211.こだわりはないニワトリスたちと、絶品料理に舌鼓を打つ俺
ギルドの応接間で待ってろとスタンさんに言われたので、みなそこで待つことにした。
副ギルド長のウツフさんが疲れたような顔で俺たちにお茶を出してくれた。従魔たちにも水を入れたボウルを。ありがたいことである。
「今は船を出せないと思うんですが、魚を扱ってる店はあるんですか?」
手持無沙汰なのでウツフさんに聞いてみた。
「大手の商会であれば保管している可能性はあります」
「あー、そうですよね」
確かに、と思った。
シュワイさんみたいに時間経過のないマジックバッグを持ってるかもしれないしなぁ。そしたら市場の動向を見ながら放出したりするんだろう。
そうしているうちにスタンさんが戻ってきた。
そしてマジックバッグから大きな袋を出した。
「これでどうだろうか?」
袋の口を開けて羅羅に見せる。羅羅は袋の中の匂いをくんくんと嗅いだ。
「ふむ……全てよこすならば、少しぐらいシーサーペントとやらの肉を分けてやらんでもない」
羅羅が超偉そうである。思わず笑いそうになってしまった。羅羅がちら、と俺を窺う。
「僕にも見せてもらってもいいですか?」
「ああ」
スタンさんが持ってきた袋の中身を見た。4,50cmぐらいの魚が5,6匹入っている。これと引き換えでいいと羅羅が言うのなら、一人分ぐらいは分けようと思った。
「ちょっと待ってくださいね」
シーサーペントの肉は小分けにしたものとそれなりにでっかい塊を先に受け取ってある。小分けの最小は500gぐらいだったので、それを一包みスタンさんに渡した。
「えっと、他の人にはないしょにしてくださいね?」
他の人から同じ条件で交換してくれと言われても困る。今回は特例だ。
スタンさんはとても嬉しそうな顔でうんうんと高速で頷いた。
「オトカ、戻るか」
「はい。早く食べたいです」
素直に言うと、シュワイさんは笑んだ。
「そうだな」
だからそのイケメンスマイルを俺に向けられても困るんですってば。かっこいいし超いい顔してるなーとは思うけどときめきはしない。(俺はいったい何を言ってるんだ
羅羅の鼻息も荒いので、さっそくみんなで宿に戻ることにした。
「使ったことがない食材だからな……」
そう言いながらシュワイさんがキッチンでシーサーペントの肉を一部切り分ける。
「まずは焼いてみるか」
「はい」
俺は助手として横に。その側で従魔たちがうろうろしている。ピーちゃんは羅羅の上だ。セマカさんとリフさんはソファでぐでっとしていた。ギルドから宿まで、羅羅がかなりのスピードで走ったからである。一応俺が具合悪くならない程度の速度ではあったけど。
さて、シュワイさんによるシーサーペントクッキングである。
薄く切ったシーサーペントの肉を軽く焼き、それを切って俺に半分分けてくれた。こういう味見も大事なんだなーと思う。
「うーん、ちょっと水っぽいですねー。でもおいしいです」
「茹でるよりは油で焼いて食べる方がよさそうだな。衣をつけて揚げるか」
「おいしそうです!」
水っぽいけどけっこう弾力があるので、あまり分厚く切らない方がよさそうだった。筋肉がすごいのかも。
「おまたせー」
従魔たちには大きく切り分けて宿の庭であげることにした。羅羅にはスタンさんが買ってきたらしい魚も出す。ピーちゃんにもシーサーペントの肉を一切れ出したが、「ウマーイ、イラナーイ!」と言われた。やっぱりピーちゃんがわからない。ピーちゃんには野菜をあげた。
「もう昼飯にするか?」
「シーサーペントを味見する程度でいいですかねー?」
「どっちでもいいぞ」
「任せるわあ」
シュワイさんの提案に、俺たちはそう答えた。
「試しに調理してみよう」
シュワイさんも気になるらしく、シーサーペントを薄く切ったものに下味を付け、小麦粉をまぶした物を溶き卵に付けて油で焼いたりしていた。なんかピカタみたいな料理だなと思ったけど、卵を使うピカタは日本独自なんだっけ? 自分たちがおいしいように魔改造していくのもいいところだよなと思ったりした。
さて、そうしているうちにシーサーペントのピカタ(?)が何枚も焼かれて出てきた。俺はその間に野菜を軽く茹で、水でしぼったお浸しのようなものを用意する。茹で汁にはキノコと別の野菜を入れてスープにした。これにパンを付ければ立派な昼食だ。
「セマカさん、リフさんも、できましたよ」
「おー! うまそうだな!」
「おいしそう!」
お浸しには塩胡椒と酢、油を混ぜたドレッシングをかけた。醤油ほしい醤油。そういえばここって海沿いの地域なんだから魚醤とか扱ってないのかな? 匂いはかなりきついけどうまいんだよなー、あれ。
みなで手を合わせてシーサーペントをいただいた。
「うっま!」
「これっておかわりあるか!?」
「おいしーい! シーサーペントってこんな味がするのねえ」
シュワイさんの料理の腕もそうなんだろうけど、調理されたシーサーペントの肉は絶品だった。油で両面焼かれたピカタ(?)は噛み応えがあり、思ったよりジューシーだった。魚なんだけど鶏のようで、肉汁もすごい。今までに食べたことがないような食感だった。
「ああ、あるぞ」
シュワイさんは沢山焼いてマジックバッグに一旦しまったらしい。
三枚目を食べていたら、クァアーッ! と俺を呼ぶ声がした。食べ終わったのかな?
「ちょっと見てきますね」
「ああ。まだあるから急がなくていい」
「はーい」
勝手口から庭に向かうと、みな満足そうだった。キレイに平らげられている。
「どうだった?」
「うまかった」
「オイシー!」
「オトカー!」
「オイシー」
という返事があった。ピーちゃんは野菜を食べてました。
「それならよかったー」
みなに浄化魔法をかけて食器を片付ける。そうして俺はごはんに戻った。羅羅とニワトリスたちが俺の側でキラキラした目をして待っていたので、ピカタを少しずつあげたのだった。
次の更新は、14日(月)です。よろしくー
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます