212.おなかいっぱいで満足なニワトリスたちと、これからどうしようか考える俺

 魔物の肉だからとか関係あるのか知らないけど、シーサーペントの肉には臭みが全くなかった。


「臭み、ないですよねこれ。ジャイアントモールには少し臭みがありましたけど」

「そうだな。魔物は強い個体ほど嫌な臭いやクセがなくなるようだ」

「じゃあやっぱ強い個体の方がうまいんですね……」


 そりゃあグースの肉をうちの従魔たちが嫌がるはずだ。従魔たちにはあんまり肉の臭みとか関係ないかもしれないけどさ。


「シロちゃん、クロちゃん、羅羅はさ、肉の臭みとか気になる方?」

「クサミー?」

「オトカー」

「知らぬな」


 シロちゃんはコキャッと首を傾げ、クロちゃんは通常運転で、羅羅は怪訝そうな顔をした。やっぱり気にならないのかもしれない。それとも言い方か。

 ピーちゃんもピカタ? は気になったらしく一口摘まんだ。


「オイシー! イラナーイ!」


 おいしいけどいらないって面白いよなぁと笑った。


「あー、うまかった!」

「オトカ君たちから絶対に離れられないわねえ」


 セマカさんが満足そうに腹をさすり、リフさんが笑う。リフさんはよく俺たちから離れられないって言うけど、なんとなく自分に言い聞かせているかんじがする。

 髪の色がコンプレックスだったみたいなこと言ってたから、まだ不安定なのかもしれない。

 ただそれは俺が考えることじゃなくて、セマカさんが気づいて包んであげてほしいな。

 セマカさん、イケメンてほどじゃないけど普通にいい男だし、リフさんは美少女だしなー。俺にとって理想のカップルなんだから側で見守らせてほしい。

 そうか、これが”推し”か!

 十歳にして気づいてしまった。

 推しの幸せは俺の幸せだよな。

 うんうんと頷いていたらクロちゃんが、「オトカー?」と不思議そうに首をコキャッと傾げて俺にくっついてきた。ああああもうクロちゃんかわいいいいい! 推しも大事だけどうちの子最高! つーか、うちの子ラブも推しじゃね?

 とはいえあんまりデレデレした顔をさらすのもいただけない。


「クロちゃん、片付けするからちょっと待っててねー」

「オトカー」


 ぎゅっと抱きしめて椅子から立ち上がると、クロちゃんはとても嬉しそうに俺を呼んだ。本当にかわいくてこのままクロちゃんに埋もれたい欲求にかられた。

 いや、片付けが先である。

 みんな食べた食器は各自流しに運んでくれるのが助かる。うちの父さんはふんぞり返ってたもんな。兄妹はみんな運んでたけどさ。

 ざっと食べかすなどを取ってから浄化魔法をかけるとお皿がピカピカになる。食べかすとか落とさなくてもいいかもしれないけど気分的な問題だ。


「これからどうしましょうかねー」


 まだ海に船は出せないだろうから、漁なども無理だろう。あ、でも釣りはしていいんだっけ?

 少なくとも今日明日は様子見するだろうから依頼料も受け取れないしな。いや、金には困ってないけど。


「オトカはなにかやりたいことはあるか?」


 シュワイさんに聞かれて考える。


「えっと、釣りはしてもいいんでしたっけ?」

「そういう話にはなっていたな」

「そういえばシルバーのみなさんて、今何やってるんですかね?」


 シーサーペントのことがなんとなく落ち着いたら、一緒にこの町に来た冒険者パーティーのことが気になった。彼らはこの町で何をしているんだろう?


「そうだな。訪ねていなかったら、海へ向かえばいいだろう」


 シュワイさんに言われて頷いた。せっかく知り合った人たちなんだから、ここにいる間ぐらい仲良くしたい。

 というわけで、みんなでシルバーが泊まっている宿へ向かった。

 俺たちが泊まっているホテルは一棟一棟で分けられているので建物の高さはそれほどない。シルバーが泊まっている宿は四階建てなのでちょっと圧迫感があるなと思った。

 セマカさんが宿の受付に声をかけると、宿の人がシルバーに声をかけてくれた。

 どうやら部屋にいたらしい。


「よっ! シーサーペントを狩ったんだって? 上がってくれ!」


 嬉しそうな顔をして降りてきたのはタンク役でがたいのいいマウンテンさんだった。情報は回っているらしい。遠慮なく最上階のフロアへ。

 以前も言ったと思うが、シルバーはこの最上階のフロア全体を貸し切りにしているのだ。


「よく来てくれたな」


 リーダーのウイングさんは広い居間のソファに腰掛け、機嫌よさそうに俺たちを迎えてくれた。ソファに座るよう促されたので、ソファの後ろで羅羅が寝そべった。シロちゃん、クロちゃんは羅羅に乗ったままである。ピーちゃんはシュワイさんの肩に飛び乗った。

 ボウさんがお茶を淹れてくれた。


「シーサーペントを狩ったと聞いたぞ。どうやったんだ?」

「……オトカの従魔とごり押しした」


 ウイングさんの問いに、シュワイさんは端的に答えた。まぁ、確かにそれが一番合ってるとは思う。


「従魔って海、泳げるもんか?」

「インコ以外は泳げる」

「へえ……」

「ピーチャン、オヨゲナーイ! トベルー!」


 ピーちゃんが羽を広げてアピールする。


「飛べるのすごいよねー」


 そう言って褒めれば、ピーちゃんはシュワイさんのところから俺の元へ飛んできた。膝に止まったからなでなでする。タカぐらい大きいんだけど、うちの従魔の中では一番小さいもんなー。一番年上だけどかわいい。


「ニワトリスも泳げるのかよ。ハンパないな」

「もしかしたらオトカの従魔だけかもしれないがな」

「ああ、その可能性もあるのか」


 基本ニワトリスって森とか山で遭遇する魔物みたいだし。シロちゃんはいったいどうやってあの泳ぎを体得したんだろーか。永遠の謎だ。今度聞いてみよう。

 シロちゃんのことだからなんとなくっぽいけどな。身体を使うセンスは最高によそう。

 シーサーペントを四頭狩り、サメもさっき一頭狩ったことを伝えたらものすごく驚かれた。


「すごいな……」

「海にはそろそろ入れるようになるのかしら?」


 ホワイトさんに聞かれて、「おそらくは」と答える。


「えっと、でも釣りならしていいって言われました」


 そう伝えたら、マウンテンさんとボウさん、フォックスさんの目の色が変わった。

 もしかしたら退屈してたのかもしれないと思ったのだった。


次の更新は、17日(木)です。よろしくー

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