第8話 モンスターギルドの誕生
部下たちの成長は目まぐるしい。
教師であるアルジェナの影響が大きいのはいうまでもない。
個人差はあるが、みんなの平均レベルは格段に上昇していた。
彼女は部下の成長に満足げだった。
「この調子なら、あんたのいう5年後に来る強敵には勝てるんじゃないかしら」
彼女には、俺が勇者と戦うことは伝えていない。
まぁ、魔公爵の戦う相手だからな。その辺は想像して欲しいところだ。
俺はすでにゲーム内シナリオとは違う行動を起こしている。
5年後の結果がどうなるのか、まだまだ不安だ。
念には念を入れて……。
「限界まで強くなるにはどうしたらいいんだ?」
「そうね……。やっぱり実践かしら。普通の冒険者ならモンスターと戦ってレベルを上げるわね」
たしかにな……。
「でも、モンスターがモンスターと戦うってのは変よね。仲間割れみたいだわ」
ふーーむ。
俺の部下が戦うとなると魔王配下のモンスターになるよな。
魔公爵の領土外に存在するモンスターたちだ。
しかし、そんなモンスターと戦わせればレベルが上がりやすくなるのか。
そういえば、モンスターが無限に湧いてくる育成ダンジョンがあったな。
名前はシンプルに『無限ダンジョン』。
そこはレベルが設定されていて、そのレベルに応じてモンスターが無限に出現するんだ。
ダンジョンの中には108個のアイテムがあるんだったよな。攻略情報を元にして、全部コンプリートしたっけ。
中には強い武器もあったよな。懐かしいや。
待てよ。
そのダンジョンに部下を潜らせるのはどうだろうか?
アイテムの回収とレベルアップを兼ねれば更なる成長が見込めるぞ。
それに、アイテムの回収をすることで主人公がゲットできなくなる。
つまり、弱体化だ。
部下を強化して、主人公を弱体化させる。
ふふふ。こういうのを一石二鳥っていうんだろうな。俺が大好きなことわざだよ。
俺は部下の前で地図を広げた。
「ここだ。ここにレベル1の無限ダンジョンがある!」
序盤は相当にお世話になった場所だからな。
めちゃくちゃ覚えているんだよな。
部下モンスターにこのダンジョンを探索させて育成を計る。
「みんなにはこのダンジョンの中にある108個のアイテムをゲットしてもらいたい」
メエエルは眉を上げる。
「では、そのアイテムを誰が取得したのかは管理が必要ですね。それに、どのモンスターは何体で、いつ探索に入ったかも把握する必要はありそうです」
たしかに。
冒険者ギルドのような場所があった方がいいのか。
「私どもはザウスタウンの住民の管理もしております。同じようにモンスターを管理すれば問題はないかと」
「いや。思い切って新しい部署を城内に作ろう。モンスターの数は多いんだ。管理はかなり大変になると思う」
「承知しました。では、その部署の詳細はどんな感じでしょうか?」
「魔公爵ギルドだ」
みんなは目を見開く。
アルジェナは眉を上げた。
「城内にギルドを作るのか。前代未聞ね」
「登録制にして各自で自主的に探索してもらうんだ。アイテムの取得やレベルアップに報酬を設けてもいいな」
「め、命令で動かさないの?」
「それだと面白味にかける。自分が強くなることにやり甲斐があった方が楽しいよ」
「す、すごいアイデアね」
ギルドを作るなら受付嬢は必須だよな。
「ザウスタウンから希望者を募ろうか」
こうして、魔公爵城の中に冒険者ギルドを作ることにした。
「ザウスさま大変です。ザウスタウンに求人を出したところ、受付嬢の希望者が殺到しております」
「なんで?」
「目的はザウスさまかと……」
「俺?」
なんでも、ザウスタウンの中では、俺の元で働きたい人間というのが複数人にいるらしい。
「全員を雇うわけにはまいりませんので、私の方で審査して厳選させていただきました」
流石はメエエルだ。
仕事が早い。
「受付嬢は部署の顔。若くて仕事のできる美人ばかりを30名ほど雇いました」
「美人ばかりというのは?」
「みんなが憧れる場所。それが魔公爵ギルドなのです」
うーーむ。
すごいギルドになりそうだ。
「ちなみに、確認をとったところ、全員が添い寝係を希望しました」
そういってノートを見せる。
「記帳は万全です」
「あのなぁ」
「いつでも、この中から好きな子を添い寝係に指名できますので」
やれやれ。
今はそんなことにうつつを抜かしている場合じゃないんだ。
5年後には俺の命運がかかっているんだからな。
メエエルは真剣な顔でアルジェナに伝える。
「ライバルが増えましたね」
「はぁ? な、な、なによそれ! ラ、ライバルとかじゃないっての!
おいおい。
勘弁してくれよ。あの添い寝システムをアルジェナにまで薦めてたのか。
「そういえばザウスさま。報酬の件はどういたしましょうか?」
「まぁ、シンプルに金になるかな。アイテムの取得と成長率で報奨金を与えるんだよ」
「……それも良い案だとは思うのですが、モンスターの自主性を重んじるのならば、もっと喜ぶものがよろしいかと?」
「金より喜ぶもの? なにがあるんだ?」
「ザウスさまから褒めてもらうことです」
「なんだそれ?」
「部下たちはあなたに認めてもらいたくてウズウズしているのです。成果に対して、あなたが褒めてくれるのならば命をかけてダンジョンに挑むことでしょう」
よくわからんが、俺に褒めてもらいたいらしい。
ならば、トロフィーとか賞状を出してやろうか。
成績をポイント制にしてランキング形式で競わせるのはゲーム制が高くて面白いかもしれない。
こうして、ザウスポイントというものが誕生した。
ダンジョンのアイテムをより多くゲットした者、より多くのレベルを上げた者がそのポイントをゲットできる。
月ごとにポイントは集計されて、ランキングの上位者は俺から賞状とトロフィーがもらえる仕組みだ。
こんなんでいいのだろうか?
俺の不安をよそに、ギルドは大盛り上がり、立ち上げたその日のうちに場内の全員がギルド員に加盟した。
「うぉおおお! 絶対に1位になりたいゴブゥウ!」
「せめて3位に入りたいリザ!」
「3位がいいブゥ!」
「オイラはがんばりますからね! 見ていてくださいゴブ!」
「がんばってザウスさまに褒めて欲しいハピィ! めざせ3位!」
「ザウスポイントをゲットするスラ! 目標は3位で」
やれやれ。
ちなみに、1位はトロフィーと賞状。2位は賞状だけ。3位は頭なでなでとなっている。
なんだよ。頭なでなでって。
子供じゃないんだからさ。これを作ったのはメエエルだけど、センスがよくわからんなぁ。
「ザウスさま。ギルドは大盛り上がりでございます。競争率の高さから、まずは3位を狙うモンスターが続出しております」
メエエルすごいな。
しかし、3位のどこがいいのか?
「ザウスさま。1位と2位になでなでがついていないのはなぜだ!? と議論が巻き起こっております。これでは3位が本当の1位だと公言するモンスターもいるようです」
「あーー。つけてやれ! 1位と2位にもなでなでしてやればいいだろう」
こうして、魔公爵ギルドは運営が始まった。
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