第5話 冒険者ギルド


 言わずとも知れた冒険者ギルド。通称何でも屋。街のお使いや素材の回収から、人に害なす盗賊や凶暴な魔獣や魔物の討伐まで、その仕事は多岐にわたる。


アベルは冒険者ギルドに到着するも、裏口へと回り、なるべく音を建てないように入る。そのまま従業員用の階段を上がり最上階の部屋へとたどり着く。扉の上にはギルドマスター執務室と書かれているが、それに気後れすること無く、気軽な調子でノックし声をかけた。


一一コンコン

「ギルマス、アベルです」

「入れ」

一一ガチャ


「家出したらしいな」

「はい……」

「これからどうするんだ?ウチの専属にもなるか?」

「ありがたいお話ですが……辺境伯領から出ていきます」

「そうか……わかった。今までご苦労。本当に助かった」

「いえ、そんな……」

「なら、護衛だな。それも口の硬い奴らで」

「お願い出来ますか?それと薬の原料となる素材のを少しだけ直接買い取らせてください」

「任せろ!少量だが一通り用意して護衛に持たせておく。俺は恩には恩を、仇には倍返しと決めている。」

「倍ってなんですか?」

「当たり前だろ?二度と人様に迷惑をかけないように心も体も折っておくぞ」

「流石というかなんというか……」

「それで領地外までか?」

「はい、それと途中寄っておきたい村があって」

「どこの村だ?」

「三ヶ月以内に魔物に襲われて壊滅した邑ってご存知ですか?」

「ああ……あそこか……もう瓦礫以外なにもないぞ……」

「生存者は?」

「いない……」

「そうですか……」

「寄り道はリスクが高い。行く意味が無いと思うが……」

「意味は……あると思います。多分……」

「そうか……」

「あっ!後、連れがいるので二人の護衛で、出来れば女性メンバーのいるパーティーでお願いできませんか?」

「わかった、任せろ。出発は?」

「出来るだけ早く」

「明朝に東門、夜明けと共に出発だ」

「わかりました。ありがとうございます」


アベルは冒険者ギルドでも治療士として仕事をしていた。稼ぎのいい冒険者からは、そこそこの額を請求し、不足の事態や下級冒険者からはギルドからの依頼で格安で治療を施していた。そのため彼に恩義があるギルマスは二つ返事で護衛を受けたのだ。そして、


「これは独り言だが、薬士ギルドから依頼があってな。なんでも三ヶ月以内に滅びた村の出身で見習いの少女が、その事を知ると逆上して師に怪我を怪我を負わせたそうだ。大怪我だったがポーションで回復し、事情も考慮して訴えないらしいが、その少女の捜索依頼が冒険者ギルドに来た。しかも成功報酬金貨一枚と破格だ」

「………………」

「余りにも破格の報酬過ぎるんで色々と調べて聞き込みもしないとな。それに俺達も忙しい。人探しなんかより、魔物や魔獣の討伐に、素材の採取やら護衛やらとな。掲示板に張り出すのは頑張っても早くて二週間後ってところだ」

「ありがとうございます」

「おいおい!独り言に礼なんて言わなくていいんだぞ」

「感謝しますギルマス」

「こっちこそ、いや、この辺境伯領都に所属する冒険者全員がお前に感謝している。今までありがとう」

「そんな、頭を上げてください」

「まぁ、ケジメってやつだ。明日は遅れるなよ?」

「はい、今までお世話になりました」

「達者でな。お前の人生だ。好きに生きていけ」

「お世話になりました」


 ここでも又、ギルマスと硬い握手をして部屋を出る。寂しさと申し訳無い気持ちを振り払い、アベルは宿へと帰っていった。

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