151.張り切るニワトリスたちと、いいかげん羅羅から下りたい俺

 ……この町に来てから何日ぐらい経ったんだっけ?

 ホテルには何日でも滞在してほしいようなことを言われたから、もう数えるのを止めてしまった。ま、いっか。

 翌日はまたみんなでキールダンジョンに向かうことにした。わざわざ料理長が見送りに来た。


「無事のお戻りをお待ちしております!」


 バッと頭を下げられた。その頭をピーちゃんがつんつんとつついた。珍しいこともあるものだと思った。


「オイシー、ヤサイー、モットー」

「あっ? インコ様にはお野菜ですね! 腕によりをかけてご用意させていただきます!」


 料理長が肉ばかり注目しているから、ピーちゃん的には不満だったのかもしれなかった。


「すみません、うちのインコが」

「いえいえ、お客様のおかげでいろいろな食材を調理させていただけるのです。がんばってください!」


 料理長の目はキラキラしていた。


「ははは……」


 何をがんばれと言うのか。やっぱり狩りか? 狩りなのか?

 そんなことを考えているうちに俺は羅羅ルオルオに乗せられたままキールダンジョンへと運ばれていった。なんでホテル内を歩く時も羅羅に乗っていなければいけないのか説明を求めたいんだけど!

 俺の前にいるクロちゃんを抱きしめているのが癒しだ。クロちゃんは定期的に、


「オトカー」


 と俺の名を呼ぶ。いつ聞いてもハートだの音符だのが飛んでいそうだ。クロちゃんがとってもかわいいです!

 そんなかんじで現実逃避をしている間にダンジョンの近くに着いた。ここで早めのお昼ご飯を食べてから中に入る予定だ。


「……珍しいな」


 シュワイさんが呟いた。


「確かに」

「あら、誰かいるわぁ」


 誰かがいることを珍しいと思えてしまうぐらいこのダンジョンは人気がないみたいだ。


「ああ、なんだ。冒険者か」


 そこには衛兵と思しきかっこうをした男性が四人いた。町の衛兵とは考えずらいから、偉い人の私兵とかなんだろうか?


「お前たちはこのダンジョンの探索をしに来たのか?」

「そうだ」


 そう聞かれて、シュワイさんが一番偉そうな人に向かって答える。


「そうか。我々はこのダンジョンに出るというレインボーディアーを求めてきたのだが、見たことはあるか?」


 れいんぼうでぃあ?

 そんな生き物がいるのか。見た目がレインボーだったらまずそうだなと思った。レインボーキノコはうまいけど。


「いや、話は聞いたことがあるが私はないな。お前たちはどうだ?」


 シュワイさんがセマカさんとリフさんに聞く。二人は首を振った。ってことはレアな魔物なんだろうか。


「……そうか。もし、だが……探索中にレインボーディアーを見つけたら生け捕りにすることは可能か?」

「……生け捕りは難しい。倒したのを売ることは可能かもしれないが」


 シュワイさんと話をしている以外の人たちは、俺たちを見てひそひそと何やら話している。従魔の首輪があるから敵対はしないだろうけど、こういうのって煩わしいよな。


「……もし倒したとしても売っていただきたいが、できれば生け捕りにしたいと考えている」

「何故?」

「それは伝えられん」

「わかった」


 シュワイさんが戻ってきたので、お昼ご飯を食べてからダンジョンに入った。彼らは俺たちより一足先に中へ入ったみたいだった。


「レインボーディアーなんているんですね」

「あくまで噂だがな。少なくとも私はここに何度か入ったことはあるが見たことはないんだ」

「それじゃわかりませんよねー」


 噂とかなんだろうか。

 俺が羅羅に乗っているのは変わらないがダンジョンの中なので、シロちゃんとクロちゃんは羅羅から降りている。

 そして襲ってきたワイルドボアや、ブラックディアーなどはシュワイさん、セマカさん、リフさんとシロちゃんで軽々と倒してしまった。

 シロちゃんなんて暴れたりないみたいで尾をぶんぶん振っている。こわい。


「シロちゃん、誰かに当たったらたいへんだから尾は振らないよ~」

「ワカッター」


 こういうところは聞き分けがいいんだけど、十分もしないうちにまたぶんぶんと尾が揺れ出すからひやひやした。


「……やはり多いな」


 二時間ほど進んだだろうか。いろんな魔物が襲ってきた。俺はただそれに対して神経を研ぎ澄ませることしかしていない。ダンジョン見学はいいけど、俺は何もしなくてもいいんだろーか。

 少し開けたところに出た。


「休憩するか」

「ふー……」

「オトカ君、コップ出して~」


 芝生のようなものが生えている場所で、みな座った。リフさんに言われて木のコップを出すと、そこに水魔法を使って水を入れてくれた。


「ありがとうございます。従魔たちにもお願いできますか?」


 洗面器のような器を四つ出せば、リフさんはにこにこしながら水を出してくれた。水魔法持ちって羨ましいよなぁ。

 一応水筒は持ってきているけど、魔法がなかったらその水だけで過ごさないといけないんだもんなー。


「うむ、うまい」

「アリガトー」

「オトカー」

「アリガトー」


 うん、ちゃんとリフさんに礼を言うシロちゃんとピーちゃんはいい子だ。もうクロちゃんに対しては諦めている。


「どういたしまして」

「やっぱり魔物の数って多いですか?」

「多いな」


 調査も兼ねて来ているけど、なんで魔物の数が多いのかはわからない。獲物が多いのはいいことだけど、何かが起きているのかと思うと喜べない。


「そろそろ進もう」


 シュワイさんが立ち上がる際に俺の手を取って立ち上がらせてくれた。


「はい。俺、そろそろ羅羅から下りてもいいですかね? 羅羅も狩りがしたそうなので……」

「それもそうだな。なら羅羅は私の横に来てくれ」

「うむ」


 シロちゃんも前に行く。俺のことは置いて行ってもいいと言ったら、ピーちゃん、リフさん、クロちゃんが俺と一緒に進むことになった。


「え? いいんですか?」

「今日はもう十分倒したからいいのよぉ」


 リフさんは満足そうにそう答えたのだった。


次の更新は、16日(月)です。よろしくー

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