第2話
私は足りない頭で必死で考え、
「生成って、あなたも……」
「人間じゃないわね」
アイは手に持った小さな傘をクルクル回す。
この子が『犯罪者』。
私も。
「そんな、いやっ、だって、私、どんな罪を犯したのかさえ、おぼえてないのに……」
「別にいいじゃない。みんな同じよ。私だっておぼえてないし」
「うそよ……」
私はアイに腕をにぎられ、学校の廊下に連れ出される。
抵抗できない。
どうしたらいいかわからない。
廊下の奥から音がした。
学校の制服を着ている。
男子学生だ。
顔は、いけてる。
最初に会った男とはレベルが違う。
私は飛び上がって、
「イケメンだわ! やった!」
「何興奮してるのよ?」
アイが細い目で見つめてくる。
「知らないの? イケメンは絶対正義なのよ!」
「そんなわけないでしょ」
「そんなわけあるの! おーい! あなたもここに閉じ込められてるの?」
私の超好みだった。
手をぶんぶん振って彼を誘う。
男子学生は私たちを見つめたまま、
「――Gun《ガン》」
という単語がかろうじて聞こえ、巨大な銃があらわれた。
銃口の数が多い。黒い穴がいくつも向けられてる。
「わお。Big Magnum《ビッグ マグナム》」
あぜんとする私と違って、口に手をそえ驚くアイ。
銃口からすごい火花が散って、弾が発射。
耳が壊れるぐらい銃声が響く。
「ジェネレート。Heart Shield《ハート シールド》」
アイは両手でハートマーク。
それに合わせて、巨大なハートの盾があらわれる。
盾と弾がぶつかりあって、学校全体が揺れる。
ぶつかり合う音が激しいんだけど!
「ぎゃあああああああああああ!」
私はよくわからん悲鳴を上げていた。
「イケメンが絶対正義って、うそだったわねぇ」
「いやああああああああああっ! でも好みの顔!」
アイに負けを認めたくなかった。
「――犯罪者は全員殺す」
男が小さくつぶやく。
ようしゃのない殺意。
その犯罪とやらを、おぼえてないんだがっ!
「そうやって、どれだけの罪のない人間を巻き込み、犠牲にしたのかしらねぇ」
アイが手をほほにやる。
盾は恐ろしく頑丈で、男の野太い弾を簡単にはじいてる。
拒否力すごっ!
「ネイちゃん。私、盾を生成してるから、反撃できないわ。銃を生成して、彼を撃って」
「ネイって……」
「あなたの名前よ。私が今名付けたわ。名前、ないと不便でしょ?」
「でもどうすれば……」
「頭の中でプロンプトを構築させて。そうね。銃を構成するための単語を思い浮かべるの。銃が出てくるから」
アイのアドバイスどおり、私は頭の中で銃の単語を考え始めた。
みんな英語で言ってるから、日本語じゃないわよね。
あーもう! なんで日本語って世界共通言語になってないのよっ!
「がっ、Gun《ガン》!」
私の手の中にハンドガンが生成される。
小さいけど、この世界では威力があるはず!
たぶん!
私は銃を男に向け、
「あなたを殺して、観賞用として保存してやるわ!」
「やだっ。Psychopath《サイコパス》」
アイが両肩を持ち上げる。
リアクションどーも!
トリガーを押した。
水が出た。
銃口から出た水は、すぐに力をなくして、アイの足元に落ちた。
「……冷た」
「なんか、ごめん! どうなってるの?」
「プロンプトが足りないのよ。クオリティタグはちゃんと入れた? 銃の向きや形は? 弾の大きさは? ひとつの単語じゃぜんぜん足りないわよ。複数の単語を組み合わせて、やっとできあがる……!」
アイが何かに気づいた。
学校の屋上からものすごい音がする。
天井の壁を突き破って、巨大な剣が降ってきた。
「きゃあああっ!」
私は小さな虫みたいに叫んでばっかりだ。
まだ世界に適応してない。
したくないけどっ!
学校が崩壊し、運動場に放り出される。
がれきが空から、雨みたいに降ってきた。
死ぬ!
「学校が……アイ……」
「――Judgement《ジャッジメント》」
涙目になった私は、顔を上げた。
男が、あおむけに倒れている、アイの脇腹を踏んでいる。
アイはけがしたのか動けないでいる。小さくうめいてる。
「お前の答えは、なんだ?」
男は私を見下した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます