第5話 自軍を最強に
俺の記憶が蘇って3ヶ月が経った。
俺は大人気RPGブレイブソードクエスト、通称ブレクエの中ボスだったんだ。只今、15歳。今から5年後には勇者セアがこの城にやって来るだろう。その時に俺は倒される運命なんだ。そうならないために全力で対策をしなければならない。
5年間で自軍を最強にしてやる。
勇者が敵わないような最強のモンスター兵士に育て上げる。
モンスターたちは張り切って戦闘訓練をやってくれていた。
「ザウスさますごいゴブよ! レベルが1つ上がったゴブ!!」
ふぅむ。
3ヶ月でたった1レベルか。
メエエルは肩を躍らせた。
「あは! レベルなんて、1年に1度だけ、上がるか上がらないかですからね。これはすごい成長ですよ。やはり、1日に3度の食事と適度な休憩が良かったのですね! さすがはザウスさまです」
そういわれてもな……。
3ヶ月に1レベルとすると、1年に4レベルが上がることになる。タイムリミットは5年だから、そこに4をかけて……。20レベルの上昇か。
魔公爵城クリアの推奨レベルは40以上だからな。たしか俺は44レベルでクリアしたっけ。その時に戦ったモンスターたちのレベルは10未満だったと思う。そう考えると強くなってはいるがな。ハッキリいってまだまだ不安だ。俺はチュートリアルの中ボス。シナリオ上は勇者に倒される運命なんだ。念には念を入れなければ。
戦闘訓練の教育者は各モンスターのリーダーが担当していた。
ゴブリンならゴブリンリーダー、という具合に名前の尻にリーダーが付く。
それは亜種のような感じで、他のモンスターより2回りほど体が大きかった。
能力も特出していて、通常種より強い。
しかし、これが問題なんだろうな。
現状を要約すると、ちょっと強いやつに訓練を受けている。そういうことなのだ。
これではちょっとしか強くなれない。
「強い教育者が必要だ」
考えろ……。
俺はブレクエが大好きだったじゃないか。
主人公のセアは子供のころから戦闘訓練を受けていた。
それは剣聖と呼ばれる美少女で、のちに恋愛モードでは恋人候補にできるほどのキャラ。
確か名前は……アルジェナ。そうだ剣聖アルジェナだ。少し吊り目の美少女剣士。
15歳にして大陸に名が轟くほどの剣の使い手なんだ。
ああ、こんな存在が俺の部下を教えてくれたらなぁ……。
……あ、待てよ。
教えてもらえばいいのか。
「メエエル。剣聖アルジェナの居場所を知りたいのだがどこにいるかな?」
「アルジェナ……。魔神狩りの女剣士のことでしょうか?」
「ああ、そうだ」
そういえば剣聖と呼ばれるようになるのは、勇者セアが魔王を討伐してからだったな。
メエエルは城内の情報を駆使して報告してくれた。
「現在は生まれ故郷のツルギ村に住んでいるようですね」
なるほど。
ツルギ村は剣作りで有名な村だ。
勇者セアが住むハジメ村に行く前の段階だな。
「よし。行こう。馬車を出してくれ」
「奴隷狩りでしょうか? それとも討伐?」
「いや。スカウトさ」
モンスターに戦闘訓練を教えてもらうな。
俺とメエエルはツルギ村に到着した。
「魔公爵だぁああああああああああ!!」
村人は逃げ惑う。
「いや、違うんだ……」
とはいえ、この額の角と青い肌だからな。
まぁ、一目見たらわかっちゃうか。
村人はアルジェナを呼んできた。
それは三つ編みが似合う美少女。
「魔公爵がこんな小さな村になんの用よ?」
「実はな」
「ふん。どうせ奴隷狩りでしょ。この
そういって剣を構える。
彼女のレベルは85。
俺のレベルは10だからな。
今、戦えば瞬殺だよ。
まぁ、そもそも戦う気なんてさらさらないんだ。
俺は後続馬車の荷台を手差しした。
そこにはホウレン草やトマトが山積みされている。
「勘違いしないでくれ。俺は話し合いに来たんだ。これは献上品」
「け、献上品??」
「君と話しがしたい」
村人たちは俺が持って来た野菜で少しだけ信用してくれた。
貧しい村には献上品が効果てきめんだよ。
村長の家で彼女と話すことになる。
「あ、
「そうだ。君の腕を見込んで頼みたい。部下のモンスターを鍛えてくれ」
「で、でもぉ……」
「待遇は心配しないでくれ。衣食住は充実させる。もちろん、給金だってきちんと出すさ」
「あ、
「俺だって15歳さ。でも、魔公爵をやっている」
「……ザウスとかいったわね。ゴォザックはどうしたの?」
「父はハジメ村で命を落とした」
「……息子のあんたが家督を継いだのか」
「そうだ。魔公爵領は俺の物になった」
アルジェナは目を細める。
「奴隷狩りの手伝いはできないわ」
なるほど。
クソ親父の産物か。
そんな非効率なことはしないさ。
「俺は奴隷狩りをやめた。これからは人間を襲ったりはしないさ」
「魔族が平和的手法を選んだの?」
「んーー。まぁ、そんな感じだな」
効率を優先したってのが正確だがな。
5年後に殺されないための最適解さ。
「魔公爵城に泊まり込んでモンスターを教育する……か」
