第19話 相談


 夜は盗賊の残党が来ることもなく、魔物や魔獣が遠目からこちらを伺ってくるぐらいで、特に問題もなく朝を迎えた。


「おはよう、ティアラにキーラ」

「「おはよう、アベル」」


 テントから出ると、既に朝食の準備をしているティアラとキーラがいた。挨拶が揃って返ってくるなんて、出会って日が浅いと行っても知らない奴らは信じないだろうと思うアベル。


「おっ!美味そうだな」


鍋を除きこみ朝食が楽しみになるアベルと、その鍋に刺したお玉を回すティアラ


「頑張って作りました」

「もう、ティアラがみんなの為にって朝から張り切っちゃって」

「そ、それは皆さん疲れてるだろうし、昨日は簡単な携帯食と水だけだったから……」


本人に自覚がないのも、ここまでくれば問題だ。彼女は見習いとは名ばかりの立派な薬士だ。そこら辺の薬士より腕は絶対に上だと言える。そんな彼女に自覚させようと、アベルは感謝と一緒に、正直なティアラの価値を自身にちゃんと話すことにした。


「キーラ、ちょっとティアラを借りるよ」

「はーい、いってらっしゃ~い」

「えっ!えっ?」


焚き火から少しも離れて真っ直ぐに彼女を見るアベル。それに緊張して佇むティアラ。キーラはお玉で鍋を混ぜながらも、そんな二人の光景をニヤニヤしながら横目で見ていた。


「ありがとう、ティアラ」

「そんな、私にはこれぐらいしかお役にたてないので……」

「そんな事はないぞ。増血剤に止血剤。ポーションにマナポーションと本当に助かったよ。ティアラの薬がなければ全員助けられなかった。ありがとう」

「そ、そんな!私は出来ることをしただけで……」

「それが出来る薬士はそうはいないよ。ティアラは本当に頼りになるよ」

「そんな~~~♪」


その真っ直ぐな感謝と褒め言葉に照れるティアラ。良かった。先ずは認めて上げることが大事なのかもと思うアベル。そして昨日の治療が終わって、考えていたことをティアラに相談することにした。もしかしたら彼女ならと、


「そんなティアラに、新しい薬を頼みたいんだ。もし時間があればだけど……」

「どんな薬ですか?」

「睡眠薬や麻酔薬は出来るかな?」

「魔物相手の物は出来ますけど、人に使うとなると難しいですね」

「そう、それを人に使えるように出来ないかなって……」

「どうしてですか?」

「痛みによるショック死や、酷い傷の進行を抑えられないかなって思ってさ。もしそれが出来たら今よりもっと沢山の人々を救えるかもって」

「凄い!なるほど……多分ですけど、その人の性別や身長や体重さえわかれば、調合して丁度いい効き目の物を作れるとは思います」

「本当かい!」

「はい、でもそれには時間がかかりますね。患者さんの事を色々と知っておかないと危険です。調合の量も人によりけりですし……」

「そうか……なかなか難しいんだな」

「でも、色々と考えてみます。新しい調合は楽しいです」

「そうなのか?じゃあ頼むよ。あっ!でも無理はしないでほしいな」

「わかりました。旅の途中空いた時間にでも」


夢中で話す二人の邪魔をしないようにと、いつの間にか朝食の準備が整っている。そして、


「お~い、二人共。冷めちゃうわよ~」


四人揃った護衛の冒険者達は、もう二人を待ち切れないらしい。キーラが声をかけると、足早に合流する二人。


「先ず腹ごしらえだな。せっかくのティアラの手料理だ」

「そうですね。美味しく出来てるといいんですけど」

「あの~私も作ったんですけど~」

「「「いただきます」」」

「ははは……」


自分の言葉はスルーされ、がっつき始める肉体労働担当の三人。先程の話しの続きをしながら食べ始める治癒士と初弟子に苦笑いしか出ないキーラだった。




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