第6話 師匠は行方不明

 セアはツルギ村に到着した。


「魔神狩りのアルジェナさんに会いに来ました」


 アルジェナとは、超人気RPGブレイブソードクエスト、通称ブレクエのヒロインである。

 今はまだ本編が動き始める5年前の話。よって、セアは10歳の子供である。彼は強くなるために剣技で有名な彼女を訪ねたのだ。


 村人は汗を垂らす。


「悪いな。つい1週間前だったかな。アルジェナは教育の仕事を受けてね。村を出たんだよ」


「それはタイミングが悪かったです。いつ頃、お戻りになりますか?」


「えーーと、5年後だったかな」


「ご、5年も!?」


 5年後にはゲームのシナリオが動き始める。

 セアは国王から勇者に認定され、魔王討伐の旅が幕を開けるのだ。


「とある貴族に気に入られてね。泊まり込みで貴族の部下を鍛えているんだそうだよ」


「そうだったのですね……。ちなみに、その貴族というのはどなたなのでしょうか?」


「あ、いや……」

(魔公爵ザウスさまとはいえないな。あの方からは、良質な野菜の貢ぎ物をたくさんもらったんだ。しかも、大量の孤児を引き取って、孤児院まで建ててくれたというからな。妙な噂が立ってはあの人に迷惑だろう。子供とはいえ、部外者だ。どこから噂が立つかわからないからな。慎重に答えようか)


「ははは……。ちょっと、詳しくはわからないな」


「わからない? なぜです??」


「そういわれても、わからないんだよ」


「ぼくは勇者になる男だぞ!」


 と睨みつける。

 彼の視線に村人は更に汗を垂らした。


(な、なんて目をする子だ……。怖いな)


「教えるんだ。隠しているとただじゃおかないぞ」


「ひぃい!」


 セアは村人の首を掴んで自分の体に寄せた。

 その力はすさまじく、とても10歳の子供とは思えない。


「言え。アルジェナはどこにいる!?」


「あぐぐぐぐ……。し、知らない!」


「本当だろうな?」


「き、き、貴族さまの部下が来て……。アルジェナを連れて行ったんだ」


「誘拐されたのか?」


「あぐぐ……。き、貴族さまはとても丁寧で優しいかただ。そ、その部下も礼儀が良い……」


「礼儀がいい、優しい貴族……」

(そんな貴族がいたかな? たいがいの貴族は横柄だけど……)


 セアはその情報だけを頼りに周辺の貴族を探した。


 その執念は心の底から湧いて来るものだったという。


(会いたい。アルジェナに会いたい。なぜだかわからないけれど、彼女に剣技を教えてもらうことが運命のように感じるんだ)


 この気持ちは当然である。

 彼はブレクエの主人公。魔王討伐のために魔神狩りのアルジェナの弟子になる運命だったのだ。また、物語が中ボスを倒してから魔王討伐に向かった際にはパーティーの仲間になる筋書きである。そして、恋愛に発展する運命だったのだ。


 10人以上は貴族を訪ねただろうか。

 名高い公爵をはじめ、貧乏な男爵の家まで……。

 気がつけば馬車はボロボロになり、食糧は尽きていた。


「申し訳ありません。当屋敷ではそのような剣術の稽古はしておりません」


「そ、そうですか……。では、アルジェナさんの噂は聞いたことがありませんか?」


「ええ。まったく存じ上げておりません」


「うう……」

(村人くらいなら締め上げても問題はないだろうが、貴族に暴力を振るうのはまずいな。僕が勇者とはいえ貴族の報復は面倒だ。それに本当に知らないようだしな)


 彼は手がかりがないままにハジメ村へと帰ることにした。


「なぜだ!? どうしてアルジェナに会えないんだ!? いったい、彼女を連れて行った貴族は誰なんだ!?」


 彼は村に帰るなり、憂さを晴らすように木刀を振った。


「クソ! 強くなりたい! 強くなりたいのにぃいいいいい!!」

 


