第3話 ゴブリンたちの反応

 魔公爵城ではゴブリンたちが噂していた。


「最近、ザウスさま優しくないかゴブ?」

「わかるぅうう!! 俺たちを貴重な戦力だといってくれるゴブよ! 以前の魔公爵ゴォザックさまではあり得ないことゴブ」

「それに休憩もくれたり休みもくれるゴブ」

「3食ついて、少ないながらも給金が出るゴブよ」

「俺っち、ザウスさまが好きゴブ」

「俺もゴブ」

「オラもゴブ」


 豚顔のオークたちも噂する。


「ザウスさまは3食の食事を与えてくれることになったブウ」

「信じられないブゥね。腹一杯食べれるなんて夢みたいブウ」

「昼間は10分だけ昼寝をしてもいいっていってたブウ」

「腹一杯食って、ゆっくり寝て……。魔公爵城が天国になったブウ」

「なんか魔公爵さまはめちゃくちゃ優しいブウ」

「うんうん。ザウスさまは優しいブウ」

「オラ、今の魔公爵さまが一番好きだブゥ」

「ザウスさまのためなら命をかけて戦えるブウ」


 トカゲ顔のリザードマンも同様。


「ザウスさまは医療班を作られたそうだリザ」

「なんでも怪我人は医療班が治してくれとか……」

「以前の魔公爵さまだと考えられないことになっているリザね」

「負傷者は殺処分は当たり前。ゴォザックさまは毎日、部下を殺していたリザ」

「体が熱っぽい時は戦闘訓練を休めるリザ」

「しかも、毎週日曜日は休暇の時間となっているリザ」

「以前の魔公爵さまなら休みなんかなかったリザ」

「ザウスさまは真逆リザ。更にすごいのは有給休暇の仕組みも作ってくれたリザ」

「なんだそれリザ?」

「有給休暇制度。なんでも、年間3日間は任意で休暇をとれるらしい」

「み、3日間も!? 日曜日だけでもすごいのに、加えて3日も休めるリザ!? し、信じられないリザ!」

「ザウスさますごすぎ問題発生中リザ!」

「ザウスさまのためなら命をかけれるリザ!」

「あの人にもっと認めてもらいたいリザ!!」

「ザウスさまに褒められたいリザァアア!!」


 と、まぁ、こんな具合にザウスの評価は爆上がり中だった。

 当の本人は、そんなことにはまったく興味がない。


「バッドエンド回避……。兵力を増強して勇者を倒す……」


 と、自分のことばかり考えているのだった。





〜〜ザウス視点〜〜


「農地の視察だと?」


 俺は世話係のメエエルの言葉に耳を疑った。


「はい。ここ最近、城内の食費が圧迫しております。このままで食糧庫の備蓄食材は尽きてしまいます」


 そういえば、部下たちに3食を食べさせているんだったな。

 エンゲル係数が跳ね上がるのは当然か。


 俺とメエエルは馬車に揺られて農地の視察へと向かった。


「魔公爵領の6割は人間が住む奴隷区域となっております」


 俺の父親だったゴォザックがさらって来た人間が働いているんだな。


 奴隷区域の町並みは散々だ。

 家は掘っ立て小屋。暗くジメジメとして悪臭が漂う。

 こんな場所で暮らすなんて最悪だな。


 俺たちを出迎えてくれたのは区を束ねる区長だった。

 80代くらいの爺さんである。

 区長はなにかを察して土下座した。


「年貢が厳しい状況であります。なにとぞ、年貢量を減らしていただけないでしょうかぁああああ!! お願いしますじゃあああああ!!」


 やれやれ。

 まいったな。

 この視察は年貢量の増量を期待してのことだったんだ。

 それが減らすなんてなぁ……。


「わ、わしの命ならいくらでも捧げますじゃ。でも、奴隷区域の者たちには若い者が大勢おります。流行り病にもなりまして、9割の取り立てがどうしても厳しい現状なのでございますじゃ」


