第4話 モンスターの農業
農業会議を開くことにした。
モンスターたちを集めて、農業に対して意見を交わすのだ。
世話係のメエエルは「農業なんて反発が出るのでは?? 奴隷の仕事をモンスターがやるなんて理解されないのではないのでしょうか?」と汗を垂らす。
「ま、何事もやってみないとな。そのための会議なのさ」
「……し、しかし、年貢を6割にしたことは黙っていた方がよろしいかと思います。みんなは不安になってしまいますよ。確実に士気が下がります」
「ふむ」
「これは魔公爵の威厳に関わります。みんなの士気を高めるのも支配者の勤めかと」
俺は数千匹が集まるモンスターの前に立った。
「みんな。よく集まってくれた。実はな。モンスターにも農業をやってもらおうと思って会議を開いたんだ」
俺は公言する。
「奴隷からの取り立てを6割に設定した。その食いぶちを考えないといかん」
メエエルは汗を飛散させる。
「ザ、ザウスさまぁ! それはいわない約束でしたよ!」
「いや。もうぶっちゃけた方が早いからな」
「し、しかし暴動が起こっては勇者討伐どころの騒ぎではありませんよ!」
俺は洗いざらいを伝えた。
みんなの食費がかさむこと。
食糧庫の備蓄が底をつきそうなこと。
奴隷たちが苦しんでいること。
その全部を伝える。
「──というわけでさ。年貢の取り立てを減らしたから、食いぶちは更に減ったんだ。このままだとみんなが飢え死にしてしまう。だから、おまえたちに農業をやって欲しいんだよな」
すると、1匹のゴブリンが立ち上がった。
「流石はザウスさまゴブ! 年貢の取り立てを厳しくすれば奴隷は全滅してしまうゴブよ!」
リザードマンは反論する。
「しかし、奴隷がやっていた仕事を我々がやるなんて屈辱的リザ」
「んじゃ、決を取ればいいゴブ。農業に興味があるモンスターもいるゴブよ」
ふむ。
「いいアイデアだな。それ、採用だ」
ゴブリンは顔を赤くして体をくねらせた。
「へへへ。ザウスさまに褒められちゃったゴブ」
すると、そのゴブリンを見た他のモンスターは手を挙げた。
「オ、オラ農業やるブウ!」
おお、
「助かる」
すると、他のモンスターも手を挙げ始めた。
「あ! 俺っちも農業やるリザ!」
「ありがとう」
「オイラもやるゴブ!」
「助かる」
「オラもやるブゥ」
「嬉しいよ」
モンスターたちは次々と手を挙げる。
「オイラも」「わしだって!」「オ、オデもやるから褒めて欲しいブゥ!」
なんか盛り上がってきたな。
もう数千人は希望者が上がっているぞ。
「わ、私も」
え?
気がつけばメエエルが手を挙げていた。
「いや。おまえは世話係だろ」
「そ、そうでした……」
これなら勇者討伐班と農業班で分けて活動させるのがいいかもな。
「でも、すごいです……。部下の自主性を重んじるなんて……。ゴォザックさまの時では考えられなかったことですよ」
「あの人は恐怖で支配していたからな」
そんなのは非効率なんだよ。
嫌嫌作ってもいい物はできないさ。
それに妙な恨みを買って毒でも盛られたら嫌だからな。
「でもザウスさまぁ。どうやって農業をやるブゥ? オラ、畑なんて耕したことがないブゥよ」
「そんなのは経験者に聞くのが早い」
ということで、俺は部下のモンスターたちを連れて奴隷区へと足を運んだ。
「ひぃいいいいいいいい! お助けくださいーー! 殺さないでくださいーーーー!!」
と、奴隷区長は土下座した。
いかついモンスターを連れて来たからな。勘違いするのも無理はない。
「ああ、区長、違うんだ。実はな──」
と、わけを話す。
「え!? モンスターに農業を教えるのですか!?」
「まぁ、そういうことになるな。教えてやって欲しいんだが、ダメかな?」
「も、もちろん……。ザウスさまのご命令ならばやらせていただきますが……。モンスターが農業をやるなんて聞いたことがありませんよ」
「時代は変わるんだよ。ははは。なにかお礼をしないとだが……。なにがいいかな?」
「そ、そんなお礼だなんて!」
「いや。なにごともこういうのは大事だよ。奴隷たちは、教育の分だけ余計な仕事が増えるんだからさ」
そうだ。
奴隷区はインフラ設備が整ってないんだ。
「下水道とか充実させようか」
「え!? そんなことをしてくださるのですか!?」
城内のモンスターには家を建てるのが上手いやつがいるしな。
授業の傍ら、奴隷区のインフラ設備の改善に取り掛かってもらおう。
下水道や、トイレの設置をすれば、この場所も住みやすくなるだろう。
それに、清潔にしてバイ菌の繁殖を抑えれば病気にだってかからないはずだ。
こうして、モンスターたちは奴隷区に通うことになった。
しばらくすると、奴隷区は見違えるほど綺麗な町並みとなった。
悪臭は消え、清潔な場所となる。