 ☆


〜〜ザウス視点〜〜


 アルジェナの戦闘訓練は効果的だった。

 なにせ、今まで、部下のレベルは3ヶ月で1つしか上がらなかったからな。それが、たったの1週間で上がってしまったんだ。効果はてきめんだよ。

 これなら5年後が楽しみだ。


 そうそう。

 俺の剣技も鍛えてもらわなければならない。

 部下だけ強くしても仕方ないからな。


「アルジェナ。俺の剣技も見てくれると助かる」


「え!?」


「なにをそんなに驚くことがあるんだよ?」


「だ、だって……。ザウスは男でしょ?」


「はぁ? 男が女に剣技を教えてもらったらダメなのか?」


「いや……。ダメじゃないけど、そんな貴族はきいたことがないわよ。それに、あたしは15歳だし。あんたと同じ年齢だわ」


「性別とか年齢は関係ないよ。別に女だろうと同い年だろうと、実力があるものが先生になって教えた方が効率がいいよ。俺は気にしないさ」


「ザ、ザウスは変わっているわね」


「そうか?」


「だって……。魔公爵らしくない」


 そういわれても、俺の肌は青いし、額には角があるしなぁ……。


「いや、見た目じゃなくてさ……。なんていうか、全然えらそうじゃないし……。なにより部下に慕われているわ」


「は? なんだそれ?」


「みんなあんたのことを好いてる」


「はぁ?」


 やれやれ。

 勘違いしているなぁ。

 主従関係で利害が一致しているだけにすぎん。

 支配者は衣食住の提供する。そして、部下は雑用をはじめ主人を守るのが仕事なんだ。

 特に、俺が部下を鍛えているのは勇者に負けないためだからな。

 自分の命が助かるために部下を鍛えているだけにすぎん。

 モンスターのことなんかどうでもいいんだ。大切なのは自分の命さ。

 その証拠に、俺は部下たちを強制的に訓練させてスパルタ教育をしているからな。

 くくく。俺は容赦はしない。

 だから、モンスターが俺を好いているなんてことは可能性としては低いんだ。

 むしろ恨まれているとも考えられる。ゆえに、妙な噂は信じない。

 おそらく、モンスターが俺のことを好き、というのは訓練の度合いを緩めて欲しいからいっているのだろう。くくく。そんなおべんちゃらが俺に通じると思ったか。

 そんなことはさせないぞ。ビシビシ鍛えてやるんだからな。


「モンスターどもはビシビシ鍛えてやってくれ。手を抜くんじゃないぞ。泣こうがわめこうが構うもんか。みっちり教育してやってくれ」


「え? う、うん……」


「でも、休憩は1時間に1回な。汗の量が多い時は、適度な水分量と休憩はまめに取るように頼むな」


 くくく。

 訓練で負傷してしまっては戦力の低下につながるからなぁあああ!


「あ、それと。オークどもは昼食後は少しだけ昼寝をさせてやってくれ」


 そっちの方が午前の疲れがとれて効率的なんだ。


 そんな傍ら、彼女はブツブツと何かをいっていた。


「超部下想いじゃん。優しいってば……」


「ん? なんかいったか??」


「毎日、夕方の4時には訓練が終わってさ。毎週日曜日は休みでしょ?」


「オンとオフは大事なんだ。ダラダラと訓練をしても強くはなれんよ」


「…………」


「なんだ? 不服か? だったらいってくれ。こっちは戦闘技術を教えてもらっているからな。給金や休日の相談ならできるだけ希望に寄せるつもりだ。不満があるならいってくれ」


「べ、別に……」


「じゃあ、俺に剣技を教えてくれ」


「う、うん……」


「なんだよ。変な目で見てさ?」


「いや……別に……」


 そういえば顔が赤いな。


「もしかして熱があるのか?」


「……そんなんじゃない」


「熱がある場合はいってくれ。医療班もあるしな。風邪なら仕事は休んでいいから、すぐに家に帰って寝てくれ」


 そっちのほうが風邪が感染らなくて効率的なんだよな。

 みんなが風邪をひいたら訓練が遅れる。

 なにごとも効率的にだ。


「や、優しすぎる……」


「は? 勘違いするなよ。バカなのか?」


「バカじゃないわよ!」


 なにごとも効率重視だっての。


「それより体調は大丈夫なのか?」


「……う、うん。あたしは大丈夫よ。あんたに剣技を教えてあげるわ」


 そういえば、彼女は人気キャラだったな。

 おしとやかな年上のメエエルに対抗する同い年のアルジェナ。彼女はちょっとツンデレキャラだったな。

 ファンの人気はこの2人に分かれていたっけ。

 ブレイブソードクエストでは勇者とヒロインが恋愛をするパートがあるからな。彼女はその中の1人だったんだ。

 

 勇者とは魔王討伐の際にパーティーを組んでさ。

 その道中で恋愛に発展するんだよな。


 俺は全クリした人なので、よく覚えているよ。

 恋愛パートの全キャラ恋愛成就は裏技でしかできないけどさ。俺はやり込み勢だったから全員を恋人にしてハーレムしてたんだよな。懐かしいや。


 俺の好みはメエエルなんだが、彼女だって嫌いじゃない。

 ちょっとだけツンデレキャラなのが特に可愛いんだ。


 でも、やっぱり、彼女は勇者を好きになるんだろうな。

 俺はチュートリアルの中ボスだしな。

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