「きゅ、9割だと?」


「ひぃいいいいいいッ!!」


「じゃあ、おまえたちは収穫の1割で過ごしていたのか?」


「は、はい……。それが当たり前でございますですじゃあ」


 区長は殺されると思って汗を飛散させた。

 ゴォザックは恐怖で支配していたからな。

 その名残りなのだろう。


 しかし、年間収穫の9割の取立てとは無茶をする。

 奴隷たちの食糧がなくなれば奴隷区域は全滅じゃないか。


 メエエルは当たり前のようにいう。


「ゴォザックさまは新しい奴隷を集めては奴隷区域を拡張しておりました。今は奴隷の補充が必要な時かもしれません」


 なるほど。

 人さらいで年貢量を増やしていたのか。

 その誘拐をしようとして勇者に倒されたんだな。


「な、な、7割……。いえ、8割でかまいません! どうか年貢量をお減らしくださいぃいいいいい!! どうか、どうかぁあああああ!! お願いしますじゃあああ!!」


「収穫の2割で生活は潤うのか?」


「い、今より、マシにはなりますじゃ。今は食べる物も碌になく、奴隷たちは雑草を茹でて食べております。そのせいで栄養もつかず、奴隷たちは病気で命を失っております。も、もう見てられませんのじゃ」


 ふぅむ……。


 メエエルを見ると、悲しい表情を浮かべながら顔を横に振っていた。

 そうなのだ、我が城でも食費は困窮しているのである。とても、年貢量を下げるわけにはいかないのだ。

 よし、


「わかった。6割にしよう」


「「 え!? 」」


「収穫物の献上は6割だ。それなら食糧難も回避できるだろう?」


 メエエルと区長が俺を見つめる。


「そう驚くなよ。打開策を提案したまでさ」


 彼女は目を瞬かせる。


「だ、だ、打開策とは?」


「奴隷区の改善だよ。まずは年貢の軽減を図る。城が取り立てるのは6割にするんだ。4割の収穫が自分たちの食事になるなら生活も少しは潤うだろう」


「し、しかしですね! 我が城の備蓄が……」


「わかってるよ。他にも色々と考えているからさ」


「は、はぁ……」


 と、呆れるだけ。

 区長は涙を流して膝をついた。


「おおおおおおお!! ザウスさまぁああああ!! なんとお優しいん方なんじゃあああああ!!」


「いや。勘違いするな。年貢は6割、きっちり収めてもらうからな。そこだけは譲れないぞ」


 年貢の取り立てを厳しくすると品質が落ちるだろう。

 粗悪な9割より上質な6割だよな。

 それに、奴隷が少なくなったら年貢の総量が落ちるじゃないか。

 ならば、奴隷が減らない工夫は必須だ。

 彼らに食事を与えて死なないようにしてもらった方が、支配者としては楽なんだよな。奴隷の人数が減らなければ年貢の総量は減らないんだからさ。

 全ては効率。俺が5年後に死なないためだ。


「9割が6割に減ったのです! 食糧が3割も増えたら奴隷たちは大喜びですじゃあああああ!! 欠かさず6割納めさせていただきますじゃぁあああ!!」


 やれやれ。


 メエエルは何度も目を瞬かせて冷や汗をダラダラとかいていた。


 安心させてやらないとな。

 

 俺は帰りの馬車で彼女にわけを話した。


「魔公爵領の6割が人間の奴隷区なんだよな? ってことは土地の4割がモンスターの領域だ」


「はい。ゴブリンやオークたちが住まう地域ですね」


「そいつらはなにをやっている?」


「主に戦闘訓練ですね。勇者を倒すための」


「その労力を使えばいいのさ」


「え?」


「ゴブリンたちに農業をさせる」


「ええええええええええええええええええ!?」


 人間ばかりに農業をさせていても非効率だからな。

 力のあるモンスターが農業をやった方が捗るに決まっている。

 なにごとも効率的にいきたいよな。

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