こうなって来ると、町として発展させたいな。
「ふぉおおお! 見違えましたじゃぁああ! こんな日が来るとは夢にも思いませなんだ。これならば新しい奴隷が来ても向かい入れるのは容易ですじゃああ! ありがとうございますザウスさまぁああああ!!」
ふぅむ……。
そういえば、奴隷は補充していたんだな。
父親のゴォザックは平気で奴隷を殺していたからな。
病気や殺害で減った奴隷は、新しい場所でさらってきて補充をしていたんだ。
そういうのって非効率なんだよな。
さらう分の作業が増える。
それより、奴隷同士で結婚して勝手に増えてくれた方が効率がいい。
うん。そうしよう。
そっちのが俺の仕事が減って楽だしな。
「区長、ちょっといいか?」
大まかな構想を話す。
「えええええええ!? け、結婚制度を導入するですってぇえええええ!?」
「うん。なんなら教会も作ってさ。戸籍は魔公爵城で管理するんだ」
「そ、それでは奴隷区じゃありませんな。もう町ですじゃ」
「ああ、そうかもな」
「え?」
「奴隷制度はやめよう」
「ええええええええええええ!?」
「町人でいいと思う」
俺、前世では社畜だったしな。しかも、仕事のやりすぎで過労死だし。
奴隷って言葉には嫌悪感があったんだ。
ただ、組織を構成するのは縦社会のピラミッド構図なのは鉄板だ。
支配者である魔公爵の俺を筆頭に、モンスター、町人と並べば健全なコミュニティになるだろう。
そんなわけで奴隷区は大きな町に変貌した。
奴隷という呼び方も廃止。結婚制度を導入して、町人となった。
奴隷区はザウスタウンと呼び名を変えて発展することになった。
町人たちはアイデアを出し合い、病院をつくり市場ができて活気が溢れる。
その中をモンスターが闊歩するのだから、不思議な光景と言わざるを得ない。
町人たちはモンスターを敬い、一目を置く。
支配者が彼らに平和を与え、その見返りとして年貢を納めてもらえればウインウインの関係である。
1ヶ月もすると、モンスターは農業を覚えて来た。
「ザウスさまぁ! これ、オラが作ったホウレーンだブウ」
ホウレーンとはこの世界でいうところのホウレン草のことだ。
この辺の葉野菜は短期間で収穫ができるらしい。
こうして、困窮していた城内の食糧事案は解決した。
モンスターの農業に加えて、町人たちからは6割の年貢がもらえるんだ。
くわえて町は勝手に発展していくしな。流行り病はインフラを整備したことで減ったみたいだし、最高の町になった。
うん。
食糧難は完璧にクリアできたな。
町人は結婚して勝手に増えるから奴隷狩りの手間が省けて楽だ。
くわえて上質な収穫物が6割も無料で手に入るんだ。最高の環境だろう。
メエエルは山積みにされたホウレン草とトマトの山を見て震える。
「ふほぉおお……。す、す、すごいです。これをモンスターたちが作ったのですね。こ、これなら食糧難になることはありません」
そうだ。
町人からの6割に加えて、モンスターが作った野菜が食えるようになった。
彼らは人間より力があるから広い畑を簡単に耕すことができるんだよな。
おかげで人間より多くの収穫を見込めるようになった。
自給自足ができれば魔公爵領は更なる発展につながるだろう。
「毎月できるみたいだしな。うまい野菜が食えるようになるよ」
「ふほぉおお! か、完璧です。多すぎて食糧庫がパンパンになってますよ」
「もしかして余らせる感じ?」
「そうですね。腐らしてしまうかもしれません」
「だったら、人間に売るか」
「え!?」
「格安で売ってやれば喜ぶんじゃないかな? ザウスタウンは発展して市場ができてるっていうしな。モンスターが店を出して野菜を売ればいいんだよ。こっちだって腐らせるくらいなら少額でも金になればいいだろ?」
「で、でも、人間からは6割の年貢があるのですよ? その人間に野菜を売るのはおかしくありませんか? 自分が城に収めた野菜が市場で売られていたら複雑な気持ちになりますよ」
「だったら、人間が作らない野菜を中心に売ればいいじゃないか」
「ああ! ……で、でもそんな野菜があるのでしょうか?」
「モンスター特有の野菜があるらしいよ。人間じゃ作るのが難しいやつね。そういう野菜を中心に売ってやれば、更なる発展につながるよ」
「す、すごいです! それなら町人も大喜びです! 市場がドンドン大きくなりますね! まさか、こんな日が来るとは……」
ふふふ。
これで農業班には食糧を作ってもらって、討伐班には戦闘訓練をしてもらう図式となった。
まだ、勇者が魔公爵城を襲って来るまでに5年はあるからな。
それまでには自軍を強化しまくってやるさ。
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