第3話

「答え……って」

「この場合、お前ならどうする? 答えろ」


 男はハンドガンを生成すると、アイの顔に向かって銃口を突きつける。

 撃ち殺されちゃう! なんとかしなきゃ!


「彼女をおいて逃げるか? それともおびえて動けないか? まさかそんな銃で私に攻撃を……」



「イケメンはあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 絶対正義なんだからっ!」



 私は水鉄砲を男に突き出して走った。

 なんにも考えてなかった。勢いだけだ。

 アイを助けなきゃ! 私を助けてくれたんだからっ!


 力を入れすぎて、水が銃口からピュッと出た。


「何っ?」


 男は想定外だったのか、目を見開いてよろける。


「――足元がお留守になってるわよぉ」


「はっ! しまっ!」

「BON《ボン》」


 アイが爆発して、男がふきとばされた。


「おわあっ?」


 私も一緒にふきとばされる。

 擬態語も生成されちゃうのっ?

 空が数回は回転した。

 落ちた所は柔らかかった。

 アイが私をお姫様抱っこして、


「ネイちゃんNice《ナイス》。男が油断したから、束縛生成がとけたわぁ」

「どっどうも……」


 照れて笑うしかない。


「とどめといきましょうねぇ」


 アイは私を地面に下ろした。

 爆発後は、すさまじい光景だった。

 学校どころか、運動場すら消し飛び、あったのは別空間の巨大な穴。

 穴の底で、男は私たちを見上げ、立ち上がろうとしている。


「ジェネレート。Heart Meteor《ハート メテオ》」


 アイが両手をハートマーク。

 巨大なハート型の石が空間にできる。

 大きな炎を身にまとい、男に向かって落ちていく。


 あつっ! 火の粉がこっちきた!


「ふざけるなよ。犯罪者どもがっ!」


 冷静そうな男が、初めて感情をあらわした。

 同じ大きな隕石を生成し、私たちに向かって持ち上げてくる。

 アイの隕石と、男の隕石が衝突し、すごい衝撃波がこっちきた。

 制服のスカートが全開でめくれ上がってたことに、今気づいた。


「おうっ。Gorgeous《ゴージャス》」


 アイのよゆうっぷりが心配になった。

 男の隕石のほうが力強い。

 ちょっとづつだけど、こっちに近づいてくる! なんなの、あの執念!


 私は崖になった地面に両手をついて、巨大な穴をのぞきつつ、


「はね返される! どうするの!」

「う~ん」


 アイは人さし指を口において、


「あっ、そっだ! おっきくしよう!」

「はっはい?」

「Upscale《アップスケール》×1000倍。ジェネレート」


 傘を隕石に向かって開いた。


 隕石がいきなり巨大化し、男の隕石を砕いた。

 男は何か言おうとしたけど――静かに両目を閉じていた。

 アイの隕石が男をつぶす。



「バイバイ――あなた」



 アイはちょっとだけ悲しそうな顔をしたけど、すぐニヤニヤ顔になった。

 気のせいだった? でも……。

 アイの感情がわかりにくくて、自分の感想に自信が持てなかった。


 穴の階層に隕石が当たる。

 大爆発が起こった。

 今立っている地面にヒビが入り、地震が起こる。


 アイは額に手をやり、


「ありゃりゃ、やっちゃった。世界が壊れるわねぇ」

「おいっ!」


 なんだかよくわからんけど、ツッコんではおく。


「OK《オーケー》。ネイちゃん。顔をこっちに近づけて」

「へっ? こう?」

「そうそう――ちゅっ!」

「ふっ!」


 アイが私にキスした。

 マジだ。

 アイの唇は、謎に柔らかくて、暖かい。

 私の息が一瞬止まった。


『NSFWを検知。プロンプトを無効化します』


 どっかから、女の人の機械音声みたいなものが聞こえてきて、世界は真っ白になった。

 穴も、隕石も、なくなった。

 学校はもうないけど。


「NSFWって?」



「Not Safe for Work――《職場じゃ見ちゃだめな画像》よ」



 アイはウインクして、私に笑って見せた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る