第9話 冒険者


「わかった、わかったから!それより自己紹介が先だろ?」


バツが悪く、仲間達に話を振るイアン。


「私はナタリー。職業は斥候よ、よろしくね」

「俺はジャック。重戦士だ」

「私はキーラ。魔導士でこのパーティーの頭脳って所よ。よろしくね」


イアン以外のメンバーが自己紹介をし、女性が二人もいることにティアラは安堵し、そして慌てて挨拶を返した。


「あっ!テ、ティアラです。よろしくお願いします」

「ははは、みんな相変わらずだな」


アベルは全員と顔見知りだ。彼らも冒険者。ここまで無傷で成り上がった訳では無い。各自、多かれ少なかれ冒険者ギルドで、アベルの治療の世話になった事がある。イアンとは同世代ということも有り、気さくに会話が出来る、数少ない友人の一人だ。その後、何回か旅の護衛を依頼したこともある。


「おいおい、俺の紹介を飛ばして終わらせないでくれるか?改めて俺はイアン、このパーティーのリーダーで魔法剣士だ。って言っても魔法はそれほどでもないけどな、っておい!俺の話を聞け〜」

「「ははははは」」

「「「ふふふふふ」」」


ナタリーとキーラは、ティアラに駆け寄りガールズトークに花を咲かせ、アベルはジャックと、お互いの近況を語り合っていた。しかし、ティアラを除いた皆は、イアンを雑に扱うがいつものこと、リーダーでありながら、イジられ担当のイアンであった。そして皆の息が整ったところで、


「真面目な話をするぞ」

「「ああ」」

「「ええ」」

「えっ!あっ、はい」


イアンがそういうと、各自、真剣な顔つきで彼の元に集まってくる。急に雰囲気が変わって驚くティアラも、返事をし急いで集合した。


「ここからはペースを落とす。予定では二日間夜営し、三日目の夕方には最初の街に付く予定だ。そこで用意された乗合馬車に俺達は護衛として同乗、護衛対象の二人は乗客として乗り込む。そこから北に向かうようギルマスから指示されている」

(((コクリ)))

(コクリ)


皆を真似るように、一拍遅れて後から頷くティアラ。その可愛らしい仕草に、ナタリーとキーラは頬が緩むのを我慢する。


「あ、あの……」

「どうした、お嬢さん?」

「村……私の村に行く予定は……どうなって?」

「ああ……それなら聞いている。ただ、もし追手が迫ったら、一度辺境伯領から出て後日戻る形になる。それは了承してほしい。先ずは二人を無事に領外へ逃がすのが最優先とギルマスからきつく言われているんだ」

「そうですね……わかりました……」

「すまないな」

「いえ……」


 当然のリスク管理だろう。ティアラの要望を叶えても、二人が捕まっては意味がない。あくまでも第一優先は二人を領外へ逃がす事と、依頼を言い渡された時に、きつくギルマスからイアンは言われていた。

 雰囲気が少し暗くなってしまったので、アベルは話題を変えた。


「イアン、薬の材料は預かってきたか?夜営時でも、街での宿泊時でもいいから、ティアラに調合する時間と場所を手配してくれ」

「ああ、それもギルマスから言われている。かなり腕のいい薬士だとか」


イアンの言葉に悲しい表情になったティアラは、自信無さげに答えた。


「いえ、まだ見習いの身です……」

「え〜ティアラちゃん調合出来るの?すご〜い!」

「すごいわね、もしかして魔力ポーションも調合できるのかしら?」


しかし、ナタリーは驚き褒めながら、キーラは期待に満ちた眼差しでティアラを見る。


「えっ!はい、下級の基本薬は全部作れます。魔力ポーションは、材料が無くて、まだ初級しかし作ったことがないですけど」


((((全部作れて何故、この娘は薬士じゃないんだ?))))

一一フルフル


事情を詳しく知らない四人組はその腕前で薬士じゃないことに混乱したが、ティアラから見えないように、後ろに下がったアベルが首を振っているのに気づき、疑問は一旦置いておくことにした。言えないことや、言いたくないことなのかもしれない。旅の途中に打ち解けたら、なにかの話してくれるだろう。その時を待つことにしてくれたようだ。


「中級からは質のいい魔力草が必要なのよね。それに薬士でも魔力操作に長けてないと難しいって聞くわ」

「そうですね。私は余り魔法の練習はしてこなかったので、難しいかも……」


キーラが尋ねると、悲しげに答えるティアラ。


「なら、私が旅の間に教えてあげる」

「えっ!いいんですか?」

「勿論!その代わり中級魔力ポーションが出来たら融通してほしいなぁ」

「もちろんです」


ならばと、キーラが提案すると食い気味で返事が帰ってきた。勿論打算もあるが、キーラは素直にティアラの力になりたかった。


「なら、これからよろしくね」

「はい、キーラ先生」

「先生?私が?あ〜〜〜〜なんていい響きなのかしら♪」

一一ギューーーーー

「くっ、苦しいです……」


そして先生という響きに嬉しさがこみ上げて、思わずティアラを抱きしめるキーラ。その胸にはさまれとても苦しそうだ。


「よし、話は後だ。出発するぞ」


再び隊列を組んで、一同は最初の街を目指して歩き始めた。



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