第10話 魔法袋
「少し早いが今日はここで夜営だ」
出発したその日の夜、イアンの一言で、街道から少し離れた小高い丘の上にある大木の下で準備に取り掛かる一行。
「俺とジャックはテントの設営、アベルとナタリーは林で薪を頼む。キーラとティアラは食事の準備か」
「これがうちのテントだ。たのむよジャック」
「ああ、任された」
「いくよ〜アベル〜」
「そんな急ぐなよ、ナタリー」
「ティアラ、先ずは石釜を作りましょう」
「はい、先生」
(う〜ん、いい響きだわ〜〜〜)
リーダーの指示に従いアベルもテントを二人に預け、各二人一組で作業に取り掛かるが、
「あの……」
「ティアラ、どうしたの?」
「キーラ先生、私……料理をあまりしたこと無くて……」
「大丈夫よ。不味く無ければいいから。簡単なメニューだから教えてあげるわ。一緒に作りましょう」
「はい、やってみます」
料理担当の二人の会話が、とても不安を駆り立てる。
「「ははは…………」」
(今夜は期待出来ないか……)
(今後に期待だな……)
テントを設営していた男二人は、力なく笑い頬が引きつっていた。しかし誰しも初めてはあるもので、今後を期待するしか無いと諦める。林に行った二人も聞いていれば、料理に使う薪を拾う意欲も無くなるだろう。
各々の役割を終え、火元を中心に円になって、本当に簡単な煮込み料理を食べ始める。女三人集まれば姦しいとは本当のようだ。
「料理って調合と似てますね」
「そうなんだぁ〜」
「はい、ナタリーさんは料理出来るんですか?」
「う〜ん……キーラと同じぐらいかなぁ」
「いいえ、私のほうが早く作れるわよ」
「でも、早く作れるのと美味しいは違うでしょ?」
「味が一緒なら早いほうが上手なはずよ」
「なら、私も次から急いで作ってみようかな?」
「次は私も、もう少し早くできるよう頑張ります」
(((そこは少し時間がかかっても美味しく作ってほしい……)))
もちろん手早く料理が出来ることも料理上手だ。しかし、旅の数少ない楽しみである食事。街中なら買えばいいが、夜営ではそういう訳にはいかない。それにいつ最後の晩餐になるともしれない食事なら、なるべく美味いものが食べたい、という思いがある男性陣。しかしここで話に入ると面倒なのは理解している。思っていても口には出さない。出したら最後、お前が作れとなるのだから。
「あっ、そうそう、これをお前に渡さないとな」
食事が終わり見張りの順番を決めた後、イアンが腰に携えた袋をアベルに差し出した。
「薬の素材か?」
「それもあるが、この袋ごと二人に渡せってギルマスから預かってきた。魔法袋だ」
「「えっ、魔法袋!」」
思わず声を揃えて驚くアベルとティアラ。他のメンバーは知っていたらしく、驚く二人を微笑ましく見ている。
魔法袋
別名マジックバッグ 空間魔法が施された魔道具。その見た目とは違い、多くの物を魔法で収納出来る高級品。容量により値段は異なるが最少でも民家一軒分入るその価格は金貨三十枚。
「ギルマスから言付けだ。アベル、今までの恩に報いるには足りないかもしれんが、俺達の感謝の気持ちだ」
「ギルマス……」
「俺のお古だがこれで勘弁してくれってよ。中身はお前に世話になった冒険者達からのカンパだ。薬草始め、素材各種と簡単な調合機材、それと一ヶ月分の食料二人分だとよ」
「みんな……」
「アベル、なんて顔してんだよ!」
「うるせ〜〜〜」
感謝と申し訳無さが混じった表情で、思いにふけりながら目が潤んでいるアベルに、肩を叩きながらイアンが茶々をいれる。ごま貸すように怒鳴りながらアベルが魔法袋を受け取ると、しばらく見つめた後、ティアラに向かって差し出した。
「ティアラ、これは君が預かっていてくれ」
「でも、こんな大切なものアベルが持っていたほうが……」
「そのほうが何かと便利だ。君ごと守れば済むしな。それに出会って日も浅いけど、君を信頼しているから、その証みたいなものだと思ってくれれば……」
「そんな!…………わかりました。預かるだけですからね。これはアベルへの感謝の思いが詰まったものなんですから」
((((ニヤニヤニヤニヤ))))
なんとも誓いに似たような歯の浮くセリフを言うアベル。そしてティアラも素直にその思いに答える。そんな二人のやり取りを、ジャックは微笑ましく、女性二人は、少し興奮し、期待を込めた目で見ていた。
「二人は袋の中身を確認してといくれ」
「ああ、わかった」
「はい!調合機材はどんなのだろう?素材の種類は?アベル手伝ってください」
「お、おう。ずいぶんと嬉しそうだなティアラ」
「えっ!だってもうしばらくは調合なんて出来ないと思っていたから……それにこれで私も、アベルや皆さんのお役に立てると思うと嬉しくって」
「あ〜〜〜お取り込み中に申し訳ないが、明日の朝も早い、とっとと休むぞ」
(((いいところなんだから邪魔するな!)))
一一ギロリ
「お、俺とナタリーが最初に見張りに立つから、ほ、他のみんなはゆっくりしてくれ」
「ちょ、ちょっと、リーダー私も中身見たいんだけど!ったく。仕方ない……いってきまーす」
全く間違った事は言ってない。言ってないのだが空気を読めないリーダーは仲間達からの視線で、その考えを読み取り、気まずくなって率先して最初の見張りについた。(逃げたともいう)
それに巻き込まれたナタリー。袋の中身に興味津々だったが、後で教えてもらおうと諦め、仕方なくイアンとは逆方向歩き始め見張りについた。
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