べ、別に! そ、そんなんじゃないわ!!」


 2人はいつも楽しそうだな。

 女同士、気が合うんだろ。


「まずは飯にするか」


 ザウスタウンは飲食店の出店が目まぐるしい。

 年貢量の軽減が食糧難を回避して、町人たちに余裕ができている証拠だな。


 俺たちはお洒落な飯屋に入って昼食を楽しんだ。


 それから3人で服屋に行ったり宝石商を訪ねたりした。

 丁度、彼女に似合いそうな素敵なネックレスが見つかる。

 それは小さくて主張しすぎない宝石のついたネックレス。


「あ、あたしなんか似合わないってば」


「いや。付けてみればいいじゃないか。試着して気に入らなければ別のにすればいい」


「う、うん……」


 彼女は顔を真っ赤にさせながらもネックレスをつけた。

 鏡に映る彼女は中々である。

 

 うん。


「似合ってるよな?」

「はい。アルジェナさん。とてもいいと思いますよ」


「そ、そうかな……。えへへ」


 俺はそのネックレスを買うことにした。


「え、でもこれ高いよ?」


「いや。普段のお礼もあるからな。部下モンスターはおまえのおかげで随分と強くなった」


「あ、あたし……。男の人にプレゼントもらったの初めてだ」


 そういえば、彼女と恋愛モードになるのは勇者なんだよな。

 敵役の俺が彼女と買い物をしているなんてちょっと複雑だ。


「初めてが俺で悪いな」


「そんなことないけど……」


「これからも魔公爵の剣技指南役でがんばって欲しい」


「う、うん……」


 それから、俺たちは孤児院にも寄った。


 孤児院には大きく『ザウスタウン孤児院』と立派な看板が掲げられている。

 

 建物は町長が中心に作ったけど、立派で綺麗だよな。


 孤児たちはアルジェナに大興奮。

 そして、なぜか俺の元へも集まった。


「ザウスさまだーー!」

「わぁああああああい!」

「私、将来はザウスさまのお嫁さんになりたい」

「お、俺はザウスさまのもとで働きたい!」


 なんか人気あるな……。

 俺は人間の敵の魔公爵なんだがな。


 孤児院の院長は困った顔をした。


「ザウスさま、申し訳ありません。失礼な言動をお許しください」


「まぁ、元気でなによりだ」


 せっかく来たからな。

 孤児院の現状を聞いておかなければ。


「なにか不自由はしていないか?」


「不自由なんてとんでもございません。健康な食事、衛生的な寝床、適度な教育。ここは孤児院とは思えないほど設備が整っております。それもすべてザウスさまのおかげでございます」


 ふふふ。

 無駄を廃止し、徹底的に発展させるアイデアを盛り込んだからな。

 この子らが大きくなって魔公爵城で働くとなったらいい人材になるだろう。

 なにごとも効率だな。


 アルジェナは目を見開く。


「信じられないくらいに充実した孤児院よ。今や、周辺の孤児たちがこの場所に集まってきているらしいわ。ザウスは神さまみたいに崇められているって」


 ふっ。俺は別に救済しているわけじゃないさ。

 なにごとも効率だ。

 孤児院が大きくなれば町の発展にも繋がるだろうしな。


 孤児が飢えで命を落とすのは貴重な労働力の消失だよ。

 孤児が育てば働いて税金を落とすんだ。税収は領主である俺の元に入ってくるからな。

 全て、俺のためになっている。


 やっぱり、俺って悪いやつだよな。

 まぁ、魔公爵だし、そもそもここはゲームの世界だしな。

 俺の好き勝手にやらせてもらうさ。

 

 そういえば、


「院長。教育や躾はいいが、きちんと遊びの時間は与えているか?」


「は? あ、遊びの時間でございますか? 特に自由にさせていますが?」


「定期的に遊びの時間は作ってやってくれ。楽しいは正義だからな」


「た、楽しいは正義ですか……」


 そうだ。

 やっぱり、みんなで遊ばなくちゃな。

 それこそが最高の教育だよ。


 すると、1人の女の子が俺の手を引っ張った。


「ザウスさま、かくれんぼやろう」


「え? 俺と?」


 そういえば、そんな遊びは懐かしいな。

 よし。


「アルジェナ。メエエル。おまえたちも参加だ」


「承知しました」

「あ、あたしもぉ?」


 俺たちは子供たちと遊んだ。


 なんだかんだでアルジェナが一番楽しんでいたかもしれない。


 やっぱり楽しいは正義だよな。



〜〜セア視点〜〜


 クソ!

 無限ダンジョンにアイテムがない。

 これじゃあ、強化できないよ。


 僕は村の男を締め上げた。


「なぜだ!? 無限ダンジョンのアイテムがないのはなぜなんだ!?」


「し、知らねぇよ! あんなモンスターが沸いてくるダンジョンに近づくわけがないだろ!」


 たしかに。

 こんなカスみたいな戦闘力の村人があんな危険な場所に行くわけがないよな。


「クソ! アイテムが欲しいのに!!」


「だ、だったら北の祠はどうだ? なんでも貴重なアイテムがあるらしいぞ」


「ほぉ」


 僕は北の祠に行ってみた。


 そこは石でできた神を祀る場所だった。

 扉があって、中に人が入れるらしい。

 その入り口の上部には大きな矢印がプカプカと浮いていた。


「やった! 神の導きだ!」


 『神の導き』とは、選ばれた者だけにしか見えない未知の表示のこと。

 そこには必ず、特別な何かがある。貴重なアイテム、イベント。

 理由はよくわからないが、あの矢印の浮いている場所ではそういった神のイベントが控えているのだ。そして、その表示は、村の中でも僕だけにしか見えない。


 神の導きがあるなら、ここは特別な場所だ。

 強い武器があれば最高だよ。


 さぁ、中に入ろうか。

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