ジェネレート

因幡雄介

第1話

「ひゃははははははっ! 待てよ女!」

「誰が待つか! その手に持ってる斧をしまってから言えぇぇぇ!」


 私は斧をぶんぶん振り回す男から逃げていた。


 目がさめたら学校にいた。

 ぼやっとした頭で教室から廊下に出て、さまよっていると、あの男に会った。

 声をかけると、いきなり斧を振り下ろしてきた。

 顔がちょっと化け物みたいだったから、おかしな人なのかなと思ったら、あんのじょうだった。


 で、今の状況である。

 

 学校の廊下には誰もいなくて、シーンと静まりかえっている。

 教室はもちろん、学校の外にも誰もいない。

 空は白く、太陽が見えず、霧みたいなものがただよっている。


「はあ、はあ、そっそうだ。警察……先生でもいい……」


 頭の中で助けてくれそうな人たちを想像した。

 普通なら親とか、兄弟の名前が浮かびそうなものなのに、頭痛がして無理だった。

 学校のチャイムがごう音としてのしかかってくる。


 私はそばの教室に入って、ドアに鍵をしめた。

 体力を回復させたかった。

 これでしばらくもってくれればいいけど……。


「きゃっ!」


 ドアが斧で破壊され、ガラスが飛び散る。

 私は教室の端まで逃げた。


「迷子の迷子の子猫ちゃ~ん。あなたの死に場所はどこですかぁ~」


 男が斧で破壊した、ドアの隙間から私をのぞく。


「あんた何者なのよ! どうして私は学校にいるのよ! てか、ここはどこの学校なのよ!」

「知らね」

「はあっ?」

「俺も気づいたらここにいたんだよ。ここはいいぜぇ。Knife《ナイフ》!」


 男がそう言うと、ナイフが空間からあらわれ、手におさまった。

 私は何が起こったのかわからず、口が開いたままだ。


「これで、ここにいたやつらを殺してやった。ああ~、何人やったかなぁ。まっ、おぼえてないし、どうでもいいか」


 男は斧でドアをたたき割った。

 もう必要ないと思ったのか、斧からナイフへ持ち替える。


 私、あとずさりながら、


「まっ待ってよ。おかしいと思わないの?」

「思わねぇよ。だって、俺がおかしいんだもん」

「確かにそうだけどっ!」


 私は納得した。


 こいつとは、話にならん!


「じっくり殺すからなぁ。子猫ちゃんは、震えたまま、そこから動くなよぉ」

「――あなたも動かないでね」

「はいっ? うごっ!」


 男の胸から鋭い剣が出てきた。

 誰かが後ろから剣で、男の胸を貫いたようだ。

 男からは赤い血が出てこず、霧のように消失した。


 どういうこと?


「はーい。おつとめご苦労さま。シャバの空気は吸えなかったわねぇ」


 女が出てくる。赤髪のツインテールに、背中から二つの小さな羽がはえている。

 両目が宝石みたいに赤い。

 顔つきは幼い。

 手に持っているのは小さな傘か。

 格好も制服じゃないし、奇抜だ。


 天使?


「うふーん。うふっふっふっふっふぅん」


 少女がやってきて、私を値踏みするように見つめる。

 笑い方がちょっと汚い。

 アゴの下でピースサインを作り、


「合格。私のバディとしてふさわしいわね。一緒に『人間を皆殺し』にしましょ」


 超かわいらしい笑顔で、なんちゅーこと言うの!


「するわけないでしょ!」

「しなきゃならないでしょ。じゃないと、あなた『人間』に殺されるわよ」

「どういう意味?」

「あなたはね、あの男と同じように『ジェネレート』されたのよ。つまり、『生成』って意味ね」

「えっ?」

「生まれたばっかりだから、『記憶』とかないでしょ?」

「私は……」


「『AIから生成された人間』よ」


 少女の言葉に、私は言葉を失う。


「説明するね。人間だったあなたは『犯罪』を犯して処刑されてるの。犯罪者に法律は適用されないから、あなたは誰にも守られないわけね。だから自由に、誰にでも、生成できちゃうの。それにAIで生成された人間は、著作権や所有権を放棄されてるから――誰がどう扱ってもいいのよね」

「は……あっ?」

「ここは人間が過去の犯罪者をAIで生成して、殺し合いをさせて楽しむ場所。あなた、そんなにかわいい顔して、どんな犯罪犯したの? 年齢も十六ぐらいよね? ねえねえ、何やったの?」


 女の子は無邪気にねえねえと聞いてくるけど、私は凍りついていた。

 私を自由にできるのなら、誰かに殺されても、相手は『罪』にならない。

 どんな罪を犯したのかなんて、おぼえてない。



「私の名前は『アイ』――私と一緒に人間を滅ぼそう。そうすれば、あなたは『自由』になれるから」



 少女はいつまでも無邪気な笑顔だった。

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