210.不満そうなニワトリスたちと、ヒントをあげる俺

「またなんか狩ってきたのか!?」


 ギルド長のスタンドルギさんが目を剥いた。

 そうだよねー、普通はそういう反応だよねー。くっついてくるクロちゃんをなでなでしながら俺は遠い目をした。


「ああ、うちのニワトリスがサメを狩ってきた」


 シュワイさんがギルドの応接間でさらりと答える。シュワイさん、って言った。まぁもう身内だけど。


「そ、そうか……すげえな。獲物を見せてもらうことはできるのか?」

「解体を頼むつもりだから、裏の倉庫でならかまわない」

「じゃあ行くか……」


 スタンさんは疲れたような顔をしていた。


「Sランク冒険者パーティーだから規格外なのか? ニワトリスとかブルータイガーが従魔の時点でなぁ……」


 スタンさんがぶつぶつ呟いている。シュワイさんの肩に乗っているピーちゃんが、「ピーチャンモー、オトカ、ジューマー!」と主張していたが、スタンさんは聞いていなかった。ピーちゃんはぷりぷり怒っている。あとでピーちゃんをねぎらっておこうと思った。

 倉庫に顔を出すと、獲物の解体しているおじさんたちがいぶかしげな顔をした。


「おいおい? まだ解体終わってねーぞ?」

「追加を持ってきたんですけど、大丈夫ですか?」

「大丈夫なわけねえだろ!」

「デスヨネー」


 シーサーペントらしき物をギコギコと切っているのが見える。切るのもなかなかたいへんそうだ。胴体かなり太いし。骨も太そうだけど切れるのかなぁ。


「獲物を見てから判断してくれねえか?」


 スタンさんが疲れた顔でおじさんたちに提案した。


「見なくたってここに来る時点でわからあ」

「見ないと解体にどれぐらいかかるかもわかんねえだろ?」

「見るだけだぞ!」


 なんて交渉をし、倉庫の床に大きめのシートを敷いてもらったところにシロちゃんからサメをどどんと出してもらった。


「……でけえな」

「見なくてもわかるだろーが!」


 スタンさんの呟きに、おじさんたちが即ツッコんだ。楽しそうだなと思った。(超他人事


「しっかしサメまでなぁ……どうやって狩ったんだ?」


 その質問に、シュワイさんはとても嬉しそうにシロちゃんが狩った様子を話した。シュワイさんにはシロちゃんの一連の動きが見えていたらしい。ピーちゃんも風魔法を使って牽制していたとか。俺にはわからなかったけど、ピーちゃんもやっぱり相当強いみたいだ。

 うん、強いよな。(遠い目


「……ニワトリス、パねえな……泳げるたあ知らなかった」

「私も知らなかった。オトカは? 知ってたのか?」

「知りませんでしたよ……」


 そもそも俺が住んでた村にはそんな深い川もなかった。基本森の中を駆け回っていたから川にはあんまり寄りつかなかったしな。行ったとしてもせいぜい浅瀬でパシャパシャしていたぐらいだ。そもそも俺、泳げないし。


「ニワトリスの新たな能力が知れたわよねえ」


 リフさんが楽しそうに言う。俺は頷いた。

 しっかしバタフライをするとは思わなかった。両方の羽をザバアッと前に動かして羽で水をかく動きといい、尾を縦に動かす様子はドルフィンキックを彷彿とさせた。あれはどう考えてもバタフライだった。


「あんな泳ぎ方見たことなかったけどなー。鳥が泳ぐとああなるのか?」


 セマカさんが首を傾げる。

 普通鳥は泳がないと思う。ペンギンとかは別だけど。こっちの世界にもペンギンていんのかな?

 今日サメを解体することはできないということで、またシロちゃんにしまってもらった。シロちゃんは不満そうにむーっとしている。

 そうだよね。解体してもらうつもりで持ってきたのに持って帰れなんだもん。


「すみません、シーサーペントの肉って先に一部受け取ることってできます?」

「あー、邪魔だからいいぞー」


 でかいから切り分けた肉を置いておくのも邪魔だったらしい。先に解体の費用だけ払い、すでにできている塊肉を受け取ることにした。

 どんどんどーんと出てきた。一部とはいえすごい量である。これだけあれば従魔たちの三回分ぐらいのごはんになりそうだった。


「な、なぁそれって……味見とかさせてもらうことは……」


 スタンさんにおそるおそる声をかけられて、俺は羅羅を見た。


「対価をよこせ!」


 羅羅がキッとスタンさんを睨んだ。

 うん、羅羅的には待ちに待った海の魔物だもんな。おいしいといいよね。

 シロちゃんとクロちゃんはすでに涎を垂らしている。見ただけでおいしいかどうかわかるみたいなんだよな。涎が出てるってことはシーサーペントって相当おいしい? これは期待できるかも。


「対価……対価か……」


 スタンさんが悩んでいる。交渉相手が従魔だってことはわかっているみたいだ。


「羅羅って、魚が好きなんですよねー」


 だから何気ない素振りで言ってみた。


「そうか、魚か! 応接間で待ってろ!」


 スタンさんはそう言うや否や、すごい勢いで倉庫を出て行った。

 どっかから魚を買ってくるつもりかな? 売ってるといいけど。昨日も一昨日も市場で見なかったんだよなー。それとも他に購入のツテがあるとか? とりあえず肉も受け取ったし移動することにしよう。

 羅羅を見ると、目を丸くしていた。ぽかん、としているかんじでちょっとかわいいなと思ったのだった。


次の更新は、10日(木)です。よろしくー

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