「そうだ。5年の契約でいい。城の者に剣技を教えてやって欲しいんだ」
「そんなには……無理よ。
彼女は俺たちを外に連れ出した。
そこはボロ小屋。
大勢の子供がワラワラと出ていた。
「あ! アルジェナ姉ちゃんだ!」
「わぁああ! 姉ちゃーーん!」
「そ、その人、誰ぇ? 肌が青いよぉお!?」
「もしかして魔族ぅうう??」
アルジェナは子供抱きかかえた。
「この子らは孤児よ」
聞けば奴隷狩りの犠牲だという。
両親は労働力として奪われ、子供は置いてけぼりを食らったというわけだ。
クソ親父め。
アルジェナは孤児たちの面倒を見ているという。
なるほど。
子供が心配でこの村を離れられないのか。
よし。
「ならば、その子らを俺が面倒を見ればいいんだろう?」
「え!? そんなことができるの!?」
俺はアルジェナを馬車に乗せてザウスタウンへと向かった。
「ほぉ。孤児院の建築ですか」
町長は気持ちよく話しを聞いてくれた。
「承知しましたじゃ。それでは千人くらい収容できる建物がよさそうじゃな。すぐに建設にとりかかりましょうぞ。」
「ええええええ!? い、一体どうなっているのよ!? そもそも、この綺麗な町並みはなに!? ここは魔公爵領でしょ!? 一体どうなってんのよ!?」
手短に話そう。
「ど、奴隷を解放して住民にした……。ですって?」
「ああ。基本は町人に町の発展は任しているんだ。俺は年貢を取り立てるだけだな」
町長は満面の笑み。
「ここは安全で住みやすい最高の町ですじゃ。それもこれもザウスさまのおかげなのですじゃ」
「し、信じられないわ……」
「納める年貢は収穫の6割でいいんですじゃ」
「え!? そ、そんな低い割合の領地聞いたことがないわよ!? うちの村だって8割は払っているんだから」
「フォッフォッフォッ。これもザウスさまの提案ですじゃ。おかげで町人たちは幸せに暮らせておる。そなたの抱える孤児たちもこの町に来れば安泰じゃろう」
「……すごい。こんな理想郷があったなんて」
こうして、断る理由がなくなったアルジェナはモンスターの教育係となってくれた。
これで戦闘技能が格段に上達するはずだ。
その成果は、たった1週間で現れた。
「ザウスさまぁあ! 俺っちのレベルが1つ上がったでゴブゥウウ!」
ふふふ。
3ヶ月でレベル1の上昇が、たった1週間に縮まったか。
1年は約52週だから……。単純計算で年間52レベルの上昇が可能だ。
いいぞ。
どんどん自軍を強化してやる。
☆
〜〜勇者セア視点〜〜
僕は1人で木刀を振っていた。
「えい! やぁあ!!」
ぐぬ……。
ダメだ。
一向に強くなれる気配がない。
ゴォザックを倒した時みたいな勇者の力が欲しい。
あの時は奇跡的に力が発生した。
でも、偶然じゃいざという時に困る。
勇者はいつでも最強であるべきなんだ。
噂では魔神狩りのアルジェナという人がすさまじい剣技を習得しているという。
この人の弟子になれれば、僕の剣技はもっと向上するぞ。
僕は馬車を持つ村人をたずねた。
「おい。ツルギ村に行きたい。馬車を貸してくれ」
「は? 無茶いうなよセア。この馬車は農作業で使うんだ」
「じゃあなにかい? 勇者である僕に歩いて行けというのかい?」
「し、しかしだなぁ」
「ゴォザックの奴隷狩りから命をすくったのは僕だよね?? 僕は勇者の力を持っていて、なおかつ君の命の恩人だ。そんな人間に歩いていけというのかい?」
「わ、わかったよ! 貸せばいいんだろう! まったく、セアは強引だなぁ」
「……わかればいいんだ。あとさ。呼び方は気をつけようね。セアさんな。10歳の子供だからって舐めるのはやめてくれよな。僕は勇者で命の恩人なんだからさ」
「……そ、それは失礼しましたセアさん」
「うん。わかればいいんだ。ただ謝罪が軽すぎるね」
「は?」
「土下座しようか」
「な、なんでそこまでやらないといけないんだよ!!」
僕はそいつの襟首を片手で掴んで持ち上げた。
「おい。勇者を舐めるんじゃないぞ。おまえの首根っこなんか簡単に折るんだからな」
「ひぃいいいいいいいい!」
村人は土下座した。
「す、すいませんでした」
「うん。以後、気をつけるように」
さぁ、この馬車でツルギ村に出発だ。
「あ、そうだ。3日分の食糧も用意しておいてくれ。道中で食べたいからさ」
「は!? な、なんでそこまで!?」
「ん?」
僕はギロリと睨みつけた。
「は、ははは……。そうですよね。道中、お腹がすきますもんね。わ、わかりましたパンと飲み物を用意させていただきます」
僕は快適な環境でツルギ村へと向かった。
ふふふ。
なにごとも上手くいっているな。
僕は勇者なんだ。
最高の人生が待っている。
運命を感じる……。
心の底から湧き上がる使命感。
待っていろアルジェナ。
君は僕に剣術を教える運命なんだ